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第53話 「2日目15時30分」

20170921公開


 俺はクマもどきを相手に、ひたすらボクシングをしていた。

 スタイルはファイターだ。

 俺の本来のスタイルは、インファイトとアウトボクシングの両方をこなすボクサーファイターだが、今はインファイト一辺倒だ。

 アウトボクシングをしようにも手が届かない。

 勿論、序盤戦の様にブレスオンリーでアウトボクシングは可能だが、それではコイツは倒せないし、アウトボクシングに徹すると逃げに入るのが分かっているから、どの道、その戦法は捨てざるを得ない。

 それに、膨大なクマもどきの生体エネルギーが産み出す防護膜は相変わらず強固だが、それでも無効化に成功しつつあるしな。



 後ろ足立ちから前倒しになりながら放って来たクマもどきの左前足の薙ぎ払いをスウェーバックで躱し、クマもどきの左側に飛び込んで左足の付け根近くのボディに右フックを叩き込む。叩き込んだ瞬間には足を使って離れる。

 右前足を吹き飛ばされた為に4つ足状態では不安定になってしまうクマもどきが、たたらを踏んで倒れるのを堪えている隙に、もう一度飛び込んで左フックでさっきの場所より更に真ん中寄りを思いっ切り叩く。

 身体強化分を上乗せした、腰の入った良いボディがボディに突き刺さる。

 立ち上がりながらのバックブローが飛んで来る前に、今度は右フックを左フックと同じところに更に叩き込む。

 こちらに身体の向きを変えながら放って来たバックブローをダッキングで躱して、無防備になった瞬間に更に左フックで叩く。

 

 この異世界の生物も地球の生物に近い身体構造をしている。

 呼吸器官としての肺が胸腔内に有り、消化器官としての内臓が腹腔内に収まっている。

 まあ、どうでもいいが、もし虫の様な生物に転生していたら、下手すれば『被災者』はどうやって呼吸すればいいのか分からずにすぐに死んでしまうのではないだろうか?

 話が逸れたが、身体構造が同じという事は、実は俺にとっては有利な事だった。

 ボクシングをやっていた時代に培ったセンスが流用出来るからだ。


 ボクシングでボディ打ちが上手い選手は、相手選手の呼吸を捉える感覚が鋭い事が多い。

 理由は、息を吸っている時と吐いている時ではボディ攻撃に対する耐性が違うからだ。

 息を吸っている時は肺が膨らんで横隔膜が下がる。

 その時の内臓は抑えつけられるので密集状態になる。

 息を吐いている時は肺もしぼんで横隔膜が上がる。内臓の密集状態は解かれて余裕が出来る。

 では、それぞれの瞬間にボディを喰らった時のダメージはというと、息を吸って内臓が密集した状態の時に打たれたダメージは逃げ場が無い為に効くのだ。

 対して、息を吐いている時は隙間が有るので衝撃が分散し易く効き難い。

 まあ、その他にも打たれる瞬間に腕でガードをしたり、パーリングしたり、筋肉を締めたりしてダメージを低減させる事もするが、そんなのに関係無く効くパンチを放つ強打者も居る・・・ 



 右前足を早期に無力化した事は俺に余裕をもたらした。

 考えれば分かる。

 クマの様な身体をしているという事は、クマもどきの攻撃の種類が限られるいう事だ。はっきりと言って攻撃手段が乏しいという事に繋がる。

 前足を使った攻撃と、イノシシに似た口から飛び出る様に生えている牙を使った噛み付きと、頑丈な前頭部による頭突き、それと身体全体を使った体当たりだ。まあ、小柄な俺にとってはし掛かりが1番避けたい攻撃だが。

 ここまで言えば分かると思うが、クマもどきには足技が無いのだ。

 勿論、出そうと思えば出せるだろう。

 だが、惜しむらくは後ろ足が短い事によってさほどの脅威では無い。

 まあ、それでもクマもどきの攻撃はどれも1発当たれば深刻なダメージを喰らう威力を秘めている。 


 それに対して、猫もどきの俺は『走攻守』で言うと、『走』しか上回る事が出来ない。

 攻守は共に見劣りする。

 攻撃力で言えば、ブレスさえもジャブ代わりにしか使えない。

 ブレスだけで勝つには、右前足を吹き飛ばした様に幾つもの段階を踏む必要が有る。

 生体エネルギーで強化された剛毛を突破出来たとしても、皮膚と脂肪層と筋肉層という多層的な素材による防御力が待っているからだ。

 確か今の戦車も鋼鉄だけでなくセラミックを使った複合素材を採用しているから、考えたらクマもどきは最新の装甲と同じ様な構造を持っている訳だ。

 それらを破る事は並大抵の攻撃では無理だし、右前足を吹き飛ばした攻撃は剛毛が邪魔して再度仕掛けるのも厳しい。

 

 そんな装甲を持つクマもどきに攻撃を通す為に、俺がやっている事は生体エネルギーを使った攻撃だった。

 下手をすれば殴った俺が拳を痛めてしまう為に拳を生体エネルギーで強化する事は当然だが、その外側に違う位相の生体エネルギーを纏わせている。

 元は長さ20㌢にもなる不可視の爪だ。それを試行錯誤しながら変化させて、クマもどきの生体エネルギーを無力化させる位相に変化させる事にやっと成功した。

 それを成し遂げる為に100発を越えるパンチを叩き込んだ俺を自分で褒めてやりたいくらいだ。

 


 左足の付け根付近に立て続けに4発のフックを喰らったクマもどきの呼吸が乱れた。

 意識もそこに向いたせいで、他の場所の生体エネルギーが必然的に薄まる。

 左前足のバックブローを空振りしたせいで、身体が大きく開いている。棒立ち状態と言って良い。

 無防備になった事で、無意識だろうが、ダメージを受けた箇所を隠す様に腰が引けた。

 咄嗟に攻撃を仕掛けようとして、クマもどきが選んだ選択肢は顔を振ってぶつけて来る事だった。

 右前足が無傷なら選ばない選択肢だが、これまで苦戦した事が無かっただろうクマもどきには焦りも有ったのだろう。

 まあ、まともに貰えばかなりのダメージを受けるが、むしろカウンターのチャンスだ。

 まともに横っ面を打てば強化していても拳を痛める可能性が有るので、敢えて鼻面の先っぽに右のフックを当てて、振り抜いた。

 多少窮屈になるが、構わずに左のアッパーで追撃する。

 2発とも綺麗に打ち抜けたおかげで拳は無事だ。

 右フックを更に今度は横っ面に叩き込んで、意識を半分刈り取った段階で真正面からブレスを至近距離から放った。



 クマもどきの目と目の間に直径1㌢の穴が開いた・・・




お読み頂きありがとうございます。

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