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第52話 「2日目15時18分」

20170917公開


 身長が4倍の生物という事は、人間の時の俺を基準にすると7㍍を超える怪物だ。

 下手すれば一戸建ての家に匹敵する高さだ。

 日本に居た時にもし遭遇したら、一瞬で死を覚悟せざるを得ない存在と言える。

 まさに怪物だ。


 そんなクマもどきが、7㍍先で怒り狂った目で俺を見ている。

 さっきまで4本足状態で飛び込んで来ようとしていたが、飛び込もうとするタイミングで俺がブレスで機先を制し続けたものだから、かなり苛立って今は後ろ足で立ち上がって俺を威嚇している。

 まさに『出鼻を挫く』をなぞる様に、ブレスを鼻先に集中して放ったせいで、ヤツのちょっとイノシシに似ている鼻から血が出始めていた。

 脆い種類だったとはいえ、河原の石を砕く威力のブレスを10発以上まともに喰らってその程度だ。

 正直なところ、ここまで堅いと思わなかった。


 だが、収穫は有った。

 コイツも生物の範疇に収まっている。

 出血した事もそうだが、痛みを感じる神経を持っている事、やり様によってはバランスを崩させる事が出来る事、身体強化のレベルに濃淡が有る事、意識が鼻先に偏った事、そして怒りで冷静な判断を失った事などだ。

 そして、この後にコイツが取る戦法も分かっている。

 中途半端に反応するから突進力が活かせないと考えただろう。

 では、打開策をどうするのか?

 被弾しても構わずに突進すればいいという結論に辿り着いた筈だ。

 少し後ろに下がってから立ち上がったのがその証拠だ。顔を遠ざけた状態から前に倒れ込む勢いを使って初期加速をする。

 被弾覚悟で、さっきまで一方的に攻撃を受けていた距離を一気に詰めて、自分の攻撃が当たる距離に近付く積りだ。

 そうして初めてコイツが得意とする距離で戦える状況に持ち込めると考えているだろう。

 まさにファイタータイプのボクシングスタイルに似ている。

 まあ、ボクサーの場合はフェイントを使ったり、ジャブを使って相手を牽制すると同時に距離を測ったりして飛び込むタイミングを計る。

 その他にも、頭を振ったり、ガードを固めたりして被弾しない様にもするが、コイツはそれをしないだろう。

 怒りで染まった頭のなかで、勢いでなんとか出来ると考えている筈だ。


 クマもどきが動いた。

 それに合わせて、俺もジャブ代わりのブレスをわざと弱目に鼻先に放つ。

 当然だが、威力の落ちたブレスでは止まらない。

 一気に距離が縮まった。

 クマもどきが俺に飛び掛かろうとする。

 下敷きになれば逃げる事は不可能だ。

 俺が横に逃げられない様に両手を広げた。

 もう1度、弱目にブレスを鼻先に放つ。

 当然、効き目はない。だがクマもどきが顔面に意識を集中したタイミングで俺は本命のブレスの第1弾を放った。


 通常、この猫もどきが本能のままで放つブレスは、5㌢くらいに収束する。

 それを俺は使い勝手を上げる為に試行錯誤をした結果、10㌢や20㌢、果ては碌な収束をせずに散弾銃の様に飛んで行くブレスまで使える様になっている。 

 では、逆に収束率を上げればどうなるのか?

 結果としては貫通力が上がる。

 まあ、これまで遭遇した種族は身体強化の能力を持っていなかったので、試し撃ち以外では使った事は無い。

 クマもどきの意識が鼻先に集中していたせいで、生体エネルギーの分布が薄くなっていた右手上腕部に速度を上げた上に2㌢にまで収束させたブレスが当たる。

 最初に放ったブレスで剛毛が無くなった右手上腕部の肌にブレスが食い込んだ。

 すかさず全力で第2弾を撃ち込んだ。撃った瞬間には慣性制御の能力も含めた手段を総動員して後ろに自分の身体を吹き飛ばした。俺の目の前1㌢先をクマもどきの左手の爪が通り過ぎる。怖えぇ。こんなの喰らったら、身体強化を掛けていても、無事に済む筈が無い。

 ぽっかりと開いた2㌢の穴に俺のブレス第2弾が食い込んだ瞬間、クマもどきの右腕が吹き飛んだ。

 

 手加減無しで跳んだせいで、着地は5㍍後ろだった。

 勢いを殺したので転ばなかったが、裸足だった俺の足が作った溝は1㍍を超えていた。

 問題はクマもどきだが、右腕を吹き飛ばされたせいでバランスを崩したものの、すぐに俺への追撃に移っていた。

 さすがとしか言いようが無い。

 俺が停まったこの一瞬は距離を詰めるチャンスだからだ。

 腕で倒さなくても押し潰せばヤツの勝ちだ。

 それにヤツにしたら、俺に距離を取られる事はこれから先はやられ放題になる。

 なんとしてでも距離を詰めるしかない。

 さもなければ、逃げるかだ。



 だが、俺もせっかく掴んだ勝機を逃がす訳には行かない。ここで仕留めるの一択だ。

 クマもどきをここで倒さないと、いつ森で再遭遇するか分からないからだ。

 まだ森の中で救助を待っている『被災者』が居る限り、森での安全を上げるチャンスを逃す訳には行かない。

 


お読み頂きありがとうございます。

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