第50話 「2日目14時55分」
20170912公開
昼食を摂った後、再び森に潜ってから30分後に発見出来た『被災者』は大人1人、子供2人の3人組だった。位置は拠点からまっすぐ東の方位だ。
全員が生き残ってくれていた。
大人は山口直美さん・茶ポメ、子供は浅田大輝君・茶ポメ、木下ひまりちゃん・白ポメだった。
こちらも子供2人が持っていた2台のキッズケイタイの防犯ブザーを交互に鳴らしていたそうだ。
もっとも、今は両方ともバッテリーが切れてしまって、鳴らせなくなっていた。
子供たちの親は両方とも森の中で亡くなっている。
2人とも親を見なかったか? と訊いて来たが、俺は首を振っただけで直接には応えなかった。
今、この場で本当の事を知らせるメリットが少な過ぎる為だ。
これから森を横断するのだ。
今も遠巻きに囲んでいると思われる猿もどきどもの襲撃を警戒するなら、一刻も早く森を抜ける必要が有る。親の死を知った2人が愚図って移動に支障が出るのは避けたい。
不安に駆られる子供たちを励まして来た山口さんの子供は未だ発見されていない。
俺は彼女の質問にも、子供たちの質問に応えたように首を振った。
「さっきも言った様に、この森には危険な動物がたくさん居るからそろそろ移動しましょう。お腹も空いたでしょう? みんなが居る場所ではきっと食事の用意が出来ていますよ」
3人が水筒から水を飲み終わったタイミングで俺は声を掛けた。
昨日の朝食から食事をしていないのだ。
俺の言葉に、3人は目を輝かせた。
可能ならば、発見した『被災者』にすぐに何かを食べさせて上げたいのだが、肉食の種族が多数生息する森の中では、食糧を持ち歩く事そのものが襲われる危険性を増す行為になる。
誰か弁当箱かタッパーを持っていれば良かったのだが、給食が出る小学校にそんなものを持って来ている人間など居る筈も無かった。
本当なら、俺が着ている服に付着したトリケラハムスターの肉の匂いも落としたいのだが、着替えが無い状況ではそれも叶わない。
特に問題に遭遇する事無く、森を抜け出せた。
後は真っ直ぐに西に向かえば拠点に辿り着ける。
3人の表情にも安堵感が浮かんでいる。
ついでにこの世界のトリビアも披露しておこう。
知っておいて損は無い。
「ここまで来たら、後はトリケラハムスターという動物に気を付ければ大丈夫でしょう。60㌢くらいの大きなハムスターぽい動物ですが、恐竜のトリケラトプスの様な2本の角を生やしています。これが結構凶暴なんですよ。万が一遭遇しても、真っ直ぐにしか突っ込んで来ないので、冷静に横に避ければ逃げられます。村田新君はそうやって逃げ切れましたよ」
田中孝志君と大村加奈さんという被害者が出た事は言わない。
今は伏せるしかない。
拠点に着いて、食事をして落ち着いてからまとめて説明をする方が良い。
「実は、そのトリケラハムスターのお肉が美味しいんですよ。高橋歩君、笹本小春ちゃん、藤田あかりちゃんの3人なんか、初めて食べた時に美味しいから神戸牛に違いないと言いながら食べたくらいですから」
山口さんがクスっと笑った。
そして、小さな声で「それは楽しみです」と言った。
大輝君とひまりちゃんの2人は早く食べたいのか、歩く速度が上がった。
異常が発生したのは、森を出て30㍍ほど進んだ時だった。
俺の気配探知範囲ぎりぎりに居た猿もどきどもが、文字通り算を乱すという感じで急に動いた。
振り返って森の方を見たが、直後に原因が分かった。
俺の気配察知範囲内に、初めて捉えた気配が入って来た。
まさか・・・
「山口さん、このまままっすぐに進めば、みんなの所に辿り着けます。この子たちをお願いしていいですか?」
「え? は、はい」
山口さんは俺の雰囲気が変わった事に気付いたのか、すぐに大輝君とひまりちゃんの手を引いて、小走りで走り出した。
俺の気配察知が教えてくれる通り、巨大な影が森から出て来る姿が視界に飛び込んで来た。
クマに似た胴体にイノシシに似た頭部・・・
間違いない。森に生息している最強種族のお出ましだった。
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