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第49話 「2日目13時50分」

20170907公開


「いやあ、さすがと言うか、なんと言うか、宮井さん、容赦無かったですね」


 小さな声で、そう言って来たのは山本邦夫氏だった。


「せっかく生き残ったのに、内部分裂で全滅なんて悲しいからね」


 俺は、焼いているトリケラハムスターの肉から目を上げて、大人用テントの材料になりそうな流木を分類している山本氏を見ながら同じく小声で答えた。

 山本氏は苦笑を浮かべた。

 ポメラニアン顔で浮かべる苦笑が分かるなんて、俺も異世界の種族をかなり見慣れたもんだ。


 少し離れたところでは、新たに加わった6人が先に食べ始めている。

 もっとも、6人が仲良く食べているという訳では無い。目に見えない微妙な壁が発生している。



「まあ、これで彼女も下手な事は出来ないじゃないかな」


 これは本音では無い。

 近藤さんが我慢出来る筈が無い。

 きっと、不平不満を周囲に漏らす。

 俺を悪しざまにののしるだろう。

 その時に彼女に同調する人間が現れない、とは言い切れないが、可能性はかなり低い。

 結果、彼女は孤立する。

 そして、暴発する。

 その時こそ斬り捨てるチャンスだ。


「彼女が善き仲間になる事を祈るだけだよ」


 俺が一欠けらもそう思っていない事は山本氏には筒抜けだが、これは一種のアリバイ工作だ。

 後日、彼女を斬り捨てる時に、山本氏が証言してくれるだろう。

 『宮井さんは近藤さんが我々の善き仲間になってくれる事を願っていた』と・・・


「しかし、凄いな。よくもまあ、冷静に対処出来たものだ。俺には無理だな」


 子供用の槍を作っていた黒田氏が呟いた。

 邪魔になる節を俺のマルチツールを使って削っている最中だ。

 午前中でトリケラハムスターを11頭も狩れたので、今日予定していた作業を前倒ししている。

 

「これでも接客業だからな。慣れているとしか言い様が無いな」


 まあ、実際は違うんだが・・・

 筋書きを描いて、その通りに転がす術は、転職前の職場で鍛えられたというのが本当だ。

 そこに接客業で得た経験と技巧を活用したに過ぎない。

 今思うと、派閥争いが凄かったもんな。

 

「飯を食べたら、また森に行くんだな?」

「ああ。俺以外の人間が行ったら対処し切れないと言い切れるからな」


 かえで水木みずきの愛娘2人と沙倶羅さくらちゃんもかなりの戦力と言えるが、対処し切るのは無理だろう。

 3人は今、寝床に敷く草を集めている女性陣の護衛で出ていた。

 本音を言えば、もっと愛娘成分を補充したいところだが、この集団でトップ2からトップ4までの戦力を遊ばせておく余裕は無い。

 残念だ。

 せめてもの慰めは、2人とも俺と同じ様に残念に思ってくれた事だ。

 出掛ける際に、何度も俺に手を振ってくれたから間違いない。

 よな?  


「それで、猿もどきでしたっけ? 僕らの種族でも対抗出来そうですか?」


 山本氏がこちらを見ながら訊いて来た。

 自分が知らなかった種族だから、興味が有るのだろう。


「身体強化の能力が使えれば、1対1なら十分に勝てると思う。ただし、相手は連携して攻撃して来るから厄介だ。しかも頭上から襲って来るだけに対処が難しい」

「うーん、もう少し強い種族に転生出来れば良かったんですが・・・」

「まあ、身体強化が使える種族に転生出来ただけでもありがたいと思わないと。もっと弱い種族も居るんだから」


 ポメラニアンもどきは、この異世界では結構ポピュラーな種族だ。

 主に平野部に広く生息している。

 その影響か、『被災者』が転生する種族もポメラニアンもどきが多い。

 ちなみに1番多い転生先の種族はマジック型の狸もどきだ。

 こちらの種族はポメラニアンもどきの様な身体強化の能力を持たない。

 その代わりに『ユニコーン』と同じ種類の風系魔法を特殊能力として持っている。

 元来は水辺を好む種族だが、生活圏をゴブリンに奪われてしまって、大きく数を減らしているらしい。

 なんせ、狸もどきの風系魔法はゴブリンの軍が装備している盾を貫けないのだ。

 軍隊を組織して、集団行動で攻めて来るゴブリンに対しては勝ち目が薄過ぎる。

 そんな種族に転生した場合、ゴブリンに見つかると生き残る事は難しいとされている。


「そうですね。狸もどきじゃ無かっただけでも有難いと思わないと・・・」

「そんなに狸もどきって弱いのか?」


 黒田氏が山本氏に訊いた。


「黒田さんが転生した種族の様な空を飛べる特殊能力も持たず、僕の種族の様な身体強化も持たず、宮井さんの種族の様な強力な魔法も持たないと言えば、お察し頂けると思います。本来は天敵が居ない環境で繁栄していたみたいですが、ゴブリンが進出した地域では絶滅の危機に晒されている様です」

「なら、そのゴブリンて強いのか?」 

「独断で言えば、地球で言う人類といった所でしょう。身体的な強さも魔法も特殊能力も無い代わりに、文明を発展させて急激に数を増やしています。しかも他種族との共存をさほど重視していません。僕の種族を従属させているくらいですかね。宗教まで有って、その中の教義に『輪廻から外れた生き物は全て殺せ』というものが有るんですよ。で、僕たち『転生者』は見付かり次第殺されるという、まさに天敵そのものと言える種族です」




 そう、まさに天敵だ。

 一説によれば、1万人を遥かに超える『被災者』がゴブリンに殺されている・・・・・


お読み頂きありがとうございます。

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