表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
48/133

第47話 「2日目13時10分」

20170905公開

 森をあっさりと抜けた。

 猿もどきは最後まで俺への包囲網を解かなかった様に感じたが、本当のところはどうなんだろう?

 進路を変えて、また森の奥に向かう事を警戒していただけかもしれないな。

 森から出ると、大きくうねった地面が現れた。


 真っ直ぐ西に向かって歩く間に、鈴木小枝子さんと松木沙知さんの2人から『召喚』後の詳しい話を聞いた。

 6人はだいたい10㍍くらいの範囲内に現れたそうだ。

 かなりの時間を呆然としていたが、その間、近藤さんは怒鳴り散らしていたそうだ。

 無駄なところでバイタリティーが有ると言うか、疲れなかったのだろうか?

 ただ、下手に動くと、迷子になりそうだし、どちらに向かえばいいのかも分からないし、救助を待つと言う結論に達したのはだいたい1時間後だった。

 その結論を導いたのは鈴木さんだった。

 4人居た大人の中で、彼女だけが政府発行の小冊子を最後まで読んでいたらしい。

 彼女の発案で、他にも『被災者』が近くに居ないかを確認する為に、呼び掛けの声を上げたそうだ。

 ただ、飲み水が無い為に喉をすぐに傷めた為、途中からは本田岳君が持っていたキッズケイタイのブザーを1時間ごとに鳴らしたとの事だ。

 もしかしたら、それが猿もどきを寄せ付けなかった要因だったかもしれない。

 まあ、その間も近藤さんはブツブツと文句を言い続けていたそうだ。

 バイタリティーというか、本当に無駄に体力と気力が有るな。




 最初に俺たちに気付いたのはかえでだった。

 多分、周囲の警戒を担当していたのだろう。

 200㍍の距離から俺を見付けた彼女は、何か叫んだ後で一直線に俺に向かって走って来ると、そのままの勢いで俺に抱き付いて来た。

 楓が真っ直ぐに駆けて来る事を知った瞬間にこうなる事が分かっていたので身体強化は済ませていたから無事に受け止められたが、押し倒されていたら父親の尊厳の危機だったな。


 俺が楓の頭を撫でていると、みんながやって来た。

 大人たちは全員が手製の木の槍を持っていた。

 大体自分の身長くらいの長さで、全てが真っ直ぐと言う訳では無い。

 先っぽは斜めに削られているが、刃物で切った様には見えなかった。

 多分、石か岩を使って擦って削ったのだろう。


 うん、どう見ても原始人の武装だな・・・



 水木みずきも抱き付いて来た頃に、茶ポメの1人がみんなの方に走って行った。

 鈴木さんだった。

 そのまま鷹頭の子供の許に行くとガバっという感じで抱き締めた。

 抱き付かれた陽翔はると君はポカンとしている。

 ああ、あれだ。母親は自分の子供の服装は分かるけど、子供は親の服装なんて覚えていないってヤツだ。

 陽翔君は目をパチパチとさせていたが、自分を抱き締めている相手が母親だと気付いたのだろう。

 いきなり抱き締め返したかと思うと、泣き出した。

 うん、鷹頭でも涙が出るんだな。初めて知った。 



 佐藤先生が近藤太陽君と本田岳君を見付けて、2人の許に行こうとした時に問題が発生した。


「なんで、先生のあんたがすぐに助けに来なかったんや!? うちの息子は1日中心細くてずっと泣いてたんやで! 謝れ! 土下座でも何でもして、うちの息子に謝れ!」


 感動の再会の場が一瞬で静まった。


「佐藤先生、謝る必要は無いですよ!」


 俺は佐藤先生が謝る前に声を上げた。

 楓と水木から離れる前にチラッと2人を見たら、近藤さんを見ていた。

 その瞳には『あのおばさん嫌い』と書いてあった。

 うん、安心した。

 愛娘2人も嫌いな人間相手なら、手加減をしなくて済む。

 いや、散々文句を言われたからやり返そうと言う訳では無いんだが、その事で娘たちに嫌われるのは割に合わない。


 これからする事は、生き残る為には必要な事だ。

 病巣は早めに薬で根治するか、斬るかをしないと、健全な細胞に転移してしまう。

 そう、投薬する余裕が無いので、ここに居る全ての人間という患者を救う為に、仕方なく斬り捨てるしかない。

 



お読み頂きありがとうございます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ