第43話 「2日目9時55分」
20170827公開
それまで俺から40㍍ほどの距離を置いて囲んでいた樹上の種族が、包囲網を狭める様に動き出した。
これまでは様子見だったのが、襲う為の条件が整ったのかもしれん。
数なのか? それとも人間には理解出来ない理由なのか? それは分からない。
だが、1つ分かっている事はヤツラがこっちを襲う気満々の気配を隠そうとしていない事だ。
鳴き声も今までと違う。威嚇や意思疎通の鳴き声では無い。
一番近いのは鬨の声だ。
「みんな、こっちに来て、固まれ! 頭の上から襲って来るぞ!」
「な、何を言ってるんや! 訳分からん事を言いなや!」
近藤さんが喚いたが、俺はそれを無視して顔の前に力を集めて2つの層を形作る。
木の上にも拘らず、ヤツラは時速20㌔に近い速度で接近している。
秒速で言えば5㍍といったところか?
1番近いヤツとの距離は今では20㍍も無い。
いつでもブレスを撃てる様に備えながら、身体全体も活性化させる。
みんなは、俺が放つただならぬ雰囲気にやっと気付いたのか、俺の近くに来て腰を下ろした。
全員が急変した事態に付いて行けていない。それが不安感に繋がっている。
挙句には、さっきまで俺を睨んでいた近藤さんの息子の太陽君がいきなり泣き出した。
その頃には1番近いヤツは軽く10㍍を切っていた。生い茂る葉っぱのせいで姿が隠れている。
見えた! 距離は7㍍も無い。
手が異常に長い猿ぽい奴だ。細身で身長は2㍍近い。深緑が基調の森林迷彩柄とでも言うべき模様が身体中を覆っている。緑色でないのは顔くらいだ。妙に赤い。
目が合った瞬間に、俺は攻撃の意志有りと判断した。
俺目掛けてジャンプする為にソイツが枝を蹴った瞬間にブレスを放つ。
瞬間、空気が圧縮された様な衝撃波が発生した。
「きゃ!」
「いや! もういや!」
「な、何が・・・」
6人から悲鳴と叫び声が聞こえるが無視だ。
収束率を落としたブレスは直径20㌢の円のまま、ソイツの顔を直撃した。
身体の運動エネルギーはそのままに顔にシャレにならない衝撃を受けたせいで、縦回転して落ちた猿もどきは受け身も取れずに地面に落下した。
音で結果を知る。あの音では首の骨が折れている。
視線を向ける贅沢などしている余裕は無い。
俺の背後から3頭が固まって最後のジャンプをするのを気配で感じているのだ。
距離は5㍍も無い。角度は60度近い。
誰かがそれに気付いて悲鳴を上げた。
うるさいな。
黙っていろ。
ほとんど溜めを造らずに、足腰のバネだけで3頭の方向に後ろ向きにジャンプした。
一瞬だが違和感を感じる。思ったよりもジャンプの勢いが強い?
視線は最初に殺ったヤツに続いてジャンプしようとしている前方の猿もどきに向けている。
ソイツの顔にブレスを叩き込む。
放った瞬間には、左手を後ろに向けて思いっ切り引いた反動で身体に捻りを入れて、更には右足を振り上げる事で強引に身体を回す。視界の端に3頭の端っこのヤツを捉えた。
面白い事に、ソイツが驚いているのが分かった。まあ、白ポメ、茶ポメ、黒ポメ、鷹頭、ドラゴンもどきと何種類もの異世界の種族を見て来たのだから慣れたのだろう。
それはともかく、想定よりも俺の身体の反転が速い。さっきのジャンプと言い、明らかに何らかの力が働いている。
咄嗟に両手を前に出して俺からの攻撃を避けようとした端っこのヤツは無視して、俺は真ん中のヤツの胴体を薙ぐように右足で蹴った。
身長が130㌢くらいしかない俺の体重は猿もどきの半分も無いだろう。高所から飛び降りた猿もどきの身体には重力加速も加わって、俺よりも遥かに多い運動エネルギーを貯えられている筈だが、結果は真ん中の猿もどきの身体が弾き飛ばされた。
飛ばされた先には左端の猿もどきが居た。
全く想定しなかったのだろう。もろにぶつかって、2頭が重なる様に進路をずらして落ちて行った。
ヤバい。
猫もどきはマジでヤバい。
コイツは最初の猿もどきを視界に捉えてから5秒も経たずに新たな能力を顕現させている。
その証拠に、俺の意志に合わせて、俺の身体は、呆然とした表情で俺を見上げている6人が居る場所まで、突き飛ばされる様な速度で戻りつつあった。
トンッという擬音が聞こえる様な綺麗な着地をした俺は、着地に失敗した右端に居た猿もどきにブレスを叩き込んだ。
収束率を上げたブレスは、ソイツの両手と頭部を破壊し尽くした・・・・・
同じ様に、立ち上がれない2頭の猿もどきにもトドメを刺す。
樹上の猿もどきの鳴き声は止んでいた。
代わりに、更に大きくなった太陽君の泣き声が森に響いていた・・・・・
うるさいな・・・・・
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