第38話 「11時間00分後」
20170812公開
「これで、政府が発行した『「召喚」されてしまった時に注意すべき10項目』を簡単ながら説明しました。実際には「転生が確認された種族一覧」、「危険生物一覧」、「各種族の可食・毒物一覧」、それと大まかな地図も載っていますが、今は省略します。山本さんも詳しいので、時間を見付けてどちらかが説明する様にしましょう」
みんなが頷いた。
ただ、どうしても不思議に思っている事が有ったので、ついでに訊く事にした。
「不思議に思っていたのですが、みなさんはどうして小冊子を読まなかったのですか? みんなが読んでいると思っていたんですが?」
答えはバツの悪そうな顔だった。
渋々と言う感じで答えてくれたのが金井さんだった。
上げた手も遠慮がちだった。
「いやぁ、本当に巻き込まれると思ってなかったや。それにテレビでもやってたから、知った気になってたんやろな。今、聞いて、初めて知った内容が多くてビックリや」
なるほど。多分、その通りなのだろう。その証拠にシャツの皺が、トラのイラストの目の部分に折り目を付けて、この角度から見ると反省している様に見える。
金井さんの本体はシャツじゃないよな?
シャツはあくまでもトラ吉でいいんだよな?
「そうですか・・・ 質問が有れば受け付けますが、誰も無いですか?」
聞いたばかりの内容の消化出来ていないせいで質問は出なかった。
「それでは、明日の行動と役割を簡単に決めておきましょう。最初に全員のスマホとケイタイで何枚か写真を撮りましょう。これは誰かがいきなり帰還する事になっても、日本で待つ家族に元気な姿を具体的に渡せる様にする為です。集合写真は必ず撮っておいた方が良いでしょう。次に朝食に回す食料、ぶっちゃけトリケラハムスターの確保。これは自分がします。昼食分と夕食分は楓と水木、それに沙倶羅ちゃんに任せても構いません。3人にはそれだけの経験は積ませました。ただし、大人が1人はサポートする必要が有るでしょうから、黒田さんにお願いしていいですか?」
「分かった」
「植物性の食糧も欲しいので、山本さんも同行して貰って良いですか? 見分けが付き難いと思いますが、食べられない植物は、いざとなれば本能が食べる事を拒否する筈です」
「分かりました」
「女性陣には、子供たちの世話と住環境の改善を任せて良いですか? 特に先生には子供全員に目を配って欲しいと思います」
女性陣が全員が頷いた。
「あと、出来れば大人にも屋根の有る寝床が欲しいのですが、これは黒田さんの時間が空いてからで良いかも知れませんね」
「そうだな。食料が確保出来た後にでも取り掛かかるとしよう」
「まあ、安全第一で無理だけはしないで欲しい。あと、全員分の槍が欲しいですね。槍が有ればトリケラハムスターなら女性陣でも狩れる様になりますから。それと、森から危険な種族、多分出て来るとすれば狼もどきあたりでしょうが、襲って来ても槍が有ると無いとでは危険度が全く違ってきます。これも黒田さんと山本さんに任せて良いだろうか?」
「優先順位は?」
「大人の分の槍、昼食の確保、夕食の確保、子供の分の槍、大人用の寝床、の順で」
「分かった」
「自分は朝食を摂ったら、森に潜ります。救助出来れば、その都度戻って来ます。出来なくても昼くらいには1度戻って来ます」
「宮井さんが1番危険な役なので、それこそご自分の安全に気を付けて下さい」
佐藤先生が気を使ってくれた。
「ええ、可愛い娘2人を残して死ねませんからね。それに嫁と感動の再会をする予定ですし」
敢えて、にやりと笑った。
一瞬、虚を突かれた雰囲気だったが、すぐに俺の言葉の意味が分かったのだろう。
みんなの雰囲気が変わった。
例え、それがどんなものであれ、人間には目的と役割は必要だ。
それに、希望が加われば、きっと頑張れる筈だ。
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