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第36話 「10時間40分後」

20170809公開

「7番目が『移動圏内に接触可能な知的生命体が存在するか確認しましょう』です」


 俺の言葉に、山本氏を除く全員が首を傾げた。

 6項目までは身に迫った危険に対処する内容だったのが、急にスケールが変わったからだ。

 何故、この項目を7つ目に入れたのかの理由の説明は小冊子に載っている。

 その上で、接触してもいきなり危害を加えられないとされるいくつかの種族も紹介されていた。


「みなさんは今、首をひねりましたが、この項目は意外と重要な意味合いが有ります。第2次召喚時の『被災者』グループの実例から導き出された結論だからです。それと10年以上もこちらで生きた上で日本に戻った或る『被災者』の報告もそれを裏付けています」

「済みません、話の腰を折る様で申し訳ないのですが、召喚後10年以上経ってから帰って来た人って三上和子さんですよね? 絶滅した超文明の遺跡が『召喚災害』を引き起こしている、と主張したけど帰還して3日後に自殺した民俗学の学者の?」


 山本氏がこの『召喚災害』にかなり詳しい事が分かった。

 この『災害』で最も重要な情報をもたらしてくれた人物の名前は一般的にはほとんど知られていない。

 遺族が名前の公表も拒否した為だ。多分、その主張から身内の恥だと思ったのだろう。

 世間的には帰還後3日で自殺したので、どちらかと言えば『悲劇的な被災者の1人』扱いだ。

  

「そうです。荒唐無稽な話だったのと、裏取りをする前に自殺してしまったので調査は難航しましたが、今ではほぼ報告が正しかったと考えられています。彼女が齎した情報の中には記録に残っていない過去の『召喚災害』が含まれていました。そして、その『被災者』の子孫が今も生き残っていて、その種族では日本語の使用と他の種族では見られない文明が存在しているという情報が第7項目に結び付いています」


 山本氏を除くみんなが今一理解出来ていないのか、相変わらず首を捻っている。

 山本氏は何かを考えている。


「第2次召喚時の『被災者』グループの実例と言いましたが、そのグループが接触した種族には比較的最近に『召喚災害』に巻き込まれた日本人の子孫が根を張っていました。おかげで日本語での会話が可能だったそうです」


 偶然にも俺の高校時代のクラスメートが、内閣府で『召喚災害』絡みの課に居た事も有り、それなりに情報は手に入った。あとはその情報をネットで丹念に探れば周辺の事も出て来た。

 ただし、この情報は小冊子上ではぼかされている。

 情報を知っている人間が読めば分かる程度に薄められていると言っていい。

 被害を把握していなかった国が責任の追及を恐れたのかも知れない。

 公開しても構わないと思うのだが、役人のさがなのかも知れないな。

 みんなが俺の顔をまじまじと見た。


「ご存じの様に、自分の妻は『第1次召喚災害』に巻き込まれています。その為に世間一般よりはその辺りの事は詳しいと思って下さい。まあ、独自で調べた事も多いのですが・・・ そして第7項目は地味に重要です。こう言い換えても良いでしょう。『自分達だけで生きていくなら文明を維持出来ない』と・・・」


 黒ポメラニアン人が過去に『召喚』された日本人の末裔かどうかは分からない。

 文明程度や服装からすると違う可能性も有る。

 知っている限り、日本人の末裔が根を張った種族の服装は和服が基本となっていた筈だ。召喚された時代や、製作が簡単な上にサイズ調整もやり易いという理由も有る。

 黒いポメラニアンもどきは小冊子にも記載が無かった種族だ。ポメラニアンもどきは茶か白の毛しか確認されていない。

 まあ、接触すれば分かるだろう。


「実は最初に黒ポメラニアン人と接触した時に、皆殺しにしようかと考えました。8番目の項目、『接触してはいけない知的生命体から逃げましょう』と絡むからです」


 一旦、言葉を切った。

 喉が渇いたな・・・


「黒ポメラニアン人が、もしゴブリンと呼ばれている種族と繋がっている場合、我々の存在はすぐに伝わるでしょう。そしてゴブリンは我々『被災者』を目の敵にしています。宗教上の理由により、我々を『悪魔の手先』と断定しているからです。『被災者』の死亡理由で1番多いのがゴブリンによる殺害です」


 俺を見る目に不安と恐怖が加わった。

  

「そして、ゴブリンに情報が漏れる危険を冒してでも黒ポメラニアン人を見逃したのは、彼らと交易をする必要が有るからです。服にしろ靴にしろ、この環境ではすぐにダメになるでしょう。手っ取り早く手に入れるには彼らと交渉して手に入れる必要が有ります。先ほど言った『自分達だけで生きていくなら文明を維持出来ない』とはその事も含みます」

 

 服にしろ靴にしろ、1年ももたない。下手すれば数カ月だ。

 そして道具も知識も無しでそれらを一から作るには、ハードルが高過ぎる。

 作れたとしても、黒ポメラニアン人よりも不出来にしかならない。

 ロビンソンだって、無人島に何も無しで漂着すれば途方に暮れただろう。


「まあ、みなさんが原始人並みの服装で構わないというなら、接触を避けますが・・・」


 みんながお互いに視線を交叉させた。

 自分達が原始人並みの服装に成り果てた姿を想像しているのだろう。 


  



お読み頂きありがとうございます。


 最新話の訪問ユニーク数とブックマーク数が合わないという事は、多分、登録した小説の更新情報を配信してくれるアプリを使って訪問される人の方が多いと推理していますが、どうなんでしょう?

 もし良かったら、「感想」で教えて欲しい今日この頃(^^)

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