第2話 「10分後」
20170704公開
『「召喚」されてしまった時に注意すべき10項目』という名の政府発行の文書を読まなかった日本人は少ないだろう。少なくとも俺は熟読した。
なんせ、日本でだけ発生している『召喚』は、何時、何処で、誰が、異世界に転移させられるか予測が付かないからだ。
規模も分からない。
少なくとも、去年のクリスマスイブに発生した最初の『召喚』時には、17,824名もの『被災者』が発生した。
2回目は今年の4月1日だった。
この時の『被災者』は5,497名。
そして、今回で3度目だ。
巻き込まれた俺たちには、今回の規模は分からない。
授業参観中に巻き込まれたので、あの教室に居た全員が巻き込まれた可能性が有るが、目で見える範囲には誰も居ない。
俺たち親子だけが居る。
01:周りに危険が無いかを確認しましょう
02:周りに召喚された人が居ないかを確認しましょう
03:集合出来れば、助け合いましょう
04:自分の能力を確認しましょう
05:自衛手段を確保しましょう
06:食料を確保しましょう
07:移動圏内に接触可能な知的生命体が存在するか確認しましょう
08:接触してはいけない知的生命体から逃げましょう
09:生活圏を築きましょう
10:可能であれば「ニホン国」に移動しましょう
この10項目にはそれぞれに補足事項が有り、更に写実的なイラストが付いた「転生が確認された種族一覧」、「危険生物一覧」、「各種族の可食・毒物一覧」、それと大まかな地図が巻末に付いている為に14ページの小冊子になっていた。
各家庭に1冊は配布され、市や区レベル以上の役所にも持ち帰りが出来る様になっていた筈だ。
何故、この様な冊子が作成出来たかと言えば、帰還者が居たからだ。
1回目と2回目を合わせて300人以上だった。
ただ、帰還者が異世界で過ごした時間はバラバラだった。
2日間で帰還した人も居れば、10年以上を過ごした後で帰還した人も居る。
帰還条件は未だに不明で、ある日いきなり召喚時と同じ様な霧が周りを包み、気が付いたら日本に還っていたらしい。
帰還した時の日本での経過時間は決まっていて、17時間12分07秒だった。
その為、最初の『召喚』に巻き込まれ、フェリーに乗っていた為に海上に落下した挙句に13時間後に漁船に遺体を回収されたという『被災者』も居たくらいだ。
取敢えず、第1項と第2項を確認しないと、今後の方針も定まらない。
この異世界は危険に満ちている。
取りようによっては、最初の5項目が身を守る為の行動と言える。
娘2人もやっと落ち着いて来たので、周辺の探索に取り掛かる事にしよう。
くそ、なんでこんな事に巻き込まれたんだ・・・・・
まあ、せめてもの救いは、娘たちだけ「召喚」されなかった事くらいだ。
もし、そうなっていたら、下手すれば俺は家族全員を「召喚」で失う所だった。
妻は、最初の「召喚」に巻き込まれて、還って来なかった・・・・・・
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