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第18話 「3時間50分後」

20170717公開


20170716セリフ表記変更

 お互いの距離が10㍍を切った。ポメラニアンもどきの2人組は、ドラゴンもどきの陰に移動しているので、直接は見えない。

 この距離くらい離れていたら、警戒心も少しは和らぐだろう。

 こっちも相手の観察をしたが、あちらも俺の観察を終えたと判断した。


「自分は宮井楓と水木の父親の隼人と言います。お名前を伺っても?」


 返事はすぐには返って来なかった。

 まあ、考えれば分かる。大人と言いながらも、今の俺の姿は子供服を着た猫もどきだ。

 日本人とは分かっても、得体の知れない不審人物に思われても仕方ない。


≪わたしは、なかいさくらです≫


 ドラゴンもどきが喋った。思ったよりも高音の声で少し調子外れだが、女の子の声にちゃんと聞こえる。

 えーと、なかいさくらちゃん? 確か、水木みずきの話に出て来た記憶が有る。

 ああ、思い出した。クラス委員の子だ。真面目で責任感の強い子で水木は仲が良いと言っていた。

 他にも何か言っていたが・・・ ああ、そうか・・・・・

 

「水木と仲良くしてくれている子だね? 水木がよくさくらちゃんは偉いんだよ、って言っているから名前は覚えているよ」


 娘たちの話を真剣に聞いていて本当に良かった。

 妻の方がより知っているだろうが、『召喚』に巻き込まれてからは、俺は以前の何倍も娘たちの話を聞く様にしていた。

 もっとも、仲よしの女の子の名前しか出て来ないので、男の子に関しては全く知らない。

 まあ、小学3年生から男の子の名前しか出ない方が心配だが・・・


≪え、みずきちゃんが、そんなことをいってたんですか? みずきちゃんのほうがかわいいし、やさしいのに・・・≫

「水木が可愛いのは、その通りだけど、さくらちゃんも通学路で見付けた捨て猫を家で飼ったりして優しいと聞いているよ」


 俺は人生初の経験をした。

 照れて、顔を赤らめるトカゲを生まれて37年目にして初めて見た。

 なに、この、あざといくらいに可愛い生き物は?

 異世界、半端ネェな・・・ とまでは思わなかったが、それでもホッコリとした気分になった。

 だから、自然に笑顔になっていたのだろう。それに釣られてサクラちゃんも自然に笑顔になったと思う。

 口角を上げたと分かる位に口の先端がキュっという感じに角度が付いた。   

 意外と器用なんだな・・・ 


 ここでやっと第三者の声が聞こえた。やや軋んだ様な声だ。


≪ほかのひとは、ぶじなん?≫


 さくらちゃんの巨体から顔を覗かせた茶色い毛色のポメラニアンもどきだった。

 

「現在、無事が確認出来ているのは、佐藤先生、現在は上空を飛んでいます。あなた方を発見したのは先生です。大人はもう1人、黒田和也氏。子供では室井京香ちゃん・・・」

≪きょうかは、きょうかはぶじなんですか!?≫


 俺の言葉を遮って、白い毛色のポメラニアンもどきが、さくらちゃんを回り込もうとした。

 だが、左足を引きずっているのかバランスを崩した。

 慌てて、茶色のポメラニアンもどきが左脇に肩を入れて支えた。

 意外と手馴れている。白いポメラニアンを気遣う様に何かを囁いている。思ったよりも善い人なのか? シャツにプリントされたトラの顔が俺を睨んでいるが、善人なのか? ヒョウ柄のパンツルックなのに・・・


「ええ、無事です。ここから300㍍ほど先で、黒田さんが護衛しています」

「アアアアアア・・・・」


 白ポメラニアンが崩れる様に座り込んだ。茶ポメラニアンも引きずられる様に腰を落とした。

 茶ポメがこっちを見上げながら訊いて来た。


≪ひろとは? かないひろとは?≫

「無事に保護しています」


 異世界の草原に、異形の姿になった2人の母親の嗚咽が流れた。





お読み頂きありがとうございます。

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