第16話 「3時間30分後」
20170715公開
俺が殺したトリケラハムスターは、付近で集めた枝で作った担架もどきに乗せて、子供たちに4人掛かりで運んでもらう事にした。6人居るから2人は交代で休める。
俺と黒田氏は運搬には参加しない。
児童虐待と言われるかもしれないが、俺たち2人を完全にフリーにしないと誰が子供たちを守るのか? という話だ。
特に俺はフリーにしておかないと、佐藤先生が『被災者』を見付けた時に助けに行けない。
準備が整って、出発しようかという時に、楓と水木と京香ちゃんの3人が俺の所に来た。
「お父ちゃん、『マジカルミラクルブレス』をみんなに見せてあげてくれないかな?」
楓の言葉に水木と京香ちゃんも頷いている。
「何故? って訊いて良いか?」
「おとーちゃんがまもってくれるって、みんなに知っておいてもらうほうがいいかなって・・・・・」
「おじさんがつよいって、みんなに言うよりわかりやすいから・・・」
なるほど・・・
確かに3人は威力の大きなブレスを見ている。
だから、俺が居ると安心だと思えるが、ここで合流した5人は未だ見ていないな。
大人はさすがに俺が出しゃばれる位に強い事は気付いている。実際には避けるしか出来なかったトリケラハムスターを弱い威力のブレスとクローであっという間に倒したのだから。
それに知識の差も加わって、俺の指示に従ってくれている。
でも子供たちはあっという間に倒したところは見ていていても、離れていたし、ブレスもクローも目に見えないからよく分かっていない可能性が高いのかも知れない。
それと、佐藤先生が空を飛んだ後だ。少々の事にはびっくりしたり、俺を化け物を見る様な目で見ないだろう。
「うん、そうだな。3人の言う事は正しいな」
そう言って、俺は3人の頭を順番に撫でて上げた。
3人の照れくさいけど嬉しそうな表情が思いのほか可愛かったので、俺の方も嬉しくなってしまった。
「先生、黒田さん、ちょっとだけ時間、いいですか? すぐに済みます」
「あ、はい。聞こえていましたよ。何とかブレスって言っていましたよね? それって、さっき使っていたドラゴンブレスと違うんですか?」
「え? 先生、ドラゴンブレスって知ってるんですか?」
「ドラゴンが口から火を出すやつでしょ? それくらいはゲームで見ました」
どんなゲームで見たかを小1時間問い詰めたいが、時間がもったいないのでパスだ。
それよりもあの時のブレスが見えていたという事は、佐藤先生は割と早い時期から本能が顔を出していた可能性が捨て切れないな。
初めて試した時と同じ様に、みんなには背後に下がって貰う。
楓と水木と京香ちゃんがみんなに小声ですごいんだからと言っているのが聞こえて来た。
ヤバい、笑いが込み上げて来そうだ。小1時間問い詰めたいというフレーズが悪かった。
だって、あの有名なセリフが頭に浮かぶじゃないか?
『よーしパパ、ブレス撃っちゃうぞー』
結果は悪くなかったと思う。
威力も最初より上がっていたし、的にした50㌢くらいの石は木端微塵に吹き飛んで、ビジュアルも迫力が有って良かったと思う。
だが、俺は精神力と腹筋を総動員して笑いを堪える羽目になっていた。
鷹の顔の筈なのに、みんなの顔が豆鉄砲を喰らったハトみたいだったんだ。
魔王笑いをしたいのを堪えた俺を、誰か誉めて欲しいくらいだ・・・・・
出発して数分で、佐藤先生が南に進路を変えたと思ったら旋回を始めた。
水平方向で300㍍程か? 丘の向こう側で状況は分からない。
「黒田さん、行って来ます。子供たちを頼みます」
「了解した。一応言っておくけど、気を付けて行って来て欲しい」
「娘たちが待っていますから、無事に戻って来ますよ」
身体が軽い。多分、俺の人生で一番速く走っていると思う。
確か、軍事的には高度が高い方が有利だってどこかで見た覚えが有る。
敢えて、丘の頂上を目指す。
丘の頂上から見えた光景は、ちょっと予想外だった。
なんせ、ドラゴンが居る・・・
西洋の竜の方だ。全長は3㍍程で、全体的に黒く感じるが焦げ茶色も混じっている。
身体の上側には翼も見えるが、佐藤先生たちと同じく身体に比べて小さい。形状は翼竜か? コウモリの方が近いか?
ただし、地球で生まれたそれらは手が翼に進化していたが、このドラゴンもどきは手が別に有る。そういえば先生たちの鷹もどきも翼と手が別になっていたから、おかしくないのか?
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