第131話 「374日目5時5分」
20180927公開
うっかりと斑灰ポメの存在を忘れていたのを思い出した俺が、慌ててチト村に戻った時には襲撃を撃退した後だった。
2つのグループに分かれて襲撃して来た様だ。
捕縛されている斑灰ポメはほとんどが麻痺を起していた。
対クマモドキ用に開発したブレスを、対 森林猿人用に改造したブレスは斑灰ポメにも問題無く効果を発揮した様だ。
ぶっつけ本番だったので効かない可能性も有ったので最悪の場合は通常ブレスを撃つ様に言っておいたが、効いてくれて良かった。
第一、あのブレスは生物由来の物質には強いが、金属には効果が無い。
もし盾や鎧に銅が貼られていたら、殺傷能力の高い通常のブレスに切り替えるしかなかった。
やはり娘たちには可能な限り殺人に近い事をさせたくないからな。
2人ほど重傷だが、命に別状は無さそうだ。傷跡から考えると小百合と見留君の熱線とやらだろう。新堺製の傷薬が効くか分からんが、念の為に塗っておいてやろう。
気配感知で無傷だと分かっているが、早く顔を見たいので真っ直ぐに小百合と娘たちが居る場所に向かった。俺に気付いた灰ポメが道を開けてくれる。
「あ、お父ちゃん、楓も水木も頑張ったよ!」
楓が俺に気付いて、手を振りながら大きな声で教えてくれた。隣で水木も笑顔で手を振っている。
だが、気付きたくは無かったが、俺は哀しい事実に気付いてしまった。
今までだったら抱き付きに来ていたのに、手を振っているだけだ。
いや、笑顔を見せてくれているだけでも嬉しいのだが、寂しさを感じるのは父親として仕方ないと思う。
「偉いな、2人とも。それで怪我はしていないか?」
「うん、大丈夫」
そう言いながら、楓が抱き付きに来てくれた。
思わず、『キター!』と心の中で叫んだが、仕方のない事だ、多分。
すぐに水木も抱き付いて来てくれた。
「水木もお疲れ様」
俺に抱き付きながら、水木が言い放った。
「またつまらないものをうってしまった」
いつ元ネタのルパ●3世を観たんだ?
2人の頭を撫でながら小百合の方を見ると、両手を胸の前で組みながらウンウンと言う感じで頷いていた。
「小百合もお疲れ様。2人とも強いだろ?」
「いやあ、凄かったよ。ここまで強いとは想像もしていなかったでござる。眼福つかまつった」
誰のものまねだ? それと、感服仕っただと思うぞ? まあ、娘2人の笑顔が眼福なのは事実だが。
俺に気付いた村長がやって来た。
一時は蒼白だった(様に見えた)顔色が、興奮の為か赤く見える(気がする)。
まあ、俺や娘たちが居なかったら村にとんでもない被害が出ていてもおかしくなかったのだから仕方が無い。
気が付けば、俺と村長の周りは男衆が囲んでいた。
俺は周りのみんなに聞こえる様に大きな声で報告した。
「我、伍歩厘に勝たり!」
早朝の村に大きな鬨の声が響き渡った。
さて、問題は斑灰ポメとゴブリンたちの処理だ。
ゴブリンの部隊は戦力としては壊滅した。
もう侵攻は不可能だし、指揮官クラスを重点的に叩いたから無事な兵で立て直すのも厳しいだろう。
1番良いのは全員を殺して、情報を持ち帰らせない事だ。
何にやられたのか? どの様にやられたのか? が分からなければ、対策の立て様も無い。
そうなると、次回の遠征時にゴブリンどもが投入する戦力を増やしたとしても、同じ戦術に頼るだろうし、こちらが立てる作戦の幅も広がる。
どうせこちらを上回る規模で来るだろうから圧勝は無理でも、地の利が有るこちらが主導権を握れるのは大きい。
只でさえ今回は前準備なしの戦いだったのだ。しっかりと備える時間がどれ程有るのかは判断出来んが、それでも時間が有れば有るほど、こちらの準備が進むから有利になるのは確実だ。
リスクも有る。
ヤツラは或る一面では宗教国家だ。
宗教の怖い所は、理性的な判断を吹き飛ばせるところだ。
その結果、こちらに過剰な戦力を投入して来る可能性も捨て切れん。
さすがに万の単位で押し寄せられると、お手上げだ。
万の単位の大軍で来られると、財前司令が言っていたゲリラ戦と焦土作戦に活路を見出すしかない。
まあ、陸路では無く、潮がきつい為に渡航が難しい海路で来る事がせめてもの助けか。
大規模な軍隊を送って来る為には、比例して大規模な船団を用意しなければならない。
今回と同じ比率で考えると、1万2千人の兵を送る為には100倍の500隻もの大船団を建造して、それを動かす為の船員も用意しなければならない。
勿論、ピストン輸送と言う手も有るが、5回に分けたとしてもそれでも100隻の船団が必要だ。
今日明日と言うレベルでは無く、年単位が必要だろう。
詳しい情報を小百合たちから訊き出して、それを基に算定する必要が有るな。
財前司令の判断も必要とするから、それは自衛隊が到着してからだな。黒田氏に派遣されて来る自衛隊の予定を行進から急行に変更する様に伝えて貰おう。
「先輩、念の為に訊きたいけど、ゴブリンをジェノサイドした?」
俺が考え込んでいると、小百合が訊いて来た。
娘たちに分からない言葉を使って来るあたり、さすが小百合だ。
その表情には懸念が浮かんでいる。物まねも止めた様だ。
「さすゆり。半分以上を戦闘不能に追い込んだが、ジェノサイドはしていない」
「では、今頃、情報は船団に残っているゴブリンたちに伝わっていると考えて良いと思う」
「さすゆり・・・」
さすが小百合だ。
戦力として壊滅していても、伝令くらいは出せるな。
「先輩の戦い方の情報は諦めるしか無いけど、ここで起きた事の情報は止められると思うけど?」
小百合もこっちの世界に来て、バーサーカー並みに考え方が過激になった様だ。
まさか斑灰ポメを全員殺そうと考えるとは思わなかった。
「捕虜のポメちゃんたちを懐柔して、少しでもゴブリンの情報を得るのに1票」
どうやら考え方が殺伐としているのは俺だけだった様だ。
お読み頂き、誠に有り難うございます。
P.S.
風邪をひいて集中力が保てず、短めです ort
いっその事、更新しないでおこうかと思いましたが、昨日10点満点評価をして頂いた読者様が居られたので、なんとか気力を振り絞って更新するだけの文章を書けました。
有り難う御座います m(_ _)m