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第130話 「平成30年6月21日5時00分」

20180920公開


 宮井隼人先輩だんなさまと初めて会ったのは、短大卒業後に入社した、同族経営のとある工業製品製作会社の営業推進本部営業3課に正式配属された日の朝礼だった。

 後から思い知ったけど、イケメンで営業成績も良い先輩を狙っていたお姉さま方は多かった。

 でも、宮井先輩は同族経営故のドロドロとした派閥抗争に巻き込まれてしまって、自分には責任の無い損失の責任を押し付けられて辞めてしまった。

 それまで仕事の同僚としての交流(仕事上のやりとりや営業3課のプロジェクト打ち上げ会や歓送迎会など)しか無かったボクにとって、むしろチャンスだった。働いている間は下手に接触するとお姉さま方が夜叉に変身したからね。

 うん、先輩に猛アタックしましたとも。

 我ながら、苦手な分野だったのに頑張ったと思う。当時のボクを褒めてやりたい。


 先輩が再就職して1年後には結婚して、めでたしめでたし。

 可愛い娘たちにも恵まれて、2人は幸せに暮らしましたとさ・・・



 だったんだけど、今、ボクは異世界で娘たちと肩を並べて、『ゴブリン』に従属している『ポメラニアンもどき』と呼ばれているコボルトの迎撃に駆り出されていたりする・・・

 いや、確かに首から上はポメラニアンに似ているけど、『ポメラニアンもどき』って安直なネーミングだと言わざるを得ないね。正式には『犬人種』みたいだけど。


 コイツらとは1度、元居た大陸でやり合っている。

 ボクにとってはゴブリンよりも厄介な相手だ。

 なんせ、身体能力が高く、装備もゴブリン並みで、チームワーク良く迫って来たからね。

 実際の所、遠距離で対峙している時は圧倒出来たけど、近距離に接近されると逃げるしかなかった。

 こっちは平和な日本で暮らしていたから剣や槍を使った戦いなど出来る訳無い。

 2㍍の距離まで迫られた時には死も覚悟したけど、半ばやけくそで放った熱線が偶々当たってくれて怯んだから難を逃れる事が出来た。

 あの時はさすがに半泣きだったね。

 そのポメラニアンもどきが射程距離近くまで迫って来ていた。逆光の為に見難いけど、手にしているのは剣の様だ。

 ここから見える数は10人。20人は居た筈だから、その半分が目抜き通りを真正面から走って来ている。


 そろそろ撃っていいかな?

 軽く盾を貫く威力の熱線を撃てると言っても、必殺では無い。ゴブリンと違って、ポメラニアンもどきには効きが弱い。何発か当ててやっと仕留められる威力になってしまう。

 それでもボクの攻撃力は他の種族よりは強力な攻撃だった。

 高井さんと同じ種族の攻撃は盾さえも貫けず、溝を彫るくらいだけだったからね。

 水木みずきの話では、どうやら『気』なのか『念』なのか分からないけど、1部の種族では防御力を飛躍的に伸ばす能力を使えるらしい。そういえばヒョウもどきもそうだった。

 かえでが嬉しそうに教えてくれたが、猫もどきは強力な防御力を誇るらしい。母としては嬉しい限りだ。



 しかし、楓も水木も冷静だね。

 全然緊張もしていないし、怖がってもいない。

 ベテランの古参兵の様な雰囲気さえ漂わせている。

 むしろ、周りの男性陣の方が緊張して表情を強張らせている。

 水木によると、なんでも、この時の為に1年前から改良を加え続けた対人用の攻撃方法が有るらしい。

 物質に対しては貫通力を維持しながらも、体内に到達すると強力な麻痺の効果を与える攻撃の様だ。元々は体長が5㍍くらいあるらしい怪獣の様な『クマもどき』に備えて開発した攻撃を改良したと言っていた。

 まあ、先輩が自分たちの娘たちに殺人を許す筈も無いし、させる筈も無い。

 それでも最悪の場合は殺傷能力の高い攻撃をする指示を出していたのは親心だろう。



 この村の村長が何かを叫んだ。

 一瞬後には楓と水木が口を開けて、何かエネルギーの塊みたいなのを撃ちだした。

 ボクもそれを合図に熱線を撃ちだしたが、『マジカルミラクルブレス』だったっけ? 娘たちの攻撃の方が遥かに効果的だ。

 盾を貫通した2人の攻撃はポメラニアンもどきを1発で行動不能に陥れて行った。

 結局、楓と水木が行動不能にしたポメラニアンもどきは8人に達した。

 残り2人はボクと見留ちゃんの戦果だ。

 

「凄いな、2人とも。見事な攻撃だったぞ」

「ありがとうございます、母上!」


 頭を撫でながら褒めて上げると、ボクを見上げて蕩ける様な笑顔を2人とも見せた。

 やはり、可愛いな、我がぐんは。


「でも、あっちからもう10人が迫って来ていますから、すぐに片付けますね」


 ボクも修羅場を潜ったので、それなりに強くなったと思っていたが、娘たちの方が上だった。

 圧倒的じゃないか、我がぐんは。

 始まったと思ったら、あっという間に終わった戦いに、周りに居た男性陣が呆気にとられている。

 ざわざわとさざ波の様に私語が交わされ出したが、言葉が分からなくても、そこに込められた畏怖と驚きの感情は分かる。


「なんというか、ここまで強い種族なんて聞いた事が無い。この土地の固有種なんだろうが、あのコボルトをここまで圧倒するとは・・・」


 高井さんが呆れた様な声を上げていた。


「すごい」

「もしかすると、ゴブリンどもの侵攻を食い止めれるのではないか?」

「そうだな。しかもドラゴンの様な種族も居ると言っていたな。やはりここに逃れて正解だったな」



 一緒に船で逃げて来たみんなの声も聞こえた。

 元居た大陸では、ボクたち被害者グループは一時は20人を越えていたが、争いが嫌いで、話し合いで解決出来る筈だと説得に行った人たちは全員が帰って来なかった。

 3回目の挑戦だった今回の渡航が成功しなければ、ボクたちも捕まっていた可能性が高い。家族にも再会出来なかっただろう。

 転移直後から避難船造りに取り掛かって、本当に正解だった。

 それと、声を大にして言いたい。

 ありがとう、犯罪予備君(仮)。

 君があの時に拉致監禁セットを買おうとしてくれていなかったら、避難船の建造はもっと困難だっただろう。

 どうか、地球で安らかに眠って欲しいと願う今日この頃だよ、ボクは。



 先輩が戻って来たのは、倒したポメラニアンもどきを男手を使って縛り上げている時だった。



お読み頂き、誠に有り難うございます。

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