第12話 「2時間40分後」
20170711公開
「佐藤先生、私は田中孝志君ではありません。宮井楓と水木の父親の隼人です。残念ながら孝志君はもう・・・」
俺の言葉を聞いた佐藤先生が身体を引いた。絶句しているのが分かった。
そのタイミングで楓が佐藤先生に抱き付いた。
「先生も無事だったんだ! 良かった!」
少し遅れて、水木と京香ちゃんも先生に抱き付いた。
教室で見た佐藤先生は20歳代の半ばに見えたが、彼女は子供に懐かれている様だ。授業参観の時もホンワカとした雰囲気が教室に漂っていたな。
小学低学年と言えども最近は色々と大人びた子供が居るから昔よりも大変だろうに。
「宮井さんと言ったかな? それではその服はどうした? と訊いて良いかな?」
さっきまで佐藤先生と一緒に戦っていたスーツ姿の男性が、俺を険しい顔で見ながら訊いて来た。
確かに、他人が見たらおかしいと考えるだろう。俺が彼の立場でも疑念を抱くだろう。
そして、カッターシャツの首元のボタンを外してネクタイを緩めるだけで済ませている彼の顔を真正面から見た。背中の翼が圧迫されて辛いだろうに・・・・・
遠目に鷹の様な頭と思った事は正しかった。
目元と黒目と白目が大きい真ん丸な目は鷹に似ている。鷹に似たくちばしも生えているが、それは空気抵抗を減らす為に発達した鼻の一部で、くちばしもどきの下には人間の口と顎が存在している。
耳は見当たらないが、羽毛に覆われた側頭部に有る筈だ。
そして、1カ所に固まっている3人にも視線を送る。
全員が同じ鳥系の種族に転生していた。
「孝志君は残念ながら発見した時にはもう亡くなっていた。衣服と靴は周囲に脱ぎ捨てられていた。身体が転生に伴って大きくなったので苦しくて脱いだのだろう。彼を弔った後、『召喚』に巻き込まれた他の『被災者』を探す為にその場を離れたが、自分が着ていた衣服や靴はサイズが合わない為に行動が阻害されるので借りている。信じられなければ、娘たちや京香ちゃんに聞くと言うのも良いだろう」
「うん、お父ちゃんの言う通り、孝志君はさっきの角付きのハムスターに殺されていたよ。ちゃんと、4人でお墓も作ったよ。もっと早く探せていたら、助けられたかもしれないのに・・・ 佐藤先生、ごめんなさい」
楓が助け船を出してくれた。
佐藤先生が向き直って、楓たちを抱き締め返した。
スーツ姿の男性は楓に視線を移した。しばらく眺めていたが、こちらに視線を戻して、目を閉じた。
数秒間、瞑目した後で、彼は俺の目を見詰めて話し出した。
「済まない。謝罪する。孝志君は隣の家の子で、娘と幼馴染なんだ。孝志君の親が授業参観に来れなかったから、親の代わりに見つけ出して保護して上げたかったのだが・・・ 自己紹介が未だだったな。俺は黒田和也だ」
「謝罪を受け入れる。さっきも言ったが、宮井隼人だ。それで娘さんは?」
「まだ見付けていない」
「上空から探さないのか?」
「上空?」
どうやら、彼は小冊子を読んでいない様だった。
自分が転生した種族の能力を全く知らなかった。
「黒田さんが転生した種族は空を飛べる。ただ、翼は補助みたいで、魔法が揚力やらなんやらを発生させると政府の小冊子に書かれていた」
「小冊子? ああ、そう言えば家に有ったが、読んでいなかったな」
「俺たちは森の近くから小川を越えて、真っ直ぐ西に歩いて来た。空からもっと広範囲に探せる筈だ」
俺の言葉に黒田氏は上空を見た。
そのまま、数秒間動かなかったが、俺に視線を戻した時には途方に暮れているという雰囲気が醸されていた。
「どうやって飛ぶか知っていれば教えて欲しい」
いや、俺に訊かれても分からないのだが・・・・・
強いて言えば、まずは服を脱いでもらおうか。
服を着たままでは背中の翼を広げる事も出来ないからな。
お読み頂きありがとうございます。




