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第122話 「平成28年12月24日15時25分」

20180829公開


「そろそろ、能力が使える様になっている筈だから、それを確認してからだな。さっきの浜辺まで行こうか?」


 ボクたちに起こった出来事を説明して、合わせて、同じ様に巻き込まれた人が居ないかを確認したいと言った事に対する返事だ。


≪のうりょく? まほうとかですか?≫

「まあ、魔法と言えば魔法だな。君達の種族は初めて見るからどの様な能力を持っているかは分からない。だが、何かしらの能力を持っている筈だ」


 おっと、いきなりファンタジー染みて来たね。

 チートか? チートで無双プレイか?

 ま、現実は甘くないだろ。普通に考えて目が良くなるとか、鼻が利くとか、速く走れるとか、そんな感じだと思っておいた方がいいだろう。

 オバサンは現実的なんだよ。


 防寒の為に毛皮で作った外套を借りて、浜辺まで行って試した結果は、思ったよりもファンタジーだった。

 高井さんの手ほどきを受けながら試すと、あっさりと魔法が使える様になった。

 うーん、ファンタジー小説風に言うと火属性になるのかな?

 まあ、詠唱無しで使えるので、厨二病患者には物足りないかもしんないね。

 ボク的にはいちいち、『我の求めに応じ、深淵の力よ集え、穿てファイヤーアロー!』とか叫ばなくて済むのはありがたいけどね。

 ファンタジー小説ならワクワクするけど、実際に自分がやるとなると恥ずかしくて無理だわぁ。

 第一、オバサンには似合わないしね。

 それ以前に、発動までに時間が掛かる、何をする気かばれる、と言うのは不利だもんね。

 バドミントンの試合で、いちいちどこにどんな球を打ち返すか言わないもんね。

 もし、そういうルールだったら一瞬の駆け引きが楽しめないから面白く無くなるよね。

 でも、魔法が使えて嬉しいのは事実だ。

 異世界転生や転移に巻き込まれたなら、せめて魔法くらい使えないとね。


 さて、能力の威力だけど、高井さんの能力が風属性という感じで、50㍍先の流木に深さ1㌢くらいの傷を付けられるくらいの威力だったのに対して、ボクの能力は直径1㌢、深さ10㌢の焦げた穴を開けられるくらいの威力だ。

 見留ちゃんの能力は控えめで、直径5㍉、深さ4㌢といったところだ。


「思ったより強力だな。初期でこれだと、今後使い慣れて来るとかなり上位の強さを手に入れれそうだ」

≪そうなんですか? でも、まほうがつかえるということは、ひつようせいがあるということですよね?≫

「ああ、そうだ。地球とは進化の方向性が違うだけなんだろうが、ウサギサイズの小動物が俺と似た能力を持っていたりする。森の中には、居るにも拘らず目では見えない様な大型の肉食動物も居るからな。弱肉強食であり、下剋上有りの世界だ」


 ファンタジーの様な世界と思いきや、むしろ戦国サバンナ世界なのか?

 魔物が居ないだけマシか・・・



 そして、何故か的の流木に何回も魔法を放っている見留ちゃんに声を掛けた。


≪みるちゃん、ほかのひとをさがしにいくよ≫

≪は~い≫


 高井さんの声は普通に人間の声として聞こえるのに、見留ちゃんの声は生身の人間の声には聞こえない。

 全くのフラットな発音だからだ。だから感情もこもっていない様に聞こえる。

 高井さん曰く、もうしばらくしたらちゃんとした声になるそうだ。


 高井さん、のぞむ君、見留ちゃん、ボクの4人で夕方前まで探し回ったけど、結局、ボクたち2人以外の被害者なかまは発見出来なかった。


 捜索活動も大事だが、人間は食べなくては生きて行けない。

 捜索活動を打ち切った帰り、ボクと見留ちゃんは人生初の狩りをした。 

 ダチョウって平原を颯爽と走っているイメージだけど、この森にはミニチュアのダチョウもどきが居た。

 ニワトリサイズのダチョウって・・・

 まずは手本として、高井さんが風属性の魔法を首に打ち込んで、あっさりと今晩のおかずを確保した。

 血抜き処理をした後、次に遭遇したダチョウもどきはボクが殺したけど、火属性魔法の意外な弱点が発覚した。

 風属性と違って、傷口から血が出ないんだ、これが。

 きっと血管まで焼けてしまって止血効果が出てしまうんだろうね。

 高井さんなんて、熟練の技ですぐに死なない様に加減して当てているらしい。心臓がしばらく動いていた方が血抜きが効率的だからだって。

 もしかしたら美味しさに差が出るかも知れないけど、一応、血抜きをした上でお持ち帰りにした。


 

 ソイツに遭遇したのは、高井さんちまであと5分というところだった。

 一対の目だけが森の木々の中に浮いている。

 ちょうどのボクの目の高さだ。

 もし、ソイツがまばたきをしなかったら気付かなかったかもしれない。それほどに身体は見えていない。

 ゆっくりと速度を落としながら、小さな声で高井さんに尋ねた。

 

「高井さん、目に見えない肉食動物って、この辺にも出ますか?」

「居るのか? 滅多にここらには出ない筈だが」

「居ますね。じっとこっちを見てます。りますか?」


 見留ちゃんがいきなりワイルドな子になってしまった・・・

 元の様に発音出来る様になったから分かるけど、る気満々だね、これ。

 少なくともパート同士の付き合いでの印象は、先月23歳になったばかりの見留ちゃんは大人しくて引っ込み思案だった。

 娘の水木みずきに近いタイプだけど、水木は内に闘志を秘めるタイプで、見留ちゃんはそんな感じじゃ無かったんだけどなぁ。

 


「確実にやれるなら、頼んでいいか? 性質は特上なんだが、なかなか出回らないから、毛皮にすると高く買い取ってくれるらしい。前に隣村の毛皮商が俺に持ち掛けて来たんだ。まあ、その時は狩る自信も無かったから断ったが」

「そう言う事でしたら、仕留めましょう。見留ちゃん、せーの、で!で行くよ」

「あ、宮井さん、どうせなら、高く売れる様に傷付けない様に1発で仕留めませんか?」

「じゃあ、左目をお願い。ボクは右目を狙う。せーの、で!」


 結果は成功だった。

 さすがに両目から脳を撃ち抜かれたら、いくら大型の肉食動物と言えどもひとたまりも無かった。

 死んだ途端に迷彩?が解けたけど、地球の豹に近い。結構でかい。

 気付かずに横を通った時に襲われたら絶対に逃げられないよ、きっと。

 ただ、気になるのは思ったよりも火属性魔法の威力を下げられた事だ。

 流木に深さ10㌢の穴を開けられるのなら、後頭部まで穴が開いてもおかしくないんだよね。

 まだまだこの異世界には謎が多いって事だね。

 



お読み頂き、誠に有り難うございます。

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