第114話 「141日目14時25分」
20180725公開
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「アレを宮井さんが1人で倒した? 冗談でしょ?」
山本氏から教えられた驚愕の事実に角田巡査の声が裏返った。
分かるぞ、その気持ち。
首から上は無かったが、それでも昨夜の宴会場に掲げられていた毛皮は6畳以上の面積が有った。
大き過ぎて、3㍍くらいある天井から斜めに張られていた程だ。
片手は途中で途切れていたが、残りの手足の部分は有ったので、クマの様な動物と言う事は分かった。生きてる時は5㍍近い大きさだった筈だ。
俺はてっきり志賀之浦が総出で倒した記念として飾っていると勝手に思っていた。
「ええ。こちらに来て2日目に遭遇したのを倒してしまったんですからね」
「タダ者じゃ無いと思っていましたが、ハッキリと言って化けモンですね」
はっきりと言い過ぎだ、バカモン。
フォローの為に言葉を挟んだ。
「どうやって倒したんですか? 罠かなにかですか?」
「殴り合って倒したそうですよ。まあ、最後は必殺技でトドメを刺したらしいです」
どこから突っ込めばいいのだ?
まず、殴り合うにしてはサイズが違い過ぎる。
宮井氏は140㌢くらいの身長だ。怪獣と言ってもおかしくない5㍍近い野獣と殴り合える筈が無い。
「なんせ宮井さんは高校生時代はボクシング部に入っていて、自称世界を取れる逸材だったそうですから」
いや、ボクシングをやっていようが、体格差が有り過ぎて無意味だと思うぞ。
「へー、そうなんですね」
納得するな、角田・・・・・
ここからでは、行列の先頭で時々口から何かを発射している宮井氏の後ろ姿しか見えないが、最初に逢った時に感じた『とんでもない野獣』という感覚が正しいのだろう。
そもそも、見慣れてしまったとは言え、口から何かを発射する人間と言うのもツッコミどころ満載だ。
地球でも魚かなんかで、昆虫を口から発射した水で撃ち落とすのが居た気がする。
だが、宮井氏のは威力も射程も段違いだ。
突進して来る草食動物(これも角が生えていたりしてツッコミどころ有り過ぎだろ)の接近を阻止する為らしいが、着弾地点に舞い上がる土煙からすると拳銃とは桁が違う威力がこもっている。
今日から禁猟期間らしいので狩らないらしいが、その気になったら狩り放題だ。
俺たちが苦労して狩っていた鹿みたいな動物もきっと簡単に狩れてしまうのだろう。
「僕が知る限り、最強に近い存在だと思いますね」
「『地上最強』ですか・・・ 凄いですね」
「その他にも『宮井伝説』が沢山有って、1日では語り尽くせない程ですよ」
もう、突っ込む気が湧かない。
しばらくすると、前方から何かが接近するのが見えた。
土が跳ね上げられているせいで目立っている。
近付いて分かった正体は2人の猫人間と竜だった。
猫人間はこの際いい(いや、良くは無いが)。
だが、竜はさすがに見逃せない。
「凄い! ドラゴンが来た!」
角田巡査が興奮した様子で声を上げた。
「ああ、楓ちゃんと水木ちゃんです。宮井さんの小学校3年生の娘さんですよ。一緒に来た竜人種は友達の沙倶羅ちゃんですね。あの年代では最強のコンビですね」
山本氏が解説をしてくれた。
3人が宮井氏と合流した後は、和やかな再会シーンが展開された。
まあ、その内の1人が竜だというのが何とも言えないが、なんにしろほのぼのとした光景だった。
「ついでに言うと、猫人種はあと3人居ますが全員未成年です。竜人種は自衛隊に2人、高校生に1人居ます。その他にも昨日逢った黒田さんと同じ鷹人種の大人も居るので、人材及び戦力面では第1次と第2次召喚被災者よりも遥かに恵まれていると言えるでしょう」
どうやら、俺たちは苦労した末に、頼りになる被災者仲間と合流出来たらしい。
苦労した甲斐が有ったと思うべきだろう。
これまで俺たちが見て来た平野と違って、まさに草原としか言えない中を、昼食と休憩を挟みながら6時間歩いて到着した場所は、森に200㍍ほど入った場所に拓かれた長方形の開墾地だった。
そこは野獣の侵入を防止する為と思われるゴツイ柵に囲われていた。森との間はだいたい20㍍くらいは開墾されている。あちらこちらに切株が残されているが、断面を見れば最近開墾された事が分かる。
柵に囲われた集落の大きさは、短い辺で100㍍、長い辺で200㍍と言ったところか?
これも木で出来た門を抜けると、建物が整然と並んでいるのが見えた。
志賀之浦に建っていた建物は高床式住居だったが、こちらの建物は特に床が高いという訳では無かった。新堺で見た建物にそっくりだ。
ぱっと見た感じで20棟以上の建物が整然と並んでいる光景は、感慨深いものが有った。これらの建物に、俺たちと同じ様に召喚災害に巻き込まれた被災者が今現在250人以上住んでいるのだ。新堺や志賀之浦と違って見えるのも当然だろう。
出迎えてくれた被災者は一目見て志賀之浦の同類と違う集団だと分かった。
一言で言えば、日本人らしさが滲み出ていると言える。
常に不審な人物が居ないかを職業病の様に気にする俺たちにとって、日本人と外国人を見分ける事は簡単だ。見た瞬間に分かる。空気が違う、ファッションが違う、所作が違う、骨格が違うのだ。
ここの同類は、ちょっとした仕草や表情に日本人らしい動きが混じる。強いて言うなら志賀之浦で見た仕草に比べて柔らかいのだ。ウンウンという感じの仕草は志賀之浦では見ていない。
服装も、何色もの染料が使われているのでカラフルだ。志賀之浦と違って野暮ったくない。
ああ、確かに志賀之浦でも歓迎してくれた。
だが、ここではそれに加えて、労いの気持ちが滲み出ている。
みんなも同じ様に感じたのだろう。
感情が高ぶって行くのを感じる。
先頭を歩いていた宮井さんが振り返って、みんなを見渡しながら言った。
「ようこそ、新和泉村へ。ここが貴方たちの新しい住処です。本当にお疲れ様でした」
泣き声を上げて泣き出した仲間を隣の人間が肩を抱いて慰めている。
その人物も涙を流しているが、気にした素振りも見せなかった。
俺たちは苦難の末に、遂に異世界での居場所を得たのだ。
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お読み頂き、誠に有り難うございます。
ブックマークが1件減って、評価も2点減ったせいで続きを書く気力が急降下しましたが、TTaT様から活動報告にコメントをして頂いたので、執筆意欲が盛り返しました。 有り難う御座いました\(^o^)/