第110話 「140日目15時35分」
20180711公開
設定の修正に伴い、一部表記が変更されています。
修正前 【6月13日の午前10時頃です】
【第3次召喚大災害】
修正後 【「自分も同じ時間です」】削除
【第4次召喚大災害】
特にあらすじが変る訳では有りません。
新堺に行く前に、持って行く物の確認だけは済ませる必要が有る。我が家に戻りながらチェックを開始する。
まず、飲用水に関しては水筒1つ分を飲み干しているから要補充だ。
次に、武装に関しては本当は要らないが、余計な事を考えさせない為に持って行った方が良いだろう。
もちろん、話し合いで解決する気だが、勘違いさせる訳には行かない。俺が規格外の戦闘力を持っていると分かっていながらも、手ぶらだとこっちが手を出さないと勘違いする可能性が有るからな。取敢えず標準的な武装と言う事で磨製石器を使った槍を持って行こう。
防具は今のままで構わないかな? 最近になってやっと生産数が安定した志賀之浦製のレザーアーマーで十分だろう。ちなみに山本氏が製作のヒントを与えて、それを基にして志賀之浦に開発してもらった最新の道具だ。
今、俺が身に付けているレザーアーマーは胸部・腹部・腿前面・脛前面をカバーするタイプだ。
もっとも、俺でも知っていたくらいに有名なレザーアーマーという防具だが(ドラク〇で俺は知ったが)、山本氏の話では実際にはそれほどメジャーな防具では無かったらしい。
本職のライトノベル作家の山本氏曰く、『ファンタジー系の世界観ではレザーアーマーというのは基本装備で出てきますが、実際の地球の歴史ではマイナーな存在なんですよ。チェーンメイル、ブリガンダイン、それとプレートアーマーが身に付ける防具の3大メジャーです』らしい。その後、日本の鎧の歴史を語られたが、正直なところ半分くらいしか覚えていない。
それと、トリケラハムスターの皮を硬化させて作っているから、俺の身体強化よりは遥かに劣る防御力しかない。ある意味、俺の身体を守る為と言うよりは服を守る為に着ている気がしている。
だが、この後の事を考えると、身に付けている事で得られる抑止効果は捨てがたい。
共同井戸で水筒に水を補充して、自宅に置いてある槍を持ち出して背負子を代わりに置けば準備は終了だった。
久々に来た新堺は、何と言うかテレビで見た過疎化が進んだ限界集落の様な空気が漂っていた。懐かしいというより哀しいという感情が浮かぶ。確かに人口が最盛期の10分の1になったんだからこの空気感は仕方ないのだろうが・・・
実際の所、新堺の連中はこの冬を越せても、狩りと採取をしなければ限界は近い筈だ。備蓄食料も無尽蔵では無いからな。今では志賀之浦と交易を行っていない為に備蓄食料を食いつぶしているだけだろう。
まあ、それ以上にヤバい状態と言う事に気付かざるを得ない。
俺くらいしか分からないだろうが・・・
沙倶羅ちゃんが言っていた口喧嘩は未だ継続中だった。
天田大先生のグループは22人全員が揃っている。
対峙しているグループは37人だ。全員が茶ポメだ。
服装は沙倶羅ちゃんが言っていた通りに襤褸切れ一歩手前の日本の服を身に纏っている。
ただ、こまめに洗っているのか、垢まみれという感じでは無い。何とか文明的であろうと努力していると感じさせる姿に見える。打製石器で作った槍を何人かが持っている。
間に自衛隊の6人を挟んで睨み合っている姿は激昂直前の一触即発の様に見えるが、気配察知では違う。
天田大先生のグループには余裕が感じられない。主に警戒感を募らせている。その癖、相手に対する優越感も抱いているな。
対するグループは様々な感情が入り混じっている。
怒りと苛立ちが1番多いが、それ以外にも懇願や悲しみ、果ては殺意まで抱いている。
120㍍まで近付いた段階で、第131地区警務隊信太山派遣隊の6名と新しいグループの半数が俺に気付いた。
第131地区警務隊信太山派遣隊の6名は安堵したという気配に変った。
自衛隊のみんなは、気配察知の訓練を受けているからこれくらいの距離で気付いて当然だが、新しいグループは思ったよりも実戦慣れをしている感触だな。
ここに来るまでにかなりの苦労をして来たと見て良い。
天田大先生のグループは、目の前の反応を見て、こちらを見てやっと俺に気付いた。
気配察知では無く、ただ単に視線を辿っただけだ。本人たちは気付いていないのだろうが、自分たちが脆弱だと言う証明を現在進行形でしているのだがな。
おかげで、自分たちがどれほどの危険の淵に突っ立っているかに気付いていない。
俺が近付くにつれて、新しいグループの反応が変わって来た。
その変化は、俺の力量を分かりつつあるという感じだ。
現場の10㍍手前で立ち止まる頃には、全員が俺をガン見していた。
うん、君達の勘は正しい。
ここに居るのは化け物だ。しかも困った事に脳筋なんだぜ。
「テ、テメエ、誰の許しを貰って、ここに来た?!?」
天田大先生の取り巻きの1人が、ふと気づいた様にだみ声を上げた。
残念ながら、声が震えている。
「そうや、アンタなんか呼んでへん! 早う出て行け! 不法侵入で訴えるで!」
近藤さんの声は震えていないが、相変わらずヒステリックな金切声だ。
「篠塚二曹、罪も犯していないのに集落への立ち入りを禁じる様な法律って無いですよね?」
「はい、有りません」
「今、作った。だから出て行け!」
子供か?
そういえば天田大先生は未だに無言だ。
まあ、構わないか。
「篠塚二曹、これまでの経緯を教えて欲しいのですが?」
「はい。14時55分に当新堺に援助を求める集団が現れました。人数は37名。それから現時刻まで話し合いが続いています」
「なるほど」
うん、かなり端折ったな・・・
まあ、構わないか。
「自己紹介が遅れました。自分はこの集落の前の代表の宮井隼人と言います。今は新たに開拓した新和泉村の村長をしています。代表の方が居られましたら、事情を訊きたいのですが?」
一拍置いて、1人の男性が出て来た。
槍を持っている内の1人だ。
背は高い。多分180ちょっとはある。俺とは40㌢くらいの高低差が有る。
どの様な社会的な身分かは、服装を見れば分かる。
警官だ。
そう言えば、他にも3人が警官だ。
自己紹介の前に敬礼をされたので、思わず答礼を返していた。
ちょっとビックリした表情になった。伊達に自衛隊と一緒に時間を過ごしていない。
「警部補を拝命している大野敦です。一応、リーダーを任されています」
「召喚されたのはいつですか?」
「平成29年8月4日の19時前後です」
「と言う事は第4次召喚大災害の被災者と言う事で間違いないですね」
「ええ。交通事故の現場に居るところをこっちに連れて来られました。なんとか1人の犠牲も出す事無くここまで来たのですが・・・」
2度も犠牲者を出した俺よりも何万倍も立派リーダーだ・・・
お読み頂き、誠に有り難うございます。
それと昨日、【ここ2日でブックマークが2つも減りました・・・ テンションがマリアナ海溝の最深部よりも下がってしまいました・・・】とあとがきで書いたら、2つ復活しました(^^)
優しさが沁みます・・・(;;)