第10話 「2時間05分後」
20170710公開
俺は、自分が放ったドラゴンブレスもどきに近い攻撃をする生物を知っている。
地球で一番有名な異世界の生物だ。
罠で生捕ったソイツを持ったまま、異世界から帰還した『被災者』が居たのだ。
一般的には『ユニコーン』と呼ばれている。トリケラハムスターに近い種みたいだが、正確なところは不明だ。なんせサンプルが1匹しか居ないのだ。
サイズは30㌢程しか無く、呼び名の通りに角は1本だ。
『被災者』の聞き取り調査では、その角には強力な薬効が有り、こっちの世界ではとんでもない高値で取引されているそうだ。
研究の為に、薄い銅板で出来た罠から出された途端にソイツは四方八方に何かを発射した。
保護された『被災者』が危険性を伝えていなければ、負傷者が出ていたかもしれないほどの威力を持った攻撃だった。
そして、その時の映像は全世界に公開された。いや、公開せざるを得なかったと言える。
国民に犠牲者が出ている当事国とはいえ、日本だけで抱えるには余りにも情報の価値が大き過ぎたのだ。
「お父ちゃん、すごおぉぉい! まるでシン・ゴジ〇みたい!」
楓が跳び上がって、俺の背中に飛び乗って来た。
身長がほとんど変わらない為に、踏ん張り切れずに2、3歩前に押されたが、何とかそこで踏みとどまった。父親の威厳的にも危ない所だった。
「おとーちゃん、いつの間にそんな魔法をおぼえたの?」
水木も控え目に飛び付いて来た。
正直、同じくらいの体格の2人を背中に乗せるのは無理だ。遂に潰れてしまった。
「あ、ごめん」
「ごめんなさい! けがしてない?」
「ああ、大丈夫。さすがにこの身体だと2人を背負うのは無理みたいだ」
地球に居た頃は、しょっちゅう背中に飛び乗られていたので、娘たち的には自然な行為だが、残念ながら今の俺の身体では受け止める事は不可能だ。
娘たちにばれない様にスクワットや器具を使って背筋を鍛えていたが、無駄になってしまった。
そんな俺たちの様子を驚いた様な顔で見ていた京香ちゃんが、しばらくすると恐る恐る声を掛けて来た。
「楓ちゃんと水木ちゃんのお父さん、今のはなんですか?」
何と答えればいいのだろう?
正直なところ、俺にも分からない。本能に従った結果、出来ただけだ。
ただ、この異世界には地球には存在していなかった元素がゴロゴロしている事は政府も認めていた。
『被災者』の身体自体は帰還と共に元に戻ったが、身に付けていた服や道具は異世界での組成そのものが持ち込まれていた。
その素材を政府は兵庫県に在る『SPring-8』で徹底的な調査をしている最中だ。
全貌は遥か彼方だが、1ヶ月前に公表された中間発表は世界を熱狂の渦に叩き込んだ。
気の早いマスコミは『伝説の鉱物オリハルコン発見か!?!』とか、『短剣にミスリル含有が判明!』とか、センセーションに煽った。
地球では空想でしかなかった『魔法』を現実に使った『ユニコーン』の研究と並んで、最も注目されていて、将来のノーベル賞を左右する研究と言って良いだろう。
俺の放ったドラゴンブレスもどきも、未知の現象の1つとしか言えないと言うのが正直なところだ。
だが、子供の素朴な疑問を軽く見て適当に答えれば、悪影響は意外と後に響く。
そういう素朴な疑問こそが、大人を残酷なほどに試しているという事を世間の親は軽視し過ぎだ。
だから、俺は全力で考えて答えた。
「マンガやアニメの主人公が使う必殺技みたいなモノと思っておいて」
誰か、俺を慰めてくれ。
自分の感性がこんなに貧弱だと思わなかった・・・・・
穴を掘って引きこもりたい・・・・・
そんな俺を放置して、3人は真剣に必殺技の名前を相談していた・・・
5分後にやっと、俺たちは出発した。
必殺技の名前は、『マジカルミラクルブレス』に決まった・・・・・
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