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第104話 「94日目15時30分」

20180626公開


 俺たちが連れ帰ったノナロクラユキルたち4人の猫もどきは新和泉にちょっとした騒動を起こした。


 まず、志賀之浦くろポメのむらから派遣されている黒ポメたち7人が、4人を見て驚いた。

 手に抱えていた食料が入った袋を落とした事にも気付かずに、口をあんぐりと開けている。

 昔の事とはいえ、1人の猫もどき(バーサーカーと推定される)に繁栄していた居留地を壊滅させられたのは事実だから、仕方ないとも言えるか。

 俺との初遭遇の時の事を思い起こせば、逃げ出さなかっただけ猫もどきに慣れたのだろう。


 次に、途中で俺たちに合流した高校生たちだ。

 ハッキリと言って、騒動の中核だ。

 道中でもテンションが上がっていたが、新和泉に着くまでは警戒を優先させていたから、その分だけ馬防柵を越えてからは一種のお祭りの様に盛り上がっていた。

 粘土採集の帰り道に採取していたイチゴモドキとブルーベリーモドキを手ずから与えようと騒がしい。

 その勢いに、3つ子が逃れようとするが、親代わりのユキルは沢田來未さわだくみ君がぶっているから頼りにならない。

 それなら來未君にしがみ付くか、小室風子こむろふうこ君の方にしがみ付くかと思ったが、何故か俺の方に来た。今は俺の服を握ってしがみ付いている。



「ちょっと落ち着けって。あまりグイグイ行くと嫌われるぞ」


 俺が苦笑いを浮かべながら言うと、高校生たちも少しは落ち着いた様だ。

 まあ、1人だけニコヤカナ笑顔を浮かべている女子高生が居るが・・・

 ユキルは未だ恥ずかしがっているから、2人の表情が対称的過ぎてクスリとしてしまう。


「でも、イチゴモドキとブルーベリーモドキを与えるのは良い考えだと思う。どうやら食べた事が無い様だからな。でも今みたいにみんながみんな一斉に与えようとすれば怖がられるから、自分がみんなの分を預かって与える事にするよ」


 その言葉を聞いた風子君がすぐに手編みの籠を用意しに居住区に向かった。

 こういう部分で高校生たちの存在価値が如何に高いかということが分かる。

 大人といえども、命令されてからしか動けない人間も多いからな。



「それよりも、少しの時間、病人を寝かせて上げたい。誰か部屋をちょっとだけ貸してくれないかな?」


 俺、山本氏、黒田氏が使っている部屋に寝かせてもいいが、その部屋を4人に明け渡す予定だから片付ける必要が有る。

 枕もとでごそごそされたら、寝ていても落ち着かないだろう。

 すぐに手が上がった。内山和子うちやまわこ君だ。

 こっちに来る直前に、特製の磨製石器製薙刀もどきを志賀之浦からプレゼントされて、益々頼もしくなった子だ。

 実際に薙刀の形を1通り見せて貰ったが、人間のままなら素手で闘おうとするのは無謀としか言えない迫力が有った。

 どうしても闘わなければならないのなら、ボクシングでなく陸奥圓〇流が必要だな。


「わたしの布団を使って下さい。部屋も貸して上げて良いよね?」


 後半の言葉は同室の同級生3人に向けたものだ。


「うん、勿論」


 即答だ。全員の声もハモったし、頷きのタイミングもピッタシだ。

 いざという時の為に練習でもしていたのか? と言いたいくらいだ。

 まあ、どんな『いざ』かは想像も出来んが。


「宮井さん、私たちの布団と部屋を使って下さい。そのまま明け渡しても良いですよ」   

「ありがとう、助かる。でも布団は予備を出すし、部屋は男連中の部屋割りを弄って何とかするよ」



 その時、山本氏けんじゃが、新和泉築造の主力を担う自衛隊の第3後方支援連隊第2整備大隊の田代豪哉二曹を連れてこっちに向かっているのが見えた。

 途中で黒ポメたちにも声を掛けて、一緒にやって来る。

 緊張はしているが、初見の衝撃は乗り越えた様だ。


「すまないが、やまいの者が居るので、先に寝かしに行きたい。歩きながら説明するけど構わないかな?」

「わざわしとなかれ?」

「ない。任せて欲しい」


 俺の言葉に、黒ポメのリーダーを務める焼物造部頭やきものつくりべかしら大手佐彦おおてのさひこが頷いてくれた。

 普段は寡黙な人物だが、俺たちの日本語の聞き取りはある程度出来るし、新和泉の存在意義とも言える銅精錬を任されるくらいの技術者だ。

 まあ、酒が好きなのが珠に傷だが、おかげで志賀之浦からたんまりと酒を持って来て貰えたので却ってありがたい位だ。

 男子高校生からは、身長や風貌、酒好きな事からドワーフにキャラが似ていると言われているが、れっきとした犬人種ポメラニアンもどきだ。


 部屋にユキルを寝かすのは予定よりも遅れた。

 3つ子を一昨日完成したばかりの共同風呂に入れるという話を聞いたユキルが、どうしても入りたいと言い張ったのだ。

 女の子だし、身きれいにしたいのは異世界でも共通なのだろう。

 それに日本人の母親から『風呂』という名の桃源郷を聞かされていた可能性も高い。

 食いつきが半端無かった。

 4人を風呂に連れて行く來未君がルンルン(古いか?)だったのは言うまでもない。

 


 4人が風呂に入っている間に大手彦佐おおてのひこさを交えて、4人の扱いを話し合ったが、最終的には受け入れる事が決まった。




 風呂から出て来た5人の表情は2組に分かれていて見物みものだった。

 男の子2人はゲンナリしていたが、女の子3人の顔には笑みがこぼれていた・・・

 ユキルの体調不良もかなり回復した様だった。

 お風呂、恐るべし・・・



お読み頂き、誠に有り難うございます。

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