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第103話 「94日目14時55分」

20180620公開


 新和泉への帰路は、進み易いルートを選び、ペースもゆっくりとしたものにした。

 体調不良のノナロクラユキルを気遣ったからだ。

 第1普通科中隊第1小隊が持って来ている簡易担架を使う事を勧めたが、本人が自分の脚で歩きたいと固辞した。

 きっと、運ばれる事で3つ子に余計な心配を掛けさせたくなかったのだろう。

 その3つ子だが、頻繁に心配そうにユキルを見ている。声も掛けている。その度にユキルが何とか笑顔を見せていた。

 これまで彼女が親代わりを務めていた事が分かる光景だった。

 中学生くらいだと思うが、立派なものだ。

 うん、そんな健気な彼女が最後の力を振り絞ったブレスをあっさりと弾き飛ばした俺って、薄情な人間の様な気がして来るから不思議だ。



 そろそろ新和泉の姿が木々の間から見えるかも? という所まで来た時に、山本氏けんじゃと高校生10人の気配を捉えた。新和泉の手前100㍍の地点だ。

 確か、今日は簡易レンガ造りに使える粘土を、最近見付けた和泉川(和泉湖から流れ出ている川)沿いの採掘場所まで採取しに行く予定だった筈だ。移動方向から考えて、採取が終わって戻る途中なのだろう。

 気配察知圏の広さが違う為に、向こうからは分からない筈だったが、1人が立ち止まってこちらを探る気配がした。

 しばらくすると、2人ほどグループを離れてこっちに真っ直ぐ向かって走って来る気配がした。

 誰だろう? 俺と同じ距離で気配を捉える事の出来る子は居なかった筈だが?

 1分後に合流して来たのは、沢田來未さわだくみ君と小室風子こむろふうこ君だった。

 

「あー、やっぱり仔猫が居た! しかも、4人も!」

「來未の勘、凄過ぎ!? でも、素直に褒める気がしないのは何故? あ、宮井さん、お帰りなさい」


 風子君が礼儀正しく俺に挨拶をしている間に、來未君がユキルたち4人のすぐ近くまで寄って来ていた。


「うわー、可愛い! 楓ちゃんも水木ちゃんも可愛いけど、こっちはこっちで違う可愛さが有る! お姉ちゃんは來未って言うんだ。お名前を教えてくれるかな?」


 まあ、当然と言えば当然だが、3つ子はユキルの後ろに隠れた。

 前面に立たされたユキルが俺を見て来た。

 その視線には、SOSたすけてというシグナルが多量に含まれていた。


「來未君、詳しくは後で説明する。それよりも、その子が体調を崩しているので、おんぶして上げてくれないか?」

「ご褒美来たぁ! イエッサー! マム! イエッサー!」

 

 來未君の答えに坂本二尉が噴き出した。


「沢田君、マム要らないから。女性の上官向けだから」

「おっと、可愛い過ぎて、理性が蒸発してた! では、改めてイエッサー!」


 うん、來未君が猫大好きなのは相変わらずだ。

 ちょっと暴走気味なのは楓と水木に会えない事で猫成分の禁断症状が出ているのだろう、きっと。

 でも、アレは過剰摂取にも副作用が出るから適度な用法が肝心だ。

 だが、今まで男しか居なかったので無理に言えなかったが、女性の來未君になら背負って貰う事に抵抗が無いかもしれない。チャンスだ。

 益々困った顔をするユキルにアドバイスの形で誘導する事にした。


「ユキル、素直にぶって貰った方が良い。でないと、抱き上げて運ばれたり、かつがれて運ばれる事になる。もう分かったと思うが、彼女はそれくらいは平気でするぞ」

≪うん、わかた≫

「あー、声も可愛い! 舌っ足らずなところもいい! 宮井さん、ナイスアシスト!」


 そう言って、俺にサムズアップして来る來未君だが、この場面だけ見ていると彼女が大人顔負けの政治力を持っているとは信じられないだろう。

 何と言っても新堺の中核勢力だった高校生たちのリーダーと言って良いし、その政治的センスも第3次召喚被災者の中ではずば抜けているのだ。

 

「日本語上手だね。そうそう、それでお名前はなんていうの?」

≪ノナロクラユキル≫

「へー、ノナロラクユキルちゃんと言うんだ。で、彼の名前は?」


 ユキルを負ぶっても、身体能力強化を使っているから膂力りょりょくに余裕が有る來未君が息を乱す事無く会話を始めた。

 その一方で、気が付いたら風子君もミラロクリカヌロ(黒ワンポイント)とミラロクラカミル(薄茶ワンポイント)の手を引いている。

 ミラロクリカナロ(灰色ワンポイント)はしっかりした性格なのか、手を繋がれなくても平気な顔で來未君の前を歩いている。


≪ミラロクリカナロ≫

「なるほど、なるほど。あの子は?」

≪ミラロクリカヌロ≫

「へー、それじゃ、あの子は?」

≪ミラロクラカミル≫

「ん? カナロ君、カヌロ君、カミルちゃんで合ってる?≫

≪ナァ≫

「可愛い! もう一回言って」

≪ナァ?≫


 來未君がグリ! という感じで顔をこちらに向けた。ちょっと怖かったのは内緒だ。


「宮井さん、このままお持ち帰りは可能ですか?」

「持ち帰りも何も、現在進行形で新和泉に連れ帰っている最中なんだが?」

「よっしゃ、お持ち帰りの許可をゲット! お姉ちゃんが面倒見るから、何も心配しなくていいよ!」


 

 別の意味で俺は心配なんだが・・・

 まあ、なんにしろ、來未君が味方に付いたならば、彼女たち4人の受け入れは問題無くみんなに受け入れられる筈だ。俺としてはありがたい。

 両親の事が有るので訊き出す時には注意が必要だし、大人と違って限定的な情報しか得られないだろうが、戦略的に考えて西側の山脈の向こう側の情報も手に入るのは大きい。

 もしかすれば、ゴブリンの情報を何か知っている可能性も考えられる。

 

 


お読み頂き、誠に有り難うございます。


注:うっかりと時系列を狂わせていたので、前話に修正が入っています。

修正前【1週間前に遭遇したソイツは、問答無用で一族に襲い掛かって来た】

修正後【4か月前にいきなり現れたソイツは、問答無用で一族に襲い掛かって来た】


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