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第102話 「94日目12時45分」

20180615公開


「そうか、それは大変だったな・・・ ユキル、よく頑張った」

≪ニャア。この、こ、たち、がんばた、だけ≫ 


 俺のねぎらいの言葉に、1番年上のノナロクラユキルが5切れ目となる森林兎もりうのブロック肉を飲み込んでから答えた。

 そして、ノナロクラユキルが3つ子の頭を撫でた。


≪おかげ、で、あなた、たち、と、あえた。お、か、さん、たち、よろこ、ぶ、きと≫


 3人とも目を細めている。森林兎もりうの肉を腹一杯食べたから眠くなっただけかもしれないが、幸せそうな顔にも見える。

 3人の顔を眺めた後で、彼女は3人の子供たちに何かを話し掛けた。


 その言葉は明らかに日本語とは違った。印象としては、東南アジアっぽいとしか言えない。

 少なくともヨーロッパ圏発祥の言語ぽくはない。

 変な言い方だが、ヨーロッパ圏発祥の言葉は豊富な語彙と洗練された文法で成り立っている。近代文明を牽引した歴史が為せる完成度だろう(俺自身は日本語を結構自由度が高いと思っている。漢字を使えば造語は作り放題だし、文法が多少いい加減でも意図が伝わってしまうからだ)。

 彼女たちの言葉は朴訥とした感じに聞こえる。

 ただ、面白いと思ったのは、肯定の言葉がナァで、否定の言葉がニャアだという事だ。

 普通は、はい/いいえ、イエス/ノー、ダー/ニェットの様に発音が明確に分かれている気がするんだがな。


 3人の子供たちの名前は、黒ワンポイントがミラロクリカヌロで、灰色ワンポイントがミラロクリカナロ、薄茶ワンポイントがミラロクラカミルだ。

 彼女たちの名前には名字が無い。その代りに誰が父親か? がくっついて来る。

 召喚被災者2世のノナロクラユキルならば、『ノナロの娘ユキル』という具合だ。

 3つ子は『ミラロの息子カヌロ』、『ミラロの息子カナロ』、『ミラロの娘カミル』となる。

 この事から分かるのはユキルと、カヌロ、カナロ、カミルの3人は父親が違うという事だ。


 4人は元々、和泉平野の西側に連なる山脈の向こうの草原に住んでいた。

 草原と言っても、ところどころに低木が生えている林が在るらしい。

 基本的に猫人種ネコもどきは核家族で暮らすらしいが、珍しく血縁関係の無い3家族3世代17人で1つのコロ二ーを形成していたらしい。象人族ゾウもどきのヤマさんたちとはちと違う形態のコロニー構成だ。

 だが、17人の内で生き残ったのは、ここに居る4人だけらしい。残りの13人は、若い彼女たちを逃がす為に全員が犠牲になった可能性が高い。

 その原因は、たった1人の猫人種ネコもどきという事だ。

 4か月前にいきなり現れたソイツは、問答無用で一族に襲い掛かって来た。


 原住民として生きているネコもどきには、1つの言い伝えが有るらしい。

 幼い頃に異常に残忍な行動をする子供は将来、家族に不幸をもたらすというものだ。

 どの様な不幸かと言えば、何が切っ掛けとなるか不明だが、大人になってしばらくすると急に凶暴になって破壊衝動が抑え切れなくなるらしい。凶行のターゲットは周囲に居る生き物全てで、家族もそのターゲットに入る。

 殺し尽くすと新しい獲物を求めて移動するという迷惑千万なヤツだ。

 127年前に志賀之浦くろポメのむらを恐怖のどん底に叩き込んだネコもどきが、きっとそういう存在だったのだろう。地球で言うバーサーカーみたいなものなのかもしれない。


 バーサーカーとなったネコもどきは、リミッターが外れた様な戦闘力を発揮する。それに対して周囲のネコもどきは家族という事も有って、手加減をしがちなのだろう。

 そして殺戮をし尽くした後か、ぎりぎりまで体力を絞り尽くした後は北欧神話にも有る通りにしばらく動かなくなる。

 犠牲になったかもしれない13人は、その虚脱するまでの時間を稼ぐ為に闘ったらしい。

 バーサーカーとなったネコもどきが、逃がされた4人を追い掛けて来なかった事から、作戦自体は成功した様だ。

 だが、誰も4人を迎えに来ない。

 ユキルの母親で召喚被災者のスダジュンコさんの安否は不明だが、最悪の事態を考えておかねばならないだろう。

 坂本二尉以下、周囲を警戒している自衛隊員全員の反応も沈痛だ。



 その話を聞いた俺が考えた事は5つだ。

 1つめは、そのバーサーカーが新和泉に来る可能性。

 2つめは、その場合の対処法。

 3つめは、偵察に行くべきかどうか。

 4つめは、この子たちの処遇。

 5つめは、俺自身がそのバーサーカーという可能性。


 1つめの可能性は無いとは言い切れない。

 ゴブリンどもが攻めて来る可能性と同じくらいと考えておいた方が良いだろう。

 4人の逃走して来た痕跡を辿って来てもおかしくない。


 2つめの対処法は、毒を以って毒を制するしか無いだろう。

 要するに、俺が対処するしか無いという事だ。

 例え、自衛隊が銅器で武装をしていても、ネコもどき13人に勝てる相手に無傷で済む筈が無い。

 ネコもどきには遠距離攻撃能力が有る。

 確かに、ノズルさんだか、ドツクさんだか忘れたが、傷だらけの強面の偉い人が言っていた通りに戦いは数だろう。

 だが、勝ったとしても犠牲が出るのは好ましくない。

 自衛隊には対ゴブリン戦というメインイベントが控えているのだ。

 戦力を温存する必要が有る。


 3つめの偵察はすべきだろう。

 ただし、黒田氏による上空からの偵察に留めるべきだ。

 地上で接触すると離し切れずに新和泉まで案内してしまう可能性が有る。


 4つめは、今更突き放せる訳が無い。

 誰が反対しても、何を言っても、俺1人だけでも4人を保護する。

 まあ、かえで水木みずきも賛成するのが目に見えているしな。 


 5つめの可能性だが、十分にあり得る気がして来た。

 話しを聞いた限り、ユキルたちのコロニーは俺たちと変らない生活をしていた様だ。狩猟採集で暮らしていたという事だ。まあ、変わり者のコロニーだった様だし、召喚被災者が混じっていたから一般的なネコもどきでは無かったかもしれんが。

 少なくとも、ユキルの話を聞く限り、クマもどきと闘いたいなどとは思わない性質だったみたいだ。

 となると、戦闘狂としての一面を持つ俺にはバーサーカーとしての一面が有る可能性は否定出来ない。



 どうしよう?

 俺がバーサーカー化したら誰が止めるんだ?

 取敢えず、脳筋からインテリに進化出来る様に頑張ろう・・・・・




お読み頂き、誠に有り難うございます。

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