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第100話 「94日目11時20分」

20180607公開


 3頭のチビッ子猫もどきの年齢は幼児と言って良いだろう。

 身長は1㍍も無いし、目と耳が仔猫特有のサイズ比で大きく見える。

 飢えの為か見るからに痩せている。

 ただ、お腹が膨らんでいないので長期に亘る栄養失調では無さそうだ(飢餓状態の難民の子供たちのお腹が膨らんでいるのは長期に亘って血液内の栄養が不足した為に体液として血管外に漏れてしまって腹水になるからだ)。

 服装に関しては、2頭が毛皮で出来た腰布を巻いているだけだ。何の毛皮だろう? ちょっと分からない。1頭は何故か胸から腹に掛けて葉っぱを粗く編んだものを巻いている。

 それ以前に自前の毛皮が有るのに、腰布などが必要なのか? もしかすれば俺たちと同じ召喚被災者かと思ったが、或る違いを見付けて可能性を却下した。

 毛の色は白を基調として、それぞれ薄茶(腰布と胸布)・灰色(腰布のみ)・黒色(腰布のみ)の斑点がワンポイントのアクセントとして喉元から胸元の間に生えている。見分けるのは簡単そうだ。

 そして、俺たち召喚被災者と違って頭髪と分かる毛は生えていない。頭髪の有無で俺たちがハイブリットの存在という事が分かった。


 見知らぬ同族に対する警戒心も有るが、恐怖心の方が上回っているな。親と兄弟で暮らしていたところに急に俺が現れたのだ。幼くとも俺の強さが分かっている様だ。恐怖しているからこそ威嚇して来ているのだろう。

 第一、頼りの親が倒れてしまっているのだ。

 その事を考えると頑張っていると思っていい。



 チビッ子猫もどき3頭との睨み合いは2分ほど続いた。

 生まれて初めて味わう緊張感と恐怖心のダブルのプレッシャーに耐えきれなくなったのか、右端からパタパタパタという感じで、チビッ子猫もどきがうずくまった。

 両手で頭を抱える姿勢をしている。

 きっと野生の猫もどき同士では、降伏というか服従の表明をするという意味なのだろう。


森林兎もりうの肉を食べさせます。よろしいですか?」

「了解です」


 坂本二尉に聞こえる程度の小声で話し掛けてから数分後には、俺は座り込んで森林兎もりうの解体に取り掛かっていた。

 地面に半分露出している木の根っこの上に遠征用の小型のまな板を乗せている。

 トリケラハムスターもそうだが、小型の動物は熟成させなくても美味しく頂けるのはありがたい事だ。

 ネット上の第1次と第2次の召喚被災者の話では、血抜きした後で川などの流水で冷やした方が美味しいとなっていたが、多少味が濃くなる感じがする程度だった。まあ、保存の為には冷やした方が長持ちするのは事実だが。

 今使っている志賀之浦くろポメのむら製の磨製石器のナイフは最新のタイプだ。

 それまで造られていたナイフは如何にも石器、という握りこむ形状だったので押し切るには良いが、細かい取り回しが難しかった。

 刃を現代風の形状にして、木の柄を取り付けたこのナイフだと、すじを切り分けたりするのが楽になっている。


 まずは森林兎もりうの右足のモモ肉の筋を丁寧に切り分けていく。その上でモモ肉を1.5㌢角くらいのブロック肉に切り揃える頃には3頭のチビッ子猫もどきは1㍍くらいまでにじり寄っていた。

 ゆっくりと視線を向けると、じっと肉を見ていて、3頭とも俺の視線に気付いていない。

 俺の手が停まっている事に気付いたのか、真ん中の灰色ワンポイントが顔を上げて俺と目が合うと、猫そっくりに跳び上って、着地と同時に後方に跳び下がった。

 その動きに驚いて、両脇の2頭も同じ様に真上に跳び上がってから後ろに跳び下がった。


 なに、これ?

 俺を萌え死にさせる気か?


 左足のモモ肉の切り分けに取り掛かったら、またにじり寄って来た。

 目を合わせない様に足元だけをチラチラと見ていると、そろりそろりという感じで近寄って来ている。

 『ぼうさんがへをこいた』という遊びが有るが、それそっくりの動きだ。

 左足の切り分けが終わる頃には、70㌢くらいまで近寄って来ていた。

 3頭とも、じっとブロック状にされたモモ肉を見ている気配がする。

 1つ取り上げて、ゆっくりと持ち上げて、一旦停めてからパクっと食べた。

 

『にゃ!?』


 おい! 本当に俺を萌え死にさせたいのか?

 させたいのだな?

 清水有希しみずゆき君と一緒に行動しているチワワ(何故こんな名前を付けたか問い質したい)こと、一角狼ゆにこーんおおかみの時と違って、このチビッ子たちはどうして一々俺の心を抉って来るんだ?

 やはり猫に似ているからだろうが・・・



 この身体は生肉でも美味しく食べられるが、本当なら胡椒を降り掛けて焼いた方がもっと美味しいと感じるのは仕方が無いだろう。

 だが、野生の猫もどきが焼いて食べるか分からないので、取敢えず目の前で生のまま食べる事が必要だ。

 飲み込んだ頃には、50㌢の距離まで近付いて来ていた。


 さて、いじめの様な事をしてきたが、これは必要な儀式だ。

 先に俺が食べる事で、お互いの上下関係を明確にする為だ。

 その上で、モモ肉を与える事で、安心して食べる事が出来る筈だ。

 今度は4つのブロック肉を摘まんだ。

 そのまま真っ直ぐにゆっくりと前に出して行く。

 この時点ではまだ目を合わせない。

 俺の手が停まった。

 チビッ子猫もどきがこっちの顔を見た気配に合わせて、ゆっくりと視線を上げる。

 右端の黒ワンポイント! 口元が緩んでよだれが垂れているぞ!

 仕方ないので、そのチビッ子の前に手を移動させた。

 恐る恐るという感じで両手を差し出して来た。

 2つのブロック肉を掌の上に置いて上げる。

 そして、気を失っている親の方に視線を向けた。 

 俺の視線の意味が分かったのか、妙に人間臭い仕草で頭を下げた後で親の許までトコトコという擬音が聞こえそうな歩幅で走って戻って行った。

 残る2人にもそれぞれ1つずつ分けて上げると、同じ様に親許に戻って行った。


 


お読み頂き、誠に有り難うございます。


注:作中に出て来た『ぼうさんがへをこいた』ですが、一般的には『だるまさんがころんだ』です。

 多分、関西のローカルルールと思われますので、関西以外の方は各自脳内変換よろしくお願い致します m(_ _)m

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