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第99話 「94日目11時10分」-9月15日 金曜日-

20180606公開


 今日は『和泉大森いずみおおもり』の西側の調査の為に遠出をしていた。

 ここまで来るまでに昼食用に4頭の森林兎もりうを狩って血抜きをしておいたが、そろそろ食べられる木の実を確保してもいいだろう。これまでにも何本もの『クリモドキの木』を見掛けていたから大した苦労もせずに集められる筈だ。


 

 さすがに大きくて植生豊かな和泉大森を調査しきるにはもう少しだけ時間が必要だ。

 現状では大体8割弱の調査が終わった段階だ。

 これまでの調査でも十分な恵みが有る事は分かっている。

 クリモドキ・ナシモドキ・ブルーベリーモドキ・イチゴモドキ・山芋モドキ・ワラビモドキ・大根モドキ・人参モドキ・エトセトラ・・・・・・ 


 特に、胡椒こしょう代わりに使っていた香辛料の新種を見付けた時には思わず躍り出しそうになった。

 2日間乾燥させて、井戸水を沸かして消毒(この地の環境では不要な気もするが念の為)後に5日間乾燥させてから使ってみたところ、これまでに使っていた品種よりも地球の胡椒こしょうに近かった。雑味と苦みが少なくて、胡椒特有のピリっとした刺激がより強いという感じだ。

 俺の胡椒に関しての好みは断然粗挽き派だ。香りも刺激も強い方が良い。

 ちなみに、昨日の昼食で財前司令と第4普通科中隊の自衛隊員に出した森林鹿もりしか森林猪もりししの味付けに使った胡椒は新種だ。美味しいと好評だった。

 更に新たな有用な植物などの発見が有れば、『新和泉しんいずみ』の発展にプラス要因が増えるので、何か見付かって欲しい今日この頃だ。



 『和泉湖いずみこ』の円周部クレーターリム沿いに探索しながら北上し、真北の方位を越えて西に進んで30分ほど経った頃に初めて感じる気配に気付いた。未調査地域の中だ。

 反応は4つ。

 3つの反応と1つの反応に分けても良さそうだ。

 3つの反応は弱いが、1つの反応は強い。強いて言うなら、竜人種ドラゴンもどき級の強さを感じる。

 もう1度戦いたかったクマもどきと違ったのは残念だが、贅沢は言ってられない。

 4つの反応に共通しているのは飢餓状態という点だ。

 俺は右手を上げて、調査班を停止させた。

 一緒に来ている第1普通科中隊第1小隊の10名もその場で立ち止まる。


「坂本二尉、強力な反応、よっつ、230㍍先。竜人種ドラゴンもどき猫人種ネコもどきの可能性有り」

 

 囁く様な俺の声はちゃんと坂本二尉の耳に届いた様だ。こっちを見た。

 

「クマもどきの可能性は除外していいでしょう。ぶっちゃけ猫人種ネコもどきでしょう。かなり腹を空かせていますね。みっつの反応は弱いから子供の可能性が高い」


 3つの反応を子供と推測した理由は均一性だ。3つ子ならこの反応は説明出来る。

 気配が弱いと言っても、それでも大人の犬人種ポメラニアンもどきよりは強い気配をしている。


「どうしますか?」


 俺と同じくらいの声に抑えて坂本小隊長(第1中隊の中隊長も兼ねている)が確認して来る。

 その質問には、接触するのか? 接触するなら方法は? 人員は? という意味を含めているのだろう。


「自分1人で接触します。周辺警戒をお願いします。いざという時には情報を持って新和泉まで後退して下さい」

「了解しました」


 坂本小隊長はあっさりと了承した。

 理由は簡単だ。自衛隊本来の武装をしていれば別だが、現状の磨製石器をやじりにした槍だけの武装では単体としての戦力差が大き過ぎて、自分達が足手まといになる事を理解しているのだ。

 

 以前に和泉大森付近で目撃されたネコもどきの可能性が高いだろう。

 だが、どうしてここに居付いたのか?

 つがいは居るのか?

 居るとすればどこか?

 接触にどんな反応を示すのか? 


 分からない事が多過ぎる。


 西から東へ空気が流れているのは幸いだ。

 俺たち召喚被災者全員の弱点として鼻が利かないという点が有った。

 いや、確かに人間の時よりも利くのだが、元々住んでいる種族の様な分解能が出ない。

 こちらが風上に何か居るな、と分かるのに対して、どの様な種族がどれ程の距離に何人居るのかまで分かるのだから、狩人としての性能はかなり差が付いてしまう。

 まあ、俺に関しては気配察知の能力が飛び抜けて高いので、風向きに関係無く探れるんだが。


 100㍍まで近付いたところで、4頭に反応が有った。

 まだ視認は出来ていないので、こちらの気配を察知したのだろう。

 思ったよりも気配察知の精度が悪いのか?

 それとも気配察知の能力を十分に発揮出来ないほど飢えているのか?


 3頭の反応が慌てた様に1頭の近くまで移動している。

 親と思われる1頭もゆっくりと動き出した。

 合流した4頭はその場を動かなくなった。

 うん、この位置関係は親が子を守る感じだ。

 親らしき1頭がしきりにこちらの気配を探っているのが手に取るように分かる。


 ここまでの反応で、ほぼ確信した。

 戦力として見た場合、俺の方が圧倒的に上だ。

 正直なところ、身体能力強化と身体強化をせずとも、ここからブレスだけで圧倒出来る。 

 野生の猫もどきは基本的に本能のままにブレスを放つので威力も射程もその個体では一定だ。

 それに対して、俺の場合は『厨二病』とやらでバリエーションが豊富過ぎる程だ。

 例えば、この距離でも木を貫通させて攻撃が可能なブレスを放てる。

 下手にこそこそと近付かずに、身体強化を掛けて堂々と接近する事にした。

 クマモドキ程ではないが、俺の身体強化もそれなりの強度を誇る。

 相手が放とうとするブレスの威力を見てから避けるか受けるかを決めても大丈夫なくらいに彼我に差が有る。



 木立越しに標的が微かに白く見えた瞬間にブレスを放って来た。

 まあ、クマモドキくらいの強度が有れば何もせずに弾き飛ばせるのだが、さすがにそんな強度は無いので、右手で払う様にして上空に弾き飛ばした。

 飛んで来たブレスはその1発だけだった。

 


 完全に4頭の姿を視界に捉えた時に見えた光景は・・・・


 気絶している大人の猫もどきを守る様に前に出て、横1列に並んでこっちを睨んでいる3頭のチビッ子猫もどきだった。




 なに、これ?

 俺、悪者ですか? 



お読み頂き、誠に有り難うございます。

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