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009

 

 そして、次の日の朝。

「ここが、これからルルちゃんが暮らす部屋よ」

 俺は自分のものとなる部屋まで、モニカさんに案内されていた。

 というのも、昨日寝ていた部屋はランドさんの仕事用の部屋らしく、「空き部屋の掃除が終わったから、そっちにお引っ越しね」とモニカさんに言われたからだ。


 ちなみに余談だが、仕事部屋に置かれていた俺が使っていたベッドは、ランドさんが独身時代に使っていたものらしく、今はほとんど使っていないらしい――


 案内された部屋には一人用ベッドが一つと、机と椅子が一セット、クローゼットが一つ置かれていた。

 ベッドがもう一つぎりぎり入る余裕がありそうな広さで、全体的に見ても質素な感じになっている。

 窓越しに外を見てみれば、見下ろす形で石畳の広い歩道と、そこを歩く多種多様な人の姿が見えた。


 見下ろす形になっているのは、今いる場所が二階だからだ。

 そして、多種多様な人というのはそのままの意味で、角が生えていたり、目が三つあったり、尻尾が生えていたり、エトセトラ。

 さすが、ファンタジー世界……


 俺は窓から視線を外し、体をくるっとモニカさんの方に向ける。

「モニカさん、俺明日から働きます」

「えっ……体の方はもう大丈夫なの?」

 モニカさんは頬に手を当て、小首を傾けて心配そうにこちらを見る。


 昨日寝る前、モニカさんに髪や体を拭いてもらうというご褒美プレイをしてもらっていた時には、指先や手の平や細かい傷は、完全に跡形なく治っていた。

 疲労や精神面も一晩寝たら万全に整っている。


 種族に吸血鬼と書いてあった通り、体は化け物じみているようだった。

 そんなわけで、いつでも働ける状態だ。


「はい、もう大丈夫そうです、お世話になりっぱなしっていうのも居心地悪いですし……」

「そんな事気にしなくてもいいのよ?」

「それに一日中寝ているのも暇なので、やらせてください」


 正直働きたくはないけど、ゲームもマンガもパソコンもないような世界で、一日中ごろごろするしかないってかなり辛い気がする。

 しかも、他所様の家ってところが更に辛い。


 タダ飯喰らいは精神喰らい、申し訳なさで精神病む。

 この世界に精神科はあるだろうか……


「そう……わかったわ、せっかくやるって言ってくれているのだもの、水を差すのは野暮ね」

 モニカさんはニコリと笑うと更に言葉を続ける。

「それじゃぁ、今日の昼食後に冒険者協会を案内するわね。あっ、あとルルちゃんサイズの制服と普段着も見繕わなきゃね」


 女性用の服を用意してもらうというのは、なんだか変な気分ではあるが、確かに必要だ。

 他に服の持ち合わせのない俺は、ゴスロリをずっと着たままになっている……

 破けていた部分は縫ってもらったので、見た目的には問題はないけど、これ一着というのは困る。


 そんな感じで今後の予定を話し合った後、モニカさんが仕事に戻っていくのを見送った。

 そうして一人になった俺は、ベッドの上でごろごろしたり、窓の外を眺めたりを繰り返して暇をつぶす。

 しかし、その繰り返しにも飽き、ベッドに突っ伏し、翼を動かす練習をしながら「暇だ……」という呟きを七回ほどした頃、なんだか美味しそうな匂いが漂ってくるのに気がついた。


 もうすぐ昼食の時間になるようだ。


 そのすごく良い匂いにテンションは上がり、俺の翼を動かす速度も上がり、パタパタという音の間隔が短くなる。

 残念な事に浮くことはなかった。


 それからお腹が三回ほど鳴った頃、部屋の扉がノックされる。

 俺はその音に飛び起き、返事をした。

「はい!」


 ガチャリという音と共に扉は開かれ、優しそうないつもの笑顔を浮かべたモニカさんが部屋に入ってくる。

「ルルちゃん、昼食の用意が出来ましたよ。お腹は空いているかしら?」


 俺はその問にお腹を鳴らしながら即答する。

「お腹めちゃくちゃ空いてます!」


 モニカさんはウフフと笑い「それじゃぁ居間まで案内するわね」と言い、部屋から出る。

 俺もモニカさんの後について部屋から出て、居間まで向かった。


 居間に到着すると、そこにはもうすでにランドさんの姿があり、椅子に座り何かの書類を読んでいた。

 俺が起きた頃にはランドさんは仕事部屋におらず、今日ランドさんと顔を合わせるのはこれが初である。


「おう、ルル、昨日ぁ良く眠れたか? 体調の方はもう大丈夫っつってるみたいだが、無理はいけねぇぜ」

「はい、よく眠れました。体調の方は自分でも驚くほど良いので大丈夫です」


 ランドさんはニヤリと笑い「そりゃぁ良かった。明日から頼むぜ」と言い、手に持っていた書類を食卓の邪魔にならない場所に置いた。

 そして、俺が席についたのを合図に、皆で「いただきます」と言い食べ始める。


 瑞々しいサラダ、スープとパン、そして、さっぱりとした味付けの謎肉。

 いや、ほんと何の肉だろうね……

 まぁ、かなり美味しいし問題ないかと思いつつ、それらを平らげる。


「ごちそうさまでした」

「ルルちゃんのお口に合ったかしら?」

「とっても美味しかったです」

「それなら良かったわ」

 モニカさんはそう言うとニコニコと食器を片付け始める。


「俺の嫁さんの料理ぁ世界一だからな! 美味いのも当然よ! ガッハッハ!」

 ランドさんは自分の事のように自慢げに言い、書類を片手に立ち上がる。


「さて、そんじゃぁ、俺ぁ仕事に戻るぜ、じゃぁな」

 ランドさんはそう言い、食休みすることもなく、居間から立ち去っていく。

 俺とモニカさんは「いってらっしゃい」と言い、ランドさんを見送った。


 それからしばらくして、片付けを終わらせたモニカさんが戻ってきて、

「ルルちゃん、おまたせ、それじゃぁ行きましょうか。まずは二階を案内するわね」と言い、居間から出ていく。

 俺はモニカさんの後について居間から出た。


 二階にはランドさんの仕事部屋と俺の部屋と夫婦部屋といくつかの空き部屋、それに居間とシャワー室があり、ほぼ居住階となっている。

 まさか異世界なのにシャワー室があるとは思わなかった。


 シャワーという現代的な響きがすごく良い。

 その単語だけで俺の精神が洗われる。

 それにしてもこの世界、意外にも生活に必要なものがしっかりと揃っているようだ。


 水や照明や火など、大体のものは家に取り付けられた魔道設備を使えば解決出来るようになっており、それらに使う魔力も、領主経営の魔力供給所から供給されている。


 魔力が出せない俺でも大丈夫な親切設計だ。

 この仕組を考えた人にノーベル賞をあげたい。


 そんな感じで二階の案内と魔導設備の使い方説明は終わり、一階へと続く階段までくる。

 階段の先からは騒がしいガヤガヤとした声や音が聞こえてきた。


「それじゃぁ次は一階を案内するわね」

 モニカさんはそう言って階段を降りていく。

「ウフフ、ルルちゃんを見た時の皆の反応が楽しみだわ……」なんてモニカさんの微かな呟きが聞こえてきた。


 さすが吸血鬼(イヤー)、小さな音すら正確に拾える。

 でも、正直拾わなくていい呟きだったな……一体どんな反応をされるのか、急に怖くなってきた。


 そんな事を考えながら階段を一段一段降りていく。

 一段降りるたびに喧騒に近づいていっているのがわかり、否応なく俺の緊張は高まっていった。


 階段を降りきった先は、左側に扉があるだけの狭い空間になっている。

「それじゃぁ、行くわね」

 モニカさんはそう言うと、俺の返答を待たずに、その扉をガチャリと開けた。


予想以上に書くのが難しい……

変なところがあれば教えてください。

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