008
うーん、何か思っていたのと違う……筋力とか知能とか、そういった能力値がない。
名前のところに記入されているのは、ネットゲームでよく使っていた名前だし……
アビリティもよくわからないのが並んでいるし、スキルは空欄だし、レベルは低いし、年齢不明って、年齢聞かれた時どうすんだ……
しかし、種族が吸血鬼! これ最強では? ファンタジーで吸血鬼の真祖って最強では!? 勝ち組かな。
ちょっと希望が湧いてきた。
「ガッハッハッ! がっかりしたか? ステータスつってもほとんどなんも書いてねぇからな。
人によっちゃぁ種族固有のアビリティ以外も持ってて見応えある場合もあらぁが、そういうやつぁめったにいねぇ。
スキルも称号みてぇなもんだからな、長年生きてねぇとなかなか増えねぇ。
まっ、 肝心の名前がわかりゃぁいいな」
しばらくステータス用紙を眺めていたら、ランドさんがそう言ってきた。
少なくともアビリティについては見応えあるな……
でも、ステータスっていったら能力値だし、期待していたものと違ってがっかり。
まぁ、それはさておき、とりあえず名前を伝えておく事にした。
「名前の方はわかりました。俺の名前はルルっていうみたいです」
「そうか。呼びやすくて、いい名前じゃぁねぇか」
「えっと、ありがとうございます?」
ネットゲームで使っていた名前を褒められても、正直反応に困る。
「ガッハッハッ! 自分の名前っつっても、覚えのねぇ名前褒められても困るか。
まっ、それぁいいとして、何かステータスでわかんねぇことぁあったか? なんでも聞いてくれや」
いくつかわからない事があったので、質問しようと口を開きかけたところで、なんだか美味しそうなスープの匂いが強くなってきたため、開けっ放しになっている扉の方を見る。
すると、栗色の長い髪をした優しそうなお姉さんが、大きなお盆を持って入ってくるのが見えた。
そして、そんな優しそうなお姉さんが俺の方を見てニッコリと微笑むと、
「無事に目が覚めたようで良かったわ。体の調子はどうかしら? 大丈夫?」
そう口にした。
「はい、まだ少し体調は良くないですが、かなりマシになりました」
それを聞いた優しそうなお姉さんは心配そうな表情をする。
「そう……まだ体調は万全じゃないのね。それじゃぁ食事をしっかり取って、ちゃんと寝ないとダメね。体調がよくなるまで、うちにいてくれていいからね」
異世界でこんなに優しい人達に出会えるなんて、かなり幸運な気がする。正直異世界とか野蛮なイメージしかなかった……
「はい! ありがとうございます」
そして、優しそうなお姉さんはまた微笑んだかと思うと、ハッと何かに気付いたような表情をする。
「あっ、そういえば自己紹介がまだだったわ。私の名前はモニカよ、ランドとは夫婦なのよ、よろしくね」
モニカさんはそう言って、満点の笑顔でニコリとした。
もし俺がアンデットだったら今の笑顔で浄化されていたな。
あれ? 吸血鬼ってアンデットの部類に入るんだっけ……? なんて事を考えつつ挨拶を返す。
「えっと、俺はルルって言います。よろしくお願いします」
はぁ、こんな良いお嫁さんをもらうとか……この幸せ者め! 羨ましい!
なんて思いで、ふと机の上を片付けているランドさんを見てみると、スープを見てなんだかがっかりしているようだった。
モニカさんもそんなランドさんの表情を見て、「起きてすぐにステーキを食べさせるわけないでしょう? お腹壊してしまいますよ? ウフフ」なんて言っている。
そうして、食事の準備は進められていく。
と言っても、ここは食事を取る場所ではないようで、三人で囲むような大きな食卓はない。
そのため、ベッドの側の小さなテーブルに俺とモニカさんの分のスープが置かれ、ランドさんの分は書き物をしていた机の上に置かれた。
なぜ、この部屋で食事を取ることになったかと言えば、「まだ起きたばかりなんだから、あんまり動いちゃダメよ」というモニカさんの一言があったからだ。
ちなみに、ステータス用紙を作るために指を斬らせた事をモニカさんにバレてしまい、ランドさんはめちゃくちゃ怒られていた。
モニカさんはランドさんへの説教を終わらせた所で「パンを忘れていたわ」と言い、パンが載ったお皿を二つお盆に載せて持ってくる。
一つはランドさんが書き物をしていた机に、もう一つは俺の近くのテーブルに置く。
そして、質素ながらも美味しそうな食事の準備が完了した。
「それじゃぁ、ちょっと遅くなったけど、いただきましょうか」
というモニカさんの合図から、皆で「いただきます」と言い、食べ始める。
食事中に、
「それにしても、倒れたのがうちの街の前で本当に良かったわ。こんな可愛らしい子が他のところで倒れていたらどうなっていたかわからないもの……」
なんて、ちょっと怖いことをモニカさんに言われ、背筋がゾワっとしてむせそうになったり、さっき聞きそびれていたステータスについての質問をした。
そして、質問の結果、ステータスについて以下のことがわかった。
ステータス用紙は本人確認やスキル確認のために、その都度作成することになりそうだった。
その場合のステータス用紙にはアビリティの表記はされないようになっているため、アビリティを知られたくない人でも安心なようだ。
スキルは国の方で勝手に登録されるようになっている。
例えば、誰からも剣の達人と認められるような人に対して、国はその人のステータス用紙のスキル欄に、剣の達人と表記されるように登録するようだ。
国が登録しなくても勝手にスキル欄に追加されている稀なケースもあるらしく、スキル欄には謎が多いらしい。
とにかく、スキルは称号のような役割でしかないようだった。
レベルはそう簡単に上がるようなものではないみたいで、2でもそれなりにモンスターを狩っていると認識される。
モンスターを狩った覚えはないのにレベルが2っていうのが謎……
レベルは上がると恩恵があるようで、能力が上昇するらしい。
ただし、潜在能力が低いとレベルが上がっても、そんなに能力上昇は見込めないようになっている。
百年以上も昔にはステータス用紙に能力値というものが表記されるようになっていたし、他の国では今でも普通に能力値を表記する魔道具を使っているみたいだ。
戦わずして能力値だけで勝ち負けを決めてしまう風潮をなくすため、能力値を表記する魔道具の全てを破棄し、作成を禁じたらしい。
種族固有以外のアビリティを持つものは滅多にいないみたいだ。
基本的にいきなりアビリティが増えるという事もないので、アビリティが表記されているステータス用紙なんて滅多に作らないらしい。
それに、アビリティ表記出来る魔道具は珍しいというのだから余計に作る機会なんて無い。
そして、そんな話も終わり、食事も済んだ頃。
「ねぇ、ルルちゃん、体調が良くなったら、うちの冒険者協会に住み込みで働いてみないかしら? ルルちゃん、とっても可愛いから人気がでると思うの!」
「そりゃぁいい、ルルぁ今まで見たこたぁねぇぐらい容姿整ってっからな 受付嬢にもってこいだ! 冒険者の士気もあがるってもんよ! ガッハッハッ!」
条件反射で、えー、働きたくないでござる。って答えたい所だけど、さすがに生きるあてのない状態で無職という訳にもいかないか……
元の世界に帰れる保証なんてないし、一生この世界で生きていく事を考えれば、就職のタイミングを逃すなんて手はありえない。
そして、やっぱり俺はかなりの美少女になっているらしい。正直これが元の世界であれば優越感に浸れて良いのかもしれないけど、異世界だからなー……
可愛いと危ない目に合う危険性も高まると考えるとかなり怖い。
冒険者協会の支部長という肩書に筋肉隆々なランドさんの庇護下に入れば多少は安心できるかも。
そう考えればかなりいい話だ、ますます断るなんて手はありえない。
そういうわけで……
「行くあてもないので、是非ここで働かせてください!」
ランドさんとモニカさんは俺の返答を聞いて、今日一番の笑顔になり喜んでくれる。
「良かったわ! これからもよろしくね、ルルちゃん」
「ガッハッハッ! ルル、よろしく頼むぜ!」
俺も今日一番の笑顔で「はい、よろしくお願いします」そう答えた。
そうして俺は冒険者協会の受付嬢に就職した。
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冒険者協会の受付嬢の仕事内容って何があるか全然わかんなくて悩んでるけど、きっとなんとかなる……はず?
( ˘ω˘)スヤァ