041
「なんだと!? もうきやがったのか!」
フェイスさんが驚いた表情を見せたのは一瞬で、すぐに冷静さを取り戻し、女性に馬車を用意するよう伝える。
そして、俺に向き直り申し訳なさそうな顔をした。
「新人の嬢ちゃん、その力の正体はこの際どうでもいい。すまないが、協力してくれ」
今更聞かれるまでもない。俺は協力する気満々だ。
「もちろん、協力します」
「感謝する。本当なら新人の嬢ちゃんに危険が及ばないよう、俺たちが守らないといけないっていうのに……」
「いえ、気にしないでください。この街大好きですし、もう俺だって街の住人ですから、がんばります」
もう怖いものないし、やってやれないことはない!
「助かる。馬車で大通りを一気に駆け抜けて南門まで向かう。休む暇もないが大丈夫か?」
「はい、大丈夫です」
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馬車とは名ばかりの熊がひっぱる屋根付きの荷車には、俺とフェイスさんと他3人の冒険者が乗っている。
俺の隣にフェイスさんが座っているのは、冒険者たちが俺の事を警戒した結果だと思う。
意図的に隣に座るのを避けていたような動きだった。気のせいじゃないはず。
こんな美少女が座っているんだから近くに座りたいと思うのが普通なはず!
やっぱり命の危険が多い冒険者は、警戒心がないとやっていけないのかな。
俺はそんな事を考えながら馬車に揺られる。
かなりのスピードが出ているのか、すごい揺れだ。
ガタっと縦に揺れた時には、少し体が浮いた感じがする。
そんな状況の中でも全く動じず、窮屈そうに尻尾を丸めているフェイスさんは、モンスターラッシュについての話を始めた。
「新人の嬢ちゃんのために一応説明しておくと、モンスターラッシュは深淵の森からモンスターが出てくる現象の事だ。モンスターが森から出てくる目的はまだわかっていない。色々な説があるが、まぁ今は時間がないからそれは置いておく」
森からモンスターが出てくる現象って事は前に他の冒険者から聞いた。
モンスターが出てくる理由についてはちょっと聞きたかった。
パッと思いつくのはお腹が減ったから?
「それで文献によれば出てくるモンスターの種類は毎回違うらしいが、今回は昆虫タイプのモンスターだ。森に入ってすぐの所で普段は見かけない昆虫タイプのモンスターが多数発見された」
うがー、昆虫と戦うのは嫌すぎる!
せめて狼とか、なんか戦ってて絵になるようなのが良かった。
「昆虫タイプのモンスターははっきり言って最悪だ。なかなか死なない上に攻撃が多彩で対処もし辛い。一つ言えることは最後まで絶対に油断しないことだ。確実に頭を潰して、そのあと不用意に近づかない事。頭を潰してもしばらくは動く可能性があるからな」
話を聞いた冒険者達は苦い顔をしている。
「モンスターが森から出た後、どういったルートをとるかは不明だ。俺たちの街にくるのもいるだろうし、他の街にむかうのもいるだろう。だがまぁ、森から一番近い俺たちの街に来る可能性は高い。そこに更に派手な攻撃で目立ってしまえば、全てのモンスターが一気に雪崩れ込んでくるだろう。だから、あまり目立たないように行動する。具体的には街から出てすぐのところで防衛戦を張り、派手な魔法の類は使わずに戦う」
「フェイスのダンナ、魔法を使わずにって、そりゃ無茶じゃないですかい?」
「そうだな、無茶だ。だが、そこは安心してくれ。俺が言ってるのは派手な魔法はなしってだけで、地味で目立たない魔法なら問題ない。そういう魔法が撃てる魔道具はこちらで用意してある。モンスターラッシュに備えるのも俺たちの仕事だからな」
「いやぁよかった。魔法なしで戦わされるかと思ってひやっとしやしたよ」
「安心するのは早いな。近接で対処するしかない状況が生まれる可能性は高い。今から心構えだけはしておいたほうがいい」
フェイスさんがそう言い終えると同時に揺れが収まった。
「もうついたか、早いな。魔道具や配置については外に出てからだ、行くぞ」
フェイスさんがそういうので俺は馬車から出る。
出てすぐ目の前には開かれた門があり、その門を出てすぐのところには門を守るように展開された木製のバリケードが設置されていた。
そのバリケードには何やら怪しい魔法陣のようなものが彫られている。
周りの灯りは最小限といった感じで少し暗い。
「新人の嬢ちゃん以外のやつらはあっちで魔道具を借りて配置場所を聞いてくれ」
フェイスさんがそう言って指でさした先には、いくつもの遠距離武器のようなものが置いてあり、それらを吟味している冒険者たちがいた。
同乗していた冒険者たちは「おう」と返事をして、そちらの方へとむかう。
「さて、新人の嬢ちゃん、魔力がないっていうのは本当か?」
そういえば、覚醒してから魔力が使えるようになってないかな!?
なんかそれっぽく「うー」と唸ってみるが魔力なんて出る気配はない。悲しい。
「……出ません」
「そうか。そうなると遠距離から投擲で戦うか、前線で戦うかだな」
「前線?」
バリケードを盾にして遠距離攻撃で削るみたいな話じゃなかったっけ?
「あぁ、バリケードがあると言っても、あんなもの簡単に破られちまう。多少の時間稼ぎと安心感を得るために設置しているだけだ。だからこそ、バリケードを守るために前線で戦うやつらが必要になってくるわけだ。もちろん前線で戦うやつらは精鋭でかためる。新人の嬢ちゃんも精鋭といえるだけの力を持っていると判断したから選択肢に含めた。さて、新人の嬢ちゃん、どうする?」
えー、正直虫相手に戦うなら投擲が良い……でも、がんばりますって言った手前、前線で戦うべき?
そして、少し考え。
うがー、がんばる!がんばります!
「前せ……いえ、やっぱり投擲しつつ状況見て前線で戦います……」
がんばると思いつつ、前線に行くのを躊躇った。
だって森で出会った虫のモンスターを思い出してちょっとだけ気持ち悪くなった。ほんのちょっとだけ。
怖いわけじゃない。
気持ち悪さを克服したら前線で戦う。
「そうか、それで良い。正直連れてきたはいいが、罪悪感があってな。無理はしてほしくはないと思っていたんだ。じゃあ、新人の嬢ちゃんは遊撃って事で配置は任せる。頑張れる範囲で頑張ってくれ。決して無理はするなよ。俺は他にやることがあるから、またあとでな」
フェイスさんはそう言って軽く手を振り、他の冒険者たちのところへと向かっていった。
しばらく投稿していなくて申し訳ない。
そのうち本気出す( ˘ω˘ )