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004

 生暖かいぬめっとしたものが頬を撫でる。

 それがあまりにも気持ち悪くて、投げ捨てていた意識が無理やり引き戻された。


 気持ち悪い。血生臭い。獣臭い。不快な気分だった。

 目を開けようとするが、なんだか眩しくて目を開けるのを一旦諦める。

 俺はなんで眠っていたんだっけ……また椅子に座ったまま寝てしまっていた? 寝る前に何をしていたか思い出せない。


 いや、別にそんことはどうでもいいか。とにかく今はお腹が空いた、喉もかわいた。冷蔵庫にジュースがあったはず、カップラーメンの備蓄もばっちりだったはず。

 ご飯の用意をしよう、そのためには起きないと。手をかざし下を向いて完璧に光への対策をする。そして、ゆっくりと目を開けた。


 寝ぼけ眼で見えるのは、スカートを履いた下半身と、緑色に所々茶色の入った地面だった。

 確かめるように揺れている緑色を掴む。これは、草? あれ? なんで俺は外にいるんだ。しかも、スカートを履いて。


 寝ぼけた頭で思考を働かせながら、視線を上げる。

 サバンナで食物連鎖の頂点張れそうなぐらい立派な狼が、目の前でお座りしていた。

 狼の顔や頭には血がべっとりとついている、黄色い眼は片方しかないようだった。トラやライオンなんて目じゃないぐらい強そうだ。

 でも、そんな狼は舌を出してハッハッハッと息をしている。犬のようだった。貫禄はない。


 あぁ、思い出した。寝ぼけていた頭と眼が覚醒する。

 そうか、俺はまだ生きているのか……


 感動する間もなく狼が急に鼻先を近づけてきた。反射的に俺の体がビクッと跳ねる。

 しかし、あまりにも狼が心配そうに見てくるもんだから、体の力が抜け、こわばっていた体がほぐれた。


 恐る恐る右手を伸ばし狼の頭を撫でる。狼は目を細めて気持ちよさそうにしていた。

 狼の頭についている血は完全に乾いていなかったようで、俺の右手には血がついていた。しかも、臭い。最悪だ。


「うげぇ……」


 はぁ、もう血も獣臭いのも今更だ。それよりもこれはどういった状況なんだ。

 この狼は俺に懐いているのか? でも、なんで? 訳がわからない。


 狼はこちらの反応を見て不思議そうに首を傾げている。本性を知っている俺からすれば、そんなあざとい動きをされても可愛いとは感じられない。

 いつ食べようかと機を伺っているようにしか見えない。


 いや、疑うのはやめよう。今この状況で狼が敵であれば何がどうあっても終わりだ。考える余地もない。

 今は狼が懐いていると仮定して、この生き延びる最後のチャンスを活かす方が大事だ。

 それに、こいつはなんだかんだ言っても命の恩人にあたるからな……違うな、恩狼か。


 そんな恩狼に向かって「伏せ」と言ってみるも、先程とは逆向きに首を傾げるばかりだった。伝わらないこの思い。


 ため息をついてから、寄りかかっていた木に手をつき、立ち上がった。

 そして、お座りしている狼の側面に回り、背中に乗ろうとして抱きつく。狼は無抵抗でなすがままだった。


「よし、立ち上がって進め」


 狼にはまたしても伝わらない。立ち上がって進んでほしいというのに、今更伏せの状態になりやがった。

 伏せの状態になったので、抱きつくというより跨る感じになる。落ちないように跨る位置を微調整しておく。


 今度は狼の頭をペチペチしてみる。もう怖いものなんてなかった。

 そして、ようやく狼に思いが伝わったのか、立ち上がってくれた。そこで俺は「森の外!」と言いながらテキトーな方角に指をさしてみる。

 狼はそのさした指を見て、よしわかったと言わんばかりに鼻を鳴らし、走り出した。

 大丈夫なんだろうか……



 結果を言えば大丈夫どころではなかった、超大丈夫だった。こいつは頼れる狼だ。

 昆虫をごちゃ混ぜして大きくしたような化物や、筋肉むきむきなサルの群れ、ムササビみたいな飛膜を持つ熊などに途中何度も出会う。

 しかし、さすが狼、圧倒的な速さでそれらをスルー。


 これは一人で出会っていたら危なかった。昨日明るいうちに全く生き物と出会わなかったのはかなり運が良かったんだな。




 そんな感じで色んなモンスターみたいな存在に出会いながら、もうずっと狼の背に揺られている。

 お尻が痛い、物凄くお腹も空いた、喉もからっからだ。

 木々の隙間から明るく照らしてくれていた日の光は、血を少しずつ混ぜていったかのように赤く染まりだす。


 進む方角は本当にこっちで大丈夫だったんだろうか、正解のわからない命懸けの選択問題に勘だけで挑むようなものだ。不正解は死をもって知らされる。不安で胸が苦しい。

 苦しい胸に手を当ててみると、そこには女の子特有の膨らみがあった。それを男だった時の本能で揉む。はぁ、なんだか落ち着く。

 ……ってなにやってるんだ、俺は。


 疲労を回復するようにゆったりとした歩みになっていた狼の背で、そんなことをしていると、前方に一際明るい赤い光を見つける。

 俺は急いで狼から降り、空腹やお尻の痛みを全て忘れ全速力で走り出した。


 そして、その光の出処まで到達した俺の目に入ってきたのは、木なんて生えていない、どこまでも続く平原だった。

 直に夕陽が目に入る。眩しい。さっきまで血のように思えた夕陽なのに、今では物凄く美しく感じる。子供の頃に何度も聞いた夕焼け小焼けが頭の中に流れる。

 なぜだか涙がポロポロと流れ落ちた。

続きは少々お待ち下さい( ˘ω˘)スヤァ

GW中に数話更新予定!

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