013
「この扉の先は酒場になっているわ。酒場の方でお酒や料理を買ってきて、冒険者協会の方で飲食をする方々も多いので、開きっぱなしにしているのよ。お昼時で少し忙しいかもしれないけれど、今のうちに酒場の店員さんとマスターさんにも挨拶をしておきましょうか」
モニカさんはそう言って、酒場に入っていく。
俺もモニカさんの後を追うように、酒場に入っていった。
席はほとんど埋まっているようだ。
防具や怪しいローブを着たような冒険者っぽい人は少ない。
普段着というような、地味めの服を着ている人が多かった。
そして、当然のように視線は俺の方に集中する。
皆喋るのも止め、食べる手も止め、こちらに顔を向けて、時間でも止まっているかのようになっていた。
しかし、それも束の間、すぐにざわざわとし始める。
「あの美少女は誰だ?」
「知らねぇ、あんな可愛い子初めて見た」
「もしかして、さっき向こうで騒がしかったのってあの子が原因か?」
「かもしれねぇな。モニカさんが連れているとこみると新人の受付嬢か?」
「まじかよ、また可愛い子増えるのか。俺も冒険者になりてぇな」
そんな気分が良くなるようなヒソヒソ声に耳を傾けていると、パタパタという足音が耳に入ってくる。
店員と思われるエプロンを身に着けた天鬼族の女の子が、両手にお皿を何枚か持った状態で、走り寄ってきていた。
そして、その店員は近くまでくると、モニカさんに話しかけた。
「モニカ姉さん、その子だれ!? 超可愛いんですけど!」
「こんにちは、ミリアちゃん。この子の名前はルルちゃん、明日からうちで働く事になった新人さんよ」
「えっ、てゆうことは、モニカ姉さんまた可愛い女の子引っ掛けてきたんすか?」
「ウフフ、そんな言い方をされると、私がとっても悪い女みたいね」
「あはっ、モニカさんは超良い女性すよ、マジリスペクト……と、喋ってる場合じゃなかった、仕事仕事。超忙しくて嫌になるっすよ。あっ、オヤジに挨拶しにきたんしょ? ついでに呼んでくるねん」
喋り方がなんだかギャルっぽい慌ただしい店員は、モニカさんの返事も待たずに、忙しそうに厨房へと続くっぽい扉を抜けていき、姿が見えなくなった。
「あの子はミリアちゃんよ、ルルちゃん挨拶し損ねちゃったわね、ウフフ」
モニカさんは楽しそうに笑っていた。
「あはは、そうですね」
そんな事を言っていると、先程ミリアさんが消えていった扉から、頭がツルピカでガタイの良い天鬼族のおっさんが出てくる。
「モニカさん、また可愛い女の子捕まえたって?」
頭ツルピカがそう言いながら、こちらに向かって歩いてきた。
「もう、マスターさんまで……」
「ハッハッハ、モニカさんが冒険者協会で働き始めてから、可愛い受付嬢が増えたって評判だぜ。うちにも可愛い看板娘斡旋してくれよ」
「可愛い看板娘ならミリアちゃんがいるでしょう? そんな事言っていたらミリアちゃんにまた家出されるわよ?」
「うっ、それは不味いな。今のは聞かなかった事にしておいてくれ。あいつに今家出されると店が回らねぇ」
頭ツルピカは頬をかきながら、困った顔をしていた。
そんな時、
「オヤジー料理はー?」
というミリアさんの声が、タイミング良く厨房から聞こえてくる。
「お、おう。俺の代わりに四番テーブルに出す料理作っといてくれ」
ツルピカは焦りが声に出つつも、返事をする。
それに対して「おっけー」という声が厨房から聞こえた。
「あんま時間とれなくてすまねぇな。すぐ仕事に戻らねぇと」
「それじゃぁ、紹介だけすぐに済ませて戻りますね。この子の名前はルルちゃん、明日からうちで働くことになりました。よろしくしてあげてくださいね」
「ルルです。よろしくお願いします」
俺はそう言って頭を下げた。
「おう、よろしく。俺はケヴィだ。皆マスターって呼んでるからな、ルルちゃんもそう呼んでくれ」
「はい、マスター」
俺は早速、頭ツルピカの事をマスターと呼んでみる。
昔からカフェとかの店主をマスターと呼んでみたかった自分としては、言えるとこで言っておかなきゃという心境だった。
「マスターさん、お忙しいところごめんなさいね。今度来る時は忙しくない時間帯にきますね」
「おう。ランドと一緒にくるといいぜ。美味しい酒とツマミを用意して待ってるからよ」
そんな感じでマスターと別れの挨拶をして、俺とモニカさんは酒場を後にした。




