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死別、追憶の果て

作者: 麻婆丼

 あれから一年。私は軽くお洒落をして外へ出かける。

 晴れやかな空。少し肌寒いが気持ちの良い日差し。空気も瑞々しく気分が高揚する。

 少し先に行くと通学路に出る。思い出深い道だ。まだ中学生だった私とあなたが初めて出会い、通学し、告白されたのがここだったね。嬉しかった。あなたと手を繋いで下校するときが一日で一番好きだった。

 あの頃から成長した私たちだけど、今でも手を握られた時の感覚を覚えているよ。

「何も変わってないね」

 通学路を中学校方面へ向かって進む。そうすると昔が蘇ってきたようで、あの頃の私に戻り、あの頃のあなたがいるように感じる。登校の時は恥ずかしいからって手を繋ぐことはしなかったね。ちょっぴり後悔しているよ。

「くしゅん」

 もう少し厚着をしてきた方が良かったか。少し寒い。秋が終わりもうすぐ冬が来る。

 いつもあなたと待ち合わせに使っていた公園。寒いからか誰もいない。少し寂しく感じる。目印は公園の真ん中にある街灯。あの日のように立ってみる。

「もう……意味なんてないのにね」

 手に息を吐きかけ擦る。そういえばあなたもいつも遅刻して来たね。そして冷えた手をあなたの手で暖めてくれた。すごく気障で甘ったるいけど、私は大好きだった。

「――――あ」

 気付けば涙が流れていた。とめどなく流れてくる。誰もいなくて助かった。これじゃどう見てもおかしい人だ。

「会いたい……よ」

 声は虚空に消えていく。誰も答えてくれない。あなたに嘘だとおどけながら言ってほしいのに。

「遠いよ。あなたが……とても遠い……」

 私の届かないところへ旅立ってしまったあなた。いつも一緒にいてくれるって約束してくれたのに。いつまでも手を握ってくれると誓ってくれたのに。あなたは隣にいない。どこにもいない。

「嘘吐き……」

 涙は流れ続ける。神様は意地悪だ。何故私からあなたを奪ったのだろう。できることならば一年前に戻してほしい。あなたを失う前のあの時間を返してほしい。

 あなたは「たとえ死んでも生まれ変わって君の下へ行く」と言った。生まれ変わったとしてもまだ一歳。

「会えないじゃない……」

 涙を拭い、立ち上がる。あなたとの思い出は尽きない。色々と思い出す。

 気付けば夕日が落ちようとしていた。

 帰路は別の方向から帰る。いつもあなたとデートの帰りに歩いていた道。長い坂道がある。緩やかな坂道。両サイドには桜の木が植えられている。今は何もない。ここを歩く度にあなたが隣にいて手を握ってくれる錯覚に陥る。あなたはもういないのに。なのに私は自然と手を伸ばしてしまう。あなたがいるであろう空間に。しかし当然手は何も握られず、空を掴む。

 もうあなたはいない。遠い遠い世界へ旅立った。私の下には帰ってこない。私の傍にいてくれない。

 気付けば家の前。いつも私の家まで送ってくれていたね。

「さようなら嘘吐きなあなた」

 私は確かな歩みで家へと入っていった。

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