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二人で一つの物語  作者: 雨白狐
第零章 誰も知らないセカイ
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第零章4 『魔女狩り』

 中世ヨーロッパには、魔女を狩る習慣があった。『習慣』という言葉だと少し語弊があるかもしれない。だからこう記すとしよう。『人であり、人あらざる者を捕らえ処刑していた』と。


 かつての人間が行ってきたその行為の理由は、力ある者への嫉妬心か、あるいは力に対する恐怖心か。今となっては何もわからないことである。しかし、少なくとも言えることは、かつての人間は取り返しのつかない過ちを犯した、ということだ。




------------------------



「ジャンヌー、そろそろ起きなさいよー」



 母の声が聞こえる。心地の良い夢に浸っていたかったのに、やはり起きなければならないのか。そんなことを考えながら、少女は起き上がり、片手で頭を掻きながら寝室を離れた。



「ふわぁ〜ん…、おはよぉ〜…」



 眠たそうな目をこすりながら、少女は母親に朝の挨拶をした。正直なところまだ寝足りないと思うのが本音だが。



「はい、おはよう!ささ、早く顔洗ってご飯食べなさい!」



 母は少女を慌てさせる。しかし、マイペースな少女はのんびりしていた。



「今晩はあなたの『祝生の儀』なのよ。もっとシャキッとしなさい!」



 母に少々怒られた。仕方のないことだ。


 母が言ったように、今晩は少女の祝生の儀。祝生の儀とは、簡単に言えば誕生日のことだが、これは14歳になった時のみ行われる特別な儀式だ。要するに、この少女、本日で14歳となるのである。



 そんなことを言われながらも、少女は平凡な一日を送った。そして時はその日の暮れ時まで過ぎる。



「ジャンヌちゃん、今日は祝生の儀なんだって?良かったじゃないか!これで君も大人の一員だな!」



 近所の太ったおじさんに声をかけられた。普段とても優しくしてくれる人なので、話しかけられても嫌な気分にはならなかった。


 日が西へと向かっていく。祝生の儀は、村をあげての大掛かりな儀式だ。多くの人たちに祝ってもらえるなんて、少女はとても幸せ者である。少女自身も少し頬を桃色に染めていた。儀式の篝火の炎が、煙と共に天へと登っていくのが見えた。儀式の準備は、着実に整いつつある。


 日が完全に沈み、儀式の準備も整ったようだ。篝火を囲うようにして皆が座る。間も無く祝生の儀が始まる。



「祝女ジャンヌよ、前へ」



 長老の声が響く。篝火の前で立ち、少女は言われた通りに手を合わせた。どうやら儀式はいつの間にか始まっていたようだ。



「祝盃を、一噛み口に含みなされ」



 言われた通り、目の前の酒を口に含んだ。



「そのまま目をつむって飲み込むのじゃ」



 飲み込んだ。酒は少し苦かった。それと同時に周りの人々からの拍手が。どうやらこれで儀式は終わりのようだ。意外とあっけなく感じた。



「これでジャンヌも、晴れて大人の仲間入りだね。いやぁーよかったよかった」



 母やその他の人たちから、笑顔で声をかけられ続けた。儀式が終わっても、まだ色々とあるらしく、皆食べ物や酒をほうばっては、顔を赤くしながらワイワイガヤガヤ。その日は遅くまで賑やかだった。



 そして疲れと共に家に到着した。



「今日は疲れたね。後の作業は私がやっておくから、ジャンヌは早く寝なさい」



 母からの言葉がありがたかった。そのありがたい言葉通りに、少女は自分の部屋へと向かっていった。

 気づいた時には、もうベッドの上だった。相当疲れていたのかもしれない。


 しかし、寝ている最中にそれは起こった。自分の部屋の姿見が突然光りだしたのだ。少女はてっきり夢だと思った。だから、何も怖がることなく姿見に触れて、何が起こるのかワクワクしていた。しかし、少女が触れると同時に、その光はだんだんと小さくなり、やがて消えた。何も起きずつまらないと思ったのか、少女はまたすぐ眠りについた。




 日が昇り、外の光が眩しい。朝だ。少女は今日も起きるのを躊躇っている。



「ジャンヌー、起きなさいよー!」



 また母の声が聞こえる。いつもと同じように起き上がる。が、今朝はいつもとは何かが違った。



「いまのは…?」



 起きようと思い、ベッドから離れた途端、部屋の扉が勝手に開いたのだ。少女は少し疑問に思った。しかし、気のせいだろうと思うようにしたのか、少女はいつも通り寝室を離れた。



「どうしたのよ。なにかあったの?ジャンヌ」


「いえ、何でもありません」



 少女は昨晩の出来事を母に隠した。母は少女の異変に何となく気づいているようだが、あえて追求しようとしなかった。


 そして、少女の最後の平和な1日が始まる。



 この日は、王国に出向く日だった。少女とその母は、王国で日用品を調達し、教会で神に祈りを捧げるために出向いたらしい。


 王城の前を通りかかった時、王国騎士団とすれ違った。威風堂々とした風格は、いつ見ても威厳があった。そんなことを考えていると、商売区域へと到着していた。


 目当てのものを購入し、次は教会へ。その途中、国外遠征のために大門を目指して進んでいた王国騎士団と再び遭遇した。やはりいつ見ても威厳がある。


 しかし、騎士団の行進するすぐ横の建物が、突如として倒壊することを予測できたものは誰もいない。


 倒壊する建物の破片が、容赦なく騎士団の元へと降り注ぐ。さすがの騎士団でも、これを避けることはできないだろう。誰もが騎士団の最後を予想した。



「彼らをお救いください………!!!」



 だが、少女だけは騎士団の救いを願った。そして、瓦礫が直撃する寸前。あれは起こった。

 騎士団の目の前で瓦礫は完全に止まっていた。そしてそれは彼らを避けるように地面に落ちる。それを見ていた周りの人々は、いまいち状況が理解できていない。そんな時、母が口を開いた。



「今のは、あなたがやったの?」



 正直自分の力なのかすらも理解できていない。だから、頷くこともできずそのまま俯いた。そして、その場にいた者の一人が口を開く。



「『魔女』だ…」



 その者は、少女を魔女と称し、周りの者へと煽った。それに連れられ、そのほかの者たちも、少女を魔女と称し、罵った。少女とその母は、その場にいることさえ許されなくなり、急いで村へと帰るのであった。


---王国から逃げるように。



 その日の晩、母は何も言わず、少女を寝かしつけた。少女は、今日あったことに怯え、眠ることさえできそうにないが、母がそばにいてくれたから少し安心できた。

 そして、眠りとともにその日を終えた。



 翌朝、少女が目を覚ますと、母の姿はどこにもなかった。母を探し、家の外へ飛び出した。すると、見慣れぬ姿の男たちが家の周りを囲んでいた。



「我々は王国の役人だ。抵抗しなければ手は出さない。さぁ魔女よ、我々とともに王国まで来てもらおうか」



 自分が魔女と呼ばれていることに恐怖心を抱いた。しかしそれ以上に、先ほどの会話を聞いていた大勢の村人が、いつも少女を見る目とは違い、まるで汚いゴミでも見ているような目つきであることに恐怖心を抱いた。



「母は無事なのでしょうか…?」


「貴様の母親だと?ふん、知らんな。…さては貴様が魔女だと知り、貴様を置いて逃げたのではないか?」



 王国の役人の言葉は残酷だった。少女は、俯きポタポタと涙を流す。そして、そのまま役人たちに連れられて王国へと到着するのであった。



 国王により、少女は裁かれた。存在することさえ否定され、牢に閉じ込められた。そして、力さえも封じられた。



-----少女はいまだに、牢獄の中である。




 ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※



「……イトさん、ナイトさん!大丈夫ですか?」



 ザークの声が聞こえる。どうやら昔読んだ話を思い出していたようだ。あの話が実話なのか、はたまた誰かの作った逸話なのか、それはナイトにはわからない。



「すまんすまん、ちょっとボーとしてた」


「本当に大丈夫なんですか!?」


「心配かけて悪かったな、俺は大丈夫」



 彼は本気でないとのことを心配してくれていたようだ。そんな彼の心の純粋さに、ナイトは少し温もりを感じた。そして、そんな感動もつかの間、ザークは待っていたかのように質問をしてきた。



「大丈夫なら良かったです。…ところで、さっき言っていた『魔女狩り』とは一体なんですか?」



 それは、ナイトが口からこぼした『魔女狩り』という言葉について。無論、ナイトにはその質問が来ることは容易に察しがついていた。だから、その質問に対して簡単に答えることができた。



「『魔女狩り』ってのは、まぁ『魔女裁判』て呼ばれることもあるけど、こっちの世界で昔起きた『特別な力を使う者たちを捕まえて処刑する』っていう人類の過ちのことだ」



 ナイトは魔女狩りについて簡単に説明した。『人類の過ち』という言葉を添えて。



「なぜ、『過ち』なのですか?」



 不意にザークが質問する。だが、その質問が来ることも予測できていたナイトは、またしても簡単に答えることができた。



「処刑された人の中には、普通の人だって混ざってたんだ。そもそも無差別に人間を処刑してる時点で、もう許されざることだろう。だから俺は『過ち』って言葉を使ってんの」



 ナイトが案外真面目な答えを口にしたため、ザークは少し驚いている。そして、



「案外真面目なんですね」



 と、思っていたことをダイレクトに伝えた。その言葉に対し、ナイトは怒りをあらわにする。



「ぁあ?てめぇーやっぱり喧嘩売ってんだろ」



 その言葉は、今までの中で一番感情のこもった言葉だった。ナイト自身、命の話になるとやけに真面目になる性質があるのだが、それはとても良いことであるが、そのことを突っつかれるのが最も嫌いであった。だから怒りが目に見えたのだ。そんなナイトの反応に、ザークはオドオドしながら応える。



「いえ、あの、そんなつもりじゃ…。すみません」


「もういい、めんどくせぇ」



 ナイトは怒った。怒ったのだが、それでまた時間を潰すのが面倒に感じ、自ら落ち着いた。そして、『それは良しとして、』と一言置き、今度はナイトが質問した。



「そっちの世界には、魔女狩りと似たようなことはあったのか?」



 それは、リンクする二つの世界において、共通するであろう過去の出来事について。


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