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二人で一つの物語  作者: 雨白狐
第零章 誰も知らないセカイ
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プロローグ 『頭痛』

 夢に向かって走る誰かの後ろ姿が目の前にある。それを追いかけて追いかけて、時には追越せそうになるが、簡単には追越せない。


 自分の理想とする未来。そこで輝く自分の姿。その後ろ姿はまるで、未来の姿を掴もうとする自分のようだった。


 ふとそんなことを考えていると、その姿はだんだんと薄くなりやがて消えていく。姿が消えた先に広がるのは真っ暗な闇の世界。未来の姿という光を失ったことで、暗闇はいっそう暗さを増した。

 さっきの後ろ姿を輝かしい白と例えるのなら、今の自分の姿は深い黒である。



『また、何もしないんだね』



 耳元でそう囁く声が聞こえる。振り返ってみる、しかし誰もいない。否、いるはずもない。ここはたった一人の孤独な世界。未来という光を失った以上、もう何も残されてはいない。


 俯き、涙を流す自分。臆病で、身勝手で、弱気で、良いところなんてあるわけが無い。それは自分が一番よくわかってることだから。だが、わからなかった。なぜ自分が涙を流すのか、何に対しての感情なのか、と。



『また、忘れるんだね』



 何を忘れたかもわからない。ましてや人としての感情すらもわからないのに。


 いくつもの手紙たちが空から降ってくる。宛名も、差し出し手もわからない。しかし、妙に温かみを感じる。今では、手紙に書かれた言葉の意図すらもわからないが、とても懐かしい感覚にさせられる。そしてふと、何かを思い出したのか、口を開いた。



「…………行かなきゃ」



 何かを掴みたいのか、暗闇に自らの手を伸ばしこちらへと引き寄せる。しかし何も手にすることは無い。否、そこには何も無い。だが、諦めなかった。どうしてなのかはわからないけれど、諦めたくなかった。あの時諦めてしまった自分が許せなくて、絶対に同じ過ちを繰り返したくなくて。

 目に涙を浮かべながらひたすら前へ、一歩一歩前進する。何かを掴もうと手を伸ばす。


 結構な距離を進んだ。でも何も無い。掴めるものは何もない。疲れたのか、その場にしゃがみこみ、ポタポタと涙を流す。涙でぼやけた世界で、真っ暗な闇の世界で、何かをすることすら出来ない。



 しかし、そのぼやけた暗闇に、一人の人物が立っていることに気がつく。その表情は、ぼやけてはいたが、どこか懐かしさを感じさせてくれるものだった。そしてその懐かしさは、彼自身に頭痛を及ぼした。



「おま…え、ユキ…なん…だろ?」


「-----」



 その人物からの返事はない。焦った。それと同時に怖かった。話しかけるという行動が、選択の過ちのように思えたから。


 そんな感情を持ちながら、彼は頭痛をこらえながらぼやけた人影に手を伸ばす。触れた。否、触れられた気がした。伸ばした手はその人影の腕をすり抜ける。それと同時にその人影は消えた。少しずつ光となって。



「また…俺は……」



 後悔の念が彼の心のうちを襲う。なにかに囚われているのだろうか、彼はまた涙を流し俯く。



『………生…きて…』



 心に響いた言葉。それは彼の拭うことすら許されない罪。彼の心にくっついて剥がれない忌々しい過去。そして何もしないまま彼は--





---消滅した。



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