表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
二人で一つの物語  作者: 雨白狐
第一章 縛りと影
26/33

第一章16 『恐怖=後悔=絶望』


---おい、ちょっと待てよ………



 暗闇の中、ゆっくりと目を覚ます少年。その真っ暗な世界は見覚えがある。が、今回は今までとは違いやけにリアルに寒気や胸騒ぎを感じていた。


 両腕は縛られ、その手首には縄のようなものが。

その縄は天井から垂れ下がり、今まさに少年は吊られている状態だ。



 光のささない廃工場のような場所。目の前は暗くぼけていたがうっすらと、鉄くずや何かの研究に使われていたであろう魔法薬やそれに関する機会のようなものまであった。

 しかし、今の彼にとってそんなことは関係ない。



「---おい! ザケンじゃねーぞ! 早くおろせよ!」



 声を荒げた。大声で、今まで以上に。

 だが、力は入らなかった。自力で縄を解くことも、魔力でちぎることすらできなかった。


 だが、そんな声に対して、反応する声があった。



「そこにいるのは……ザークなの?」


「----ッ!」



 ナイトの背後から聞き慣れた声が響いた。


 その声の持ち主は、言うまでもない、セフィアのものだ。吊られて後ろが見えないナイトでも、それくらいはわかったようで。


 だが、そんな中でもう一つ、誰のものかもわからない声が、



「少し計画とは違いますが、まぁよいでしょう」



 と、薄闇の中を波紋状に広がっていく。そして、その声の持ち主が吊られたナイトの目の前に現れてやっとナイトは、



捕まった。捕まった。捕まった。捕まった。捕まった。捕まった。捕まった。捕まった。捕まった。捕まった。捕まった。捕まった。捕まった。捕まった。捕まった。捕まった。捕まった。捕まった。捕まった。捕まった。捕まった。捕まった。捕まった。捕まった。捕まった。捕まった。捕まった。捕まった。捕まった。捕まった。捕まった。捕まった。捕まった。捕まった。捕まった。捕まった。捕まった。捕まった。捕まった。捕まった。捕まった。捕まった。捕まった。捕まった。捕まった。捕まった。捕まった。捕まった。捕まった。捕まった。捕まった。捕まった。捕まった。捕まった。捕まった。



 現在の状況を把握した。


 フードの男に自分とセフィアはともに捕まってしまったのだと。



 記憶を探る。自分の記憶を。

 そして、何かを思い出したのかのように絶望的な表情へと変化していく。



「これじゃまるで……三年前と全く同じじゃねぇか……」


「おやおや、何もする前からすでにそんな表情とは……面白味がありませんね」



 フードの男の言葉には、どこか不気味な笑いのようなものが含まれていた。だが、ナイトはそんなこと全く耳に入れず自らの過ちを振り返り絶望している。



「何で気づけなかったんだ……何で今日だって……」


「さっきからごちゃごちゃとうるさいですねぇ!?」



 フードの男はナイトに手のひらを向けた。だがナイトはまったく気にしていない。そんな姿に怒りを覚えたのか、男はその手から竜巻を発生させナイトを襲った。



 竜巻は彼の体を包む。だが、彼はちっとも動じない。それどころか何かをぶつぶつとつぶやくだけだ。


 体は激しく切り刻まれる。風による切り傷。かまいたちといった方がよいのだろうか。その切り傷は、深いものでは5㎝を超えるものも。


 体中から血があふれ出し、彼の足元はすでに血溜めができていた。


 だが、やはりナイトは『痛い』の一言すら言わない。



「……ザーク!? すごい風の音がしたけど何が起こってるの!? それになんだか……血の匂いもするし」



 セフィアが口を開いた。しかし、彼女は現在の状況を明確に把握できていないようだ。


 彼女の発言から、おそらく彼女は目隠しと耳に何かをされている。ナイトが傷だらけでしかも吊られていたらセフィアがこんなに落ち着いていられるわけがない。


 また、フードの男について何も言わない。しかし、ナイトの声や風の音は聞こえている。

 だとすると、ヤツの何らかの魔法でセフィアにヤツの声だけ聞こえなくされているのだろう。



「ふふふ、絶望の声をあげなさい……悲痛の叫びを、恐怖の雄たけびを……!」


「……オレは……何も変わっちゃいないのか……」



 体中から血を流しながらも、彼はただ俯くだけであった。



 ザークはいまだに気絶したままである。




---------------------------



 オレはなんにも変わっちゃいない。今だって、あの時だってそうだ。全てうまくやったつもりになって、自分に慢心になって。


 本当に救いたいものはなにも救えない。失うだけ、なにかをつかめる訳でもないさ。


 目の前に立つ男、フード姿のその男は、過去の事件の男とよく似ており、口調もそっくりだ。だからナイトはその男の姿を見てすぐに『終わった』と思った。


 この世界に降り立って、初めの日が学校の休校日だった。それだけの情報でもこの世界と元の世界の時間のずれがどれだけなのか、今日が何日なのかだってわかったはずだ。



 セフィアにはあえて事件について話さなかった。事件が起きなければ、彼女にとっては平和な日常そのものだから。彼女が知らない間に事件が終わり、そのまま幸せでいてほしかった。

 絶望的な事件の真相を知った彼女の悲しむ姿を見たくなかった。


 だが、それはナイトの浅はかな考えだ。優しさ、思いやりがひっくり返ってまた悲劇を生み出してしまった。



 そんな行動をとった、そんな考えをした甘すぎる自分を許せなくて、愚かすぎて許せなかった。



 だから彼は全てに対して絶望を抱いていた。自分が過去に犯した過ちと全く変わらない、全く同じ運命を、全く同じ結末を迎えようとしていたから。




---------------------------



「……つまらないね、君。仕方がないからこうするとしましょうか」



 ナイトの反応に対して男は少しあきれているようだ。自分の願う絶望的姿を、彼が己の手によって絶望に堕ちる姿を男は見たかったようだ。

 だが、ナイトはただ俯いているだけである。


 男はナイトに向けた手を下ろし、そのまままっすぐセフィアの方へと歩み寄っていく。



「自らの痛みだけでは……何もできないのであれば、何かを失ったことで絶望を感じていただくしかありませんね。……この少女の死という形で」



 男はそのままセフィアに手を向けた。そしてその手の平には風の塊が渦巻いている。ナイトにはそれは見えていないようだが、大きさとしては先ほどナイトが食らったものよりもはるかに大きい。



「さぁ、死んでいただきましょうか……。どちらにせよ後で死んでもらうつもりでしたから。……おっと、私の声が聞こえないまま死ぬというのも少々非道でしょうか。それにこの少女の絶望の断末魔も曖昧になってしまいそうですし」



 そういうと、男はぶつぶつと何かを呟き始めた。

 そして、その声はやっとセフィアに届くようになったようで。



「……へ? なに? 誰なの? ザークのほかに……誰かいるの?」


「これはこれは……はじめまして……でしょうか。……まぁよいでしょう。では死んでいただきます。それではさようなら」


「----ッ!」



 男はその手から風の塊を放った。そしてそれはセフィアめがけて……。そのまま消滅した。



「なに!? 魔法がかき消された!? そんなバカな……。ありえない。いったいなぜ……」


「なにが起きてるの? それに何か……温かい……」



 薄い壁のようなものが少女の体を包み込んでいる。



「っく、もう一度」



 再び風の塊が放たれる。が、またしてもかき消された。



「どうなっているのだ……。ん? まさか」



 男は何かに気付いたようだ。そしてせかせかとナイトのもとに近づいていく。



「おまえの仕業だな?」


「オレは……なにも救えない……」



 ナイトはただ独り言をつぶやくだけだ。しかしそんなナイトの体からは異様な魔力が放出されている。

 そんな状況から男は魔法が弾かれた理由を理解する。



「無意識のうちに力を……そうですか……」



 男は少しのあいだ黙り込み、そして再び口を開く。



「ふ、面白い。お前に賭けてみよう」


「----ッ!」



 男の言い放つその言葉は、過去にナイトの聞いた言葉と全く同じものだった。

 そしてナイトは、自分の闇から戻ってきたかのように、その言葉に反応した。



「ほう、やっと私の言葉に反応してくれましたか」


「ぉまぇ…ぁ……ぜっだぃにぃ……」


『……ナイト…さん…。いったい……何が……』



 ザークがやっと目を覚ましたようだ。ナイトが深い闇から目を覚ましたことによる影響か。否か。


 そんなことよりも、男はまた何かを言い出す。



「犯行を目撃されてしまったので仕方なくつれてきたつもりでしたが……どうやら私の対象のようでした」


「だぁ……ま…れぇ……」


『やつか……。誘拐事件の犯人というのは……』



 男はまた訳の分からないことを言い出す。だが、血まみれのナイトにとってはただの戯言にしか聞こえないようだ。



「……やれやれ、話が聞こえないようです。仕方がない。これなら聞いてもらえるかな?」


「----ッ!」

『----ッ!』



 男はそう言うと自らかぶっているフードに手をかけた。そして……。


 そこには見慣れた顔が現れた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ