第一章15 『悪夢再来』
5000字こえてます。
五日目の朝は、少し安心感があった。
この日で全てに決着がつく、全てを救うことができる、そう信じていたから。
今日の朝はいつも以上に静かだったことをよく覚えている。
「目が……見えるようになってる」
ナイトは目を覚ました途端、自分の身に起こった変化を口に出した。黄金だった瞳はすでに紅色へと戻っている。
それに対してザークは、
『時間で回復しますから』
と、前に言ったことをもう一度言う。
そして、『それと、』と一言置きナイトが話し始める。
「……夏なのにやけに寒いな……しかも平日だっていうのに静かすぎるぜ……」
『そういう日もありますよ』
ザークは当たり前そうに言った。
時刻は午前9時を指している。
これまでの行動と本日のノルマをあらかじめまとめておこうこう。
本日、異世界に来てちょうど五日目。この五日間でこの先起こる事件を予測し、それを食い止めるために行動した。その行動の一つに、被害者となる人物との接触があった。
被害者との接触により、事件そのものを起こさないようにしたのだ。そして、その被害者のうち、セフィアを除きすでに3人と接触していた。
8歳のルグ生少女『サラ・ブレイン』、おそらく13歳の第一学校有名治療師『ロト』、炎拳の少女『サクヤ・オーティス』である。
そして、そこから被害者の共通点は、みな光属性を持っているという結論に至った。その結論をもとに、今後の調査を行うのだ。
次に、本日のノルマについて。
昨日、第3の被害者、サクヤ・オーティスとの接触後、ザーク宅にて寝る前にある程度本日行うつもりの行動についてまとめていた。
そして、本日の行動はずばり『残りの被害者の全てと接触すること』だ。であるから、本日も学校を休んでいる。
また、残りの被害者の現在の居場所などは、ザークの能力によってハッキリしていた。
「……ってことで、そろそろ行くか」
『そうですね、そろそろ行きましょう』
学校がある時間帯だったが、彼らはそのまま家を飛び立った。
現在接触した被害者たちの年齢から考え、残りの被害者たちは9歳から12歳のうちのいずれかだ。つまり、現世界風に言い直すと皆小学生ということだ。
そして、運のいいことに残りの被害者たちは皆同じ学校のようで。
「……一か所に三人集まってるのか……ある意味ラッキーだな」
『おそらくみな同じ学校のルグ生ですね』
手間が省けたと嬉しそうなナイト。
空を飛びながらガッツポーズをしているその姿は、はたから見たら謎そのものである。
「第二学校だったよな? 今から行くのって」
『今更それ聞きますか!?』
ナイトの質問はこれからの行動の原点に近い質問だ。それを聞くってことは、『こいつなにしに行くんだ?』と思われても不思議ではない。
「再確認だって」
『さ、再確認ですよね……。びっくりしました』
ザークは少し驚き気味だ。ナイトが目的を忘れているのではないかと不安になったからかもしれない。
そんな中、『あと、』と一言置きナイトが口を開く。
「第二まではあと1時間くらいだったよな?」
『そうですけど……? それが何か問題でも?』
何かに対して不安そうなナイトに対して、ザークは関係なしに聞く。
そしてナイトは、『いや、』と前置きして、
「体力が尽きる気がする」
と、体に対しての不安感を吐露する。
だが、ザークはその意見に対して、
『あれだけ飛び続けていたんですからもう体だって慣れていますよ』
と、今までの経験や行動で体力や魔力が向上していると指摘する。無論根拠はどこにもないのだが。
だからこそ、ナイトはザークの言葉に『フラグ乙!』と心の中で思っていた。
しかし、そんなことを思ってしまったことを後に後悔するナイトなのである。
1時間、と考えていたがナイトには焦りがあったため空中をものすごいスピードで飛行していた。
現世界と違って空に障害物があるわけでもないため、予想していたよりもはるかに早く目的地に着きそうだった。
『ナイトさん見えてきましたよ! あれが第二学校のルグです』
「おぉあれか……」
およそ30分で着くことができたようだ。だがまだ学校は授業中。しかも学校の上空ときたもんじゃ話にならない。
だが、そんな状況になる前に彼の体は…
「あ……やべ」
平行に進んでいたはずの彼の体はだんだんと角度を変えて学校に突進していく。体をコントロールしようにもうまくいかない。
これはおそらく、
「魔力切れだな」
『魔力切れですね』
そしてそのまま第二学校の校庭の水辺のような場所に墜落した。
見事なフラグ回収とともに、意識はそのまま消え去ったようだ。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
辺りは真っ白の世界に包まれている。否、白っぽい天井、家具、それに薬だななどが置かれた部屋にいる。
「ここは……どこだ?」
白いベッドに横たわる真っ白な紙の少年は、弱々しい瞳を開いて上体を起こした。
「あら……気が付いたかしら」
女の声が聞こえた。
「…………?」
「池に沈んでいたのよ、覚えていないの?」
そうだ、墜落したんだった。
「覚えてるけど……それよりも……ここは?」
ナイトは相手がどう思っていようと自分の疑問を早く解消したいようだ。
「あぁ、ごめんなさいね。ここは第二魔法学校ルグの保健室よ」
ナイトはやはりと思ったのか、そのままうなずいた。そして、ふいに、
「やっぱりか」
と一言こぼした。
どうやらナイトに話しかけてきたのは保健室の先生的ポジションの人のようだ。服装は現世界と違い魔法衣のようなものを身にまとっていたが、その色は白衣とよく似た白色だ。
また、保健室の白い服の女性と言ったらやはりそれしかないとも思った。
「あなたは……なんであんなところに? それにあなたはいったい何者?」
女性はおもむろに質問してきた。
「この学校に用があって……それで来てみたはいいんですが墜落しちゃったみたいで」
「墜落…? あなたここへどうやって?」
「飛んで」
「----ッ!」
女性は激しい驚きの表情を見せていた。突然空を飛んできたなど言われても、それを受け止めるのはなかなか難しいこと。そのための反応なのだろう。
「飛んでって……普通に空を?」
「えぇ、普通に空を。でも魔力使いすぎちゃってそのまま墜落しちゃいましたけど」
「……そう…」
女性にはいろいろと疑問が残っているようだ。だが、ナイトにとってそれは関係のないことで。
「……それはそうと…一つ聞いてもいいですか?」
「なに? 素性もわからない人に教えられることは限られてくるけど」
「……あなた保健室の先生なんですよね? ならわかるはずですよね、この学校にいる光属性の生徒のことを。それに、それが誰なのかってことも」
「えぇ、知ってるわよ? それがなに?」
ナイトは自分の素性も明かすことなく質問に入った。なぜ彼はこんなに焦っているのか。墜落したのはおよそ10時頃だと思われるのだが、現在の時刻は14時を越えている。どうやら彼は4時間以上眠っていたようで。だからこそ焦りもあるようだ。
「そいつらを今すぐここへ呼び寄せてもらえませんか?」
「なんで? なぜそんなこと…」
「いいから早く! みんなの命がかかってんだよ!」
ナイトは唐突に声を荒げた。それには女性も驚いたようで、ナイトの言葉にうなずいた。
数分後、ナイトの思惑通り三人の生徒たちが現れた。
「先生、どうして僕たちを呼んだんですか?」
生徒たちは疑問の表情を浮かべている。
そして先生が話を始めた。
「このお兄さんが……あなたたちに話があるそうよ」
先生と呼ばれる女性は、彼らにうまく話を伝えてくれた。
そして、ナイトは彼らにすべての事情を話した。
初めは『墜落した人』という話から入ったためか、まだ幼いルグ生の彼らは楽しそうだ。
だが、ナイトの話す話はなかなか深刻だったため、彼らは真剣に話を聞いた。
「……ってことなんだ。だからちゃんと気を付けてくれるか? 来週まででいいから」
話を全てして、そのまま終わりへと結んだ。そして子供たちは、
「うん! わかったよ! おにーちゃん!」
と元気よく返事をしてそのまま自分たちの教室に帰っていった。
正直彼らのことは心配だ。年齢的にも、事の重大さがわかっていないような気がする。だが、それでも彼らに忠告することができたから、ナイトは少し安心していた。
ベッドから起き上がろうとして、そのまま体を横へ。だが、そばにいた女性に引き留められ、少し問われた。
「さっきの話って……本当のことなの?」
「全部本当です。ですが彼らはまだ幼いですから正直心配でして……」
ナイトは正直な気持ちを伝える。だがそんな言葉に女性は優しく答えた。
「大丈夫、彼らのことは私が責任をもって見守っておくわ」
女性はナイトに対してそう言い放った。
「……何で…こんな素性もわからないような俺を…?」
女性の行為の意を問いた。
「あなたが……その……本当に真剣だってわかったから」
女性の行動理由はあいまいなものだった。だが、彼女をこのようにしたのは紛れもない、ナイトの心だ。だからこそ、ナイトは未来に希望を抱く。
「そうですか……ありがとうございます……」
感謝を述べそのまま、重たい体を持ち上げて、
「いろいろとお世話になりました。俺行かなくちゃいけないんで、本当にありがとう」
「まだ傷が…って言ってももう行くんだよね? わかったわ。引き止めない」
彼女はなかなか物分かりが良く、ナイトにとってもありがたかった。そして、彼女が『あと、』と前置きし、
「あなたのことは、上には伏せてあるから安心していきなさい。あとのことは私に任せて」
「………ありがとうございます」
ナイトは瞳に涙をためながらそのまま学校を飛び立った。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
体力と魔力が少しだが回復したナイトは、事件発生を食い止めるための条件を完全にクリアしたと思いほっとしていた。そして、あとのナイトの仕事は、
『ナイトさん、この後は当然……』
「……セフィアを見守る、だろ?」
事件発生を食い止めるために必要な条件、それはせふぃあ自信を事件から遠ざけることだった。そうするためには自分自身がボディガードになるのが最も安全だと考えていた彼らは、事件が発生するであろうその日まで、ずっとセフィアを見守ろうとしていた。
仮にセフィアにストーカーと勘違いされても。
「んで?今あいつはどこにいるんだ?」
『まだ学校にいますが、おそらくそろそろ下校なので…』
「オレらが合流できるのは学校外ってことになるか」
ナイトは正論を言い放った。
力が衰えているため、それほどのスピードは出せないがゆっくりとせふぃあのもとへと近づいてゆく。おそらくこのスピードでここからだと1時間以上はかかるだろう。
しかし、彼女はもう安全だ、という根拠のない安心感から、ナイトは急ぐそぶりも見せずにそのままのスピードで彼女のもとへ。
およそ三十分が経過したころだ。ザークが不意に口を開いた。
『今ちょうど学校を出たところですね。セフィの魔力が少しずつ学校から離れてってますから』
「そうか」
その話を聞いても、ナイトは安心感に浸っていて何も反応しない。だが、
『ですが少し妙ですね……。セフィの周りに誰の魔力も感じないんですよ』
「……それってどういう?」
ナイトが反応した。ザークの話から察するにおそらくセフィアは現在一人。何らかの事情で一人で学校を下校する羽目になったのだろう。
だが、それと同時に異常なる嫌な予感が…。
『セフィは今一人……って、誰近づいてきます。妙ですね、はっきりとした魔力が感じられないなんて……』
「……ちょっと飛ばすぞ」
ナイトの顔は急変し、残り少ない魔力の中彼は全力でセフィアのもとへと向かう。
ヘロヘロになりながらも、彼はようやく彼女のそばまで来ることができた。
「10分までに抑えれたが……あいつは今どんな感じだ?」
『さっき見えた人影が完全にセフィのことをストーキングしている。でもセフィは気づいていないみたいです』
「正確な場所を! はやく!」
『は、はい!』
ナイトは焦っていた。何かを思い出したかのように。さっきまでの安心感からは考えられないほどに。
『ここです、ナイトさ……って……』
「----ッ!」
『----ッ!』
目の前には、セフィアらしき姿の女の子が目を閉じたまま、フード姿の黒ずくめの男に抱えられて魔車に連れ込まれそうになっていた。
「おい、嘘だろ……。おいまてよ! てめぇ!」
ナイトは大声で叫んだ、がしかし、そのフード姿の男が振り返りこちらに手を向けると同時に、
「……あれ、力が……」
(……声も出ねぇ……)
そしてそのままナイトは、
地面に叩きつけられた。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
そんなおり、ナイトはふととあることを思い出す。
「そう言えばさ……。俺の魔力は何色に見えたんだ?」
そして、ザークはその質問にこう答えた。
『灰色でした』
と。