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二人で一つの物語  作者: 雨白狐
第一章 縛りと影
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第一章13 『気の強い女は苦手だ。』


ーー「……は?」



 違和感しか感じられないその態度から、少女はただ立っていた。単純な感嘆詞を添えて。



「……さっきのやつらから守るのもそうだが、それ以上に大変なこともある」


「さっきから何言ってるのかさっぱりわかんないんだけど。別にあたい一人でもあんな奴ら倒せたし」



 少女は強気だった。それはナイトの最も苦手とするタイプの女性で、身を引くのが嫌いなナイトとはやはり相性が悪い。



「……まぁそうだったかもしれんけど、一応な」



 軽く答える。

 その返答には少女も納得がいかないようで、また強く言い返す。



「一応ってなによ!助ける理由が一応とかマジないでしょ。あんた最低ね」


「-----」



 少女の『最低』宣言は意外とナイトの心に響いた。そして、ナイトは苦笑いしながら下を向いた。



「ちょっと! 聞いてるの!?」


「……聞いてるけど……それよりも…な」



 少女はやはり強気だった。そんな少女に対してナイトは、ザークに対しての感情と同じく『コイツめんどくさい』と思うのだった。



「それよりってなによ! ちょっとあんたね!」


「…だから言ってんじゃねーかよ! 助けに来たんだって! お前の未来をよ!」



 ため込んでいた感情を爆発させて全てぶちまける。しかし、口下手なナイトにとって、それは誤解を生むだけだ。



「だから意味わかんないの! なによ、『未来を助ける』って。あたいに何かあるっていうの?」


「それはだな……。信じられないかもしれねーけど……お前死ぬんだよ、もう少しで」



 ナイトは正直な事情を話す。

 本来このことは、被害を受ける者にさえ伏せていたことだ。他の者には、『警戒しろ』、『気を付けろ』としか言わなかった。しかし、この相手は理由を話さないとまたやたらと面倒だ、とナイトは思ったためあえて伝えたのだ。



「……は? どうしてそんなことがわかるのよ! しかもあたいが死ぬとか……信じられるわけないじゃない!」


「でも本当のことだ。だから俺はここに来た。それを伝えるために」



 冷静に、まじめな表情で言い放つ。いくら相手がめんどうくさい者だとしても、救わなければならない、救いたいという気持ちの方が圧倒的に勝っている。だからこその説得だった。

 そして少女は、



「だったらそれが本当だって証明してみなさいよ」


「……どうやって…?」


「あたいと勝負しなさい!」


(どうしてそうなる…)

『面倒ですね……』



 突如決闘を要求してきた。

 その時のナイトとザークは、初めて思うことが一致したかもしれない。それほどにまで少女はめんどうくさいのかもしれない。



「勝負って……ここで? こんな路地裏でか? …てかなんでそういう発想に結び付いた?」


「いいから勝負するのよ! どうやらあんた少しはできるみたいだからあたいが直々に相手してあげるわ。それであんたが勝てたらあんたの力を認めてあんたを信じる。それでいいでしょ?」


「いまいちわかんねーけど……それで信じてくれるなら」



 ナイトは少女の挑戦に乗った。



 この世界に至って、いまだに戦う気で戦ったことはなかった。周りに飲まれしょうがなく戦うというのが今までだったが、今回の戦いはナイト自身もやる気だ。

 だからこそ、初めての本気がみられるかもしれない。


 また、ナイトは少女相手に目が見えないというハンディーキャップも背負っていた。だからこそお互いにフェアな戦いだと思ったのかもしれない。


 そんな合間、戦いはすでに始まっていた。


少女は途端にナイトとの間合いを詰める。基本魔法使いというのは距離御置いての遠距離戦法を取るのだが、少女にはナイトが盲目であることに気付いていたのかもしれない。



「女だからってなめんじゃないわよ! あたいこう見えても遠隔戦とかよりも肉弾戦の方が得意なのよ」



 得意げそうに言い放つ少女の拳からは、その小さな体からは考えられないほどの重いパンチが炸裂した。そしてそれをまともに受け止めたナイトはそのまま後ろへ。



「ぬわ!っと、あぶねえあぶねえ。受け身取らなきゃ確実にぶっ倒れてたぜ」


『ナイトさん! 僕が目になります!』


「いや、それはぜってーにしねぇ。せっかく力の差が埋まったってのにそんなことしたら卑怯だろうが」


「よそ見してる暇なんてないんじゃないの? ほら、またもう一発行くわよ」



 ザークの提案もむなしく、ナイトはそのまま戦いへ。

 どうやらナイトはフェアな戦いを望んでいるらしい。性別的差や年齢的差を埋めるためにも、目が見えないというのはよきハンデなのかもしれない。


 少女の拳が二発、三発、と次々に決まっていく。それに対しナイトはただただ防ぐしかできない。



「……ちょっと! 本気で戦いなさいよ!」


「-----」


「なによ、あたいなんかには本気出さなくても勝てるとか思ってるわけ? …なめるのもいい加減にしなさいよ。次から最大で行くから」



 少女の拳は一段と早くなる。目の見えないナイトは、少女の拳を防ぐのにやっとで反撃の一発すら食らわせられない。


 そして、防ぎきれなかった拳の一つがほっぺたにかすった。



「あち! なんだこの熱さは。人間の拳じゃねーのかよ!」


「あら、気づいていなかったの? 単純な応用魔法よ」



 かすり傷には、焦げた跡が残っている。

 少女の拳は炎に包まれていた。



『彼女が使えるのはどうやら光だけではないようですね…』


「んなもん言われなくてもわかってるよ! ったく、めんどうだな」



 少女の勢いは止まることを知らない。そのせいか、ナイトは少々苦戦気味だ。

 彼女を倒すには、まず拳の炎を何とかしなければならない。しかし、それを何とかできる手段が存在するのだろうか。


 と、そんなとき、ナイトはあることを思い出す。



「そういえば、補助魔法って基本は主要魔法に効くんだよな?」


『はい、基本的には……』


「ならワンちゃんあるかもしんね」


「さっきからごちゃごちゃうるさいわね! とっとと攻撃してきたらどうなのさ!」



 半ギレな少女は、今まで以上に拳の炎を大きく燃やして殴り掛かる。だが、それこそがないとの狙いだった。



「っしゃ、いまだ!」


「へ?」



 ナイトは両手を前へ突き出した。

 少女の最大パンチはナイトの腹を大きく直撃している。しかしよく見るとその拳の炎は消えていた。そして、ナイトはそんな強烈そうなパンチを食らいながらも平然とした顔で立っていた。


 宙には炎の球が浮いている。



「どうして……あたいの魔法が…」


「やっぱりな。おまえにとっての力の源はその炎だった。けどそれを取っちまったらどうだ、おまえ自信の力はほぼゼロに等しい。そうだろ?」



 それを聞いた少女はそのまま後ろへ飛びのく。だが、その後ろは壁。明らかに動揺がうかがえるその少女は、壁に張り付きながらもまだ何か策があるようだが。



「……その通り…だけど……。どうしてあんたが他人の魔法を操れるわけ?」


「さぁな、オレにもわからねぇ。でもなんかできる気がしてよ。なんとなくやってみたら意外とうまくいったっていうか」


「訳の分からないことを……。でもいいわ、次のは絶対止められないから」



 距離を離した少女は、手のひらをこちらに向けている。そしてその手のひらには光り輝く炎の塊が。



「光と火の両方が使えるからこそできる私のとっておきよ。あんたがどれだけ強くたってこれは止められないわ」



 おそらく光と火の混合魔法か。なかなかお目にかかれないものらしいが、ナイトとしてはこうなることをはじめから予想していた。少女が距離を置き飛び道具に頼ることを。



「食らいなさい……!」



 そして、少女の手のひらそれが放たれそうになる瞬間、



「ほいっと」


「----ッ!」



 少女をナイトのバリアが覆った。

 


 ボン、ボンボゴン!!!


 逃げ場をなくした魔法の威力がバリアの中を駆け巡り衝撃や熱となって中の少女を襲った。


 バリア内が煙に包まれ、ナイトはやっとそれを解いた。



「……死んで…ないよな……?」


『死ぬかもしれないと思うのなら初めからやらないでくださいよ!』


「だって、あれしか方法なかったし……」



 さすがのナイトも少女のことを心配している。自分の魔法だとしてもあれをまともに食らったらひとたまりもない。

 しかし、煙が天へと昇る中、中から人影がゆらゆらとこちらに向かってくるのが分かった。



「……自分の…魔法で死ぬわけ……ないでしょうが……」


「だよな…ちょっとあせったぜ」



 真っ黒の顔をした少女がこちらに顔を向けている。それは爆風による煙が原因か。はたまた熱で顔が焼けたのか。詳細は不明だ。


 これだけの戦いをした彼らにとって、もうこれ以上の戦闘は必要がない。



「……こんなんだけど…まだやる?」


「いいえ、もうやめとくは。あたいの完敗よ」



 どうやら少女もこれ以上の戦闘の無意味さに気付いたようだ。そしてナイトの強さにも。



 見えない少女に手を差し伸べて、ナイトは優しく微笑んだ。



「立てるか?」


「なめないでよ」



 少女は今までで一番うれしそうに微笑んでいた。負けず嫌いさとともに。


 

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