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二人で一つの物語  作者: 雨白狐
第一章 縛りと影
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第一章12 『盲目を知る今日この頃。』


 彼らは現在、トイレに立ち寄っている。



 今、黄色ブロックのありがたみを初めて感じる気がする。

 盲目とはもはや夢の中の世界のように真っ暗だ。



「……前が見えねぇってのも怖いもんだな。人生初だぜ」


『大丈夫です、僕が案内しますから』



 彼の案内をしてあげるという発言は、彼の申し訳なさからくるものだろう。だが、それこそナイトが一番恐れていたことで、



「それが一番怖ぇんだよ。またどっかにぶつかってきそうだぜ……」


『失敬ですね』



 その言葉に彼は少し腹が立ったようだ。自分の好意による言葉だったのにそれを否定されたから。今の彼には自分の助けが必要不可欠なのに。

 そんなことを考えていた。


 そんなザークの様子を察しているナイトではあるが、そんなことは全く気にせずにそのまま文句の意思を平行線上に並べていく。



「実眼がないと使えない能力とか……まじでヤレヤレだわ。体力もまるでないし、力もそれなりに限界あるみたいだし」


『-----』


「挙句の果てには目まで見えなくなるとかマジでロンガイだわ」



 思い当たる全てを彼にぶつけ、ナイトは無表情である。当然そんなナイトに対して反論をするザークだが、



『……さっきから言わせておけば……!』


「……けどな」


『……へ?』



 思い切って怒りをぶつけようと思ったザークであったが、そんな感情がプツリと切れる。



「そんな欠陥だらけの体でも……あいつを救えるのはこの体だけなんだ。だから俺はこの体と欠陥だらけの力を信じるぜ。体ぶっ壊れてもぜってー救う。何があっても」


『……ナイトさん……そんなにセフィのことを…。えぇ、僕の体はどうなっても構いませんから絶対救いましょう!』


「あたりめーだろーが!」



 再びお互いの目的、行動原点を確認した彼らの心は、ナイトの心は強く成り続けている。


 また、ナイトの心の中には誰かを救いたいという感情だけしか感じられなかった。否、ユキ(セフィア)を救うという意志だけが。




※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※



 目が見えなくなってから数分が経過し、今の彼は頭に大きなたんこぶを作っていた。

 歩いてでの移動が危険だと感じたのか、空を飛ぶことを勧められたナイトは真上に飛び上がった。しかし、彼らがいた場所は屋根付きのトイレの中。


 そう、ナイトはおなじみの…、



『天井に頭をぶつけたようだ!……ですね?』



 言おうと思ったことを先に言われた。だが、ナイトはそんなことに疑問を抱いたのではない。



「何でお前がそれ知ってんだよ」


『いえ、なんか言えって言われた気がしましたから…』



 なんだ、神の悪戯(ネタ)か、とナイトは思いながら、その空気を読んで話を繋げた。



「わけわかんねぇ……。血は…出てねぇよな…?」



 彼は出血について気にしていた。

 打撲なら普通アザや骨折などを気にするはずだが、彼には特別な何かがあるのかもしれない。



『大丈夫ですよ。血なんて一滴も出てませんから。それよりもたんこぶがひどいですが…』


「そういえば……、やばいやばいやばい!!!! いててててててて!!!!!! 痛い痛い痛い痛い…!!!!!」



 突然思い出したかのように頭のこぶをおさえながらもがき苦しみだす。しかしそれは少し大げさに等しいような気もした。



『たんこぶくらいでそんなに……。意外とナイトくんって弱いんですね』


「ちげーよ! この体がもろいんだよバーロー!」



 痛みは自分の精神によるものではなく、間違っても彼の体が弱いからとナイトは肯定する。

 しかし、ザークは先ほどのこともあってそれを素直に認める。



 トイレを抜けて、今度こそ空を飛ぶことができたナイトはそのまま家へと向かう。



「風は気持ちいけど……景色見れないのってなんか気持ち悪いな」


『なんなら僕が街の景色を説明しましょうか?』


「いや、それは別の意味で気持ち悪い」



 軽くザークをディスってそのまま飛び続ける。

 前が見えないままジェットコースターに乗っている気分と同じだと表せばよいのだろうか。


 景色が怖い人にならそれは良いのかもしれないが、何も見えない状態で足さえつかない、体の一部さえもどこにも接していない状態は経験しがたいことなので細かくは言い表せられないが、恐怖や不安からくる精神的な気持ち悪さがあるのは確かであろう。


 ナイトの胸中は今、そんな気持ちがグルグルとを巡っている。


 そして、家までの道のりを直線的にまっすぐ飛んで行った。



 少し飛んで、おそらく半分くらいの道のりを過ぎた頃あいだろう。ふいにザークが口を開いたのは。



『ちょっといいですかナイトさん』


「ん? なんだ、今飛行中だから余計なこと話しかけられると墜落するんだが」


『いえいえ、今だからこその大切な話です。いったん止まっていただけますか?』



 彼は結構大切そうな話をするようだ。今の段階で大切な話って言ったら……いったいなんだ? と、ナイトは思う。

 そして指示通り空中で一時停止したナイトは再び口を開いた。



「なんだよ…。たいしたことなかったら怒るからな」


『絶対ナイトくんが興味を持ってくれる話ですよ』



 彼は自信ありげに答える。そしてそのまま話をつづけた。



『被害者の一人が……すぐ近くにいます』


「へぇー。……ってまじで!?」



 ナイトの反応から察するに、どうやら彼は初め簡単に流すつもりだったが、内容がそれどころではなかったため、自らの驚きを隠せなかったのだろう。



「おい、それってどういうことだよ。だって被害者って全員学生だぜ? こんな時間に街なんかいる訳ね―じゃんか。……もしかして今俺学校の上とかにいるのか?」



 ザークは心の中でナイトに対し突っ込みを入れていた。『こんな時間に街って……実際今僕たちもいるじゃないか』って。だが、そんなことは口に出さず、ナイトに返答する。



『いえ、今はちょっとした路地の真上ですよ。どうやらその被害者は何らかの理由で誰かに路地裏に連れ込まれたのでしょう…』


「それってどう考えてもヤベーじゃんか! 早くそいつのもとまで連れてけ。ついでに話もしてぇし」


『そう言ってくれると信じていました! ささ、早く行きましょう!』



 そう言って、彼はナイトを被害者のもとまで誘導した。



 彼の案内する道は、細かい路地であったためか、目の見えないナイトにとってはなかなかの困難だった。



「こりゃ鬼畜だな。骨が何本折れるか…」


『体の周りにバリアを張れば衝撃は抑えられますよ。ですが飛行速度は少し落ちますけど』


「そんなことできるの?」



 またしても初耳だった。しかもそれはナイト自身の命にかかわるような大事な魔法の使い方のことだった。それを使えば、今までのけがはなかったかもしれない。


 だが、そのケガのおかげで手に入れた出会いというものもある。だから彼はザークを責めることはなかった。


 簡単な魔法の使い方を教わり、そのまま捜査を続行した。



 路地の奥、その突き当りが見え始めた時、男たちの声が聞こえ始めた。



「早く貴様の力を見せてみろよ。」


「嫌なこった。なんであんたらみたいなやつらにあたいが力使わんとあかんの?」


「ぁあ? てめぇ今の状況わかって言ってんのか?」


「おまえのその光魔法がよ、オレらには必要なんだよ」



 曲がり角に身を隠し、突き当りからの声をじっと聞く。

 喋り声から、おそらくそこにいるのは4人以上。うち、女性と思わしき口調なのが被害者であろう。


 そんな推測を立てながらも、ナイトは冷静さを失っていた。



『……ナイトさん、まさか行く気じゃないですよね? 目だって見えないんですし、今はいったん身を引いた方が……』


「なに言ってんの? おまえ」



 ナイトはザークのかつての言葉との矛盾に腹を立てていた。『被害者について教えたのはザークだ』、『行くべきだと言ったのもザークだ』。そんなことを思うナイトだが、それ以上に思うことがあった。



「おまえ前に言ったよな? 困ってるやつがいたら助けるって。今こそその時じゃねーか。しかもよ、オレあーゆー風に多人数で一人を囲むのってどうしても許せないんだわ」


『っし! 声が大きいですよナイトさん! …ってちょっと、待って!』



 ザークの言葉なんか全然聞かず、そのまま飛び出した。異常なる速さで、ロケットのように壁に向かって突進する。



「…おい、なんだあれは……」


「なんか飛んできますね……鳥でしょうか?」


「バカ、ありゃ人間だよ。人間が空飛んでこっちに突っ込んできてんだ」


「あー、人間ですか…」


「…って人間だと!?」

「…って人間だと!?」

「…って人間だと!?」



 見事なリンクを見せたヤンキートリオは、驚きのためその場に立ちすくんだ。被害者と思わしき少女も、とっさに身を後ろに引いた。

 そして、ナイトはそのまま、



 ドゴン!!


 壁に激突した。


 激突の勢いと、彼の魔力によってその場に立ちすくんでいたヤンキートリオはともに壁に叩きつけられた。そして彼らは三人とも地面に叩きつけられる。


 気絶した三人と、今起こったことがいまいち掴めない少女。

ナイトは壁にぶつかりながらも平気な顔をして立ち上がった。



「ザークからバリアの張り方を聞いといてよかったぜ。あんな捨て身技できればもうしたくないな」



 ナイトはバリアを張ったらしく、衝撃を全く受けなかったようだ。目の見えない彼にとっては、それしか奴らを同時に倒すことができなかった。


 そんな、突然現れた意味不明な男に対し、少女は少し警戒していた。



「あんたはだれ? それにさっきのはいったい…」


「…めんどくさいから簡単に言うぞ? …俺はお前を救いに来た」



 ナイトは得意げそうな表情で言い放った。


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