第一章11 『共通点』
--『やっぱりか』
ナイトがそう言ったのは、おそらく彼らの共通点に気付けたから。だが、明らかすぎるその共通点にザークはまだ気づいていないのである。
『どういうことですか?』
あからさまに質問をする。ナイトは『こんなこともわからねーのかよ』とあきれ返るくらいだった。
「…考えればわかるだろ」
ナイトの言葉は完全にザークのことをなめている。ここまでわかりきった真実に気づけない彼は、やはり幼い、と。
『----?』
「…被害者の共通点だよ」
どうしてもわからないザークに、とうとう諦めがついたナイトはおそらくの真実を話す。
「被害者はおそらくみんな光属性魔法の使い手だ。実際、今までに会った3人だってみんな治療魔法使えたらしいし」
『…そういうことですか…。やっとわかりました』
ナイトと比べ、理解力の薄い少年はようやく納得できたようだ。しかし、ナイトはここで問題点を話す。
「だけど…これだけの情報じゃ絞り込もうにも絞り込めねーしなぁ…」
彼の思うソレは、絞り込むための条件が特定するのに難しいということだ。確かに光属性魔法は希少だ。だから条件に合う人物はそれなりに絞り込めるだろう。
だが、その光属性適応者を見極める手段が存在しないため、調査は難航しそうだと思っていた。
「せめて治療魔法使える奴を見極めることができたら…」
『それって…僕にやれって言ってます?』
「…へ?できるの?」
諦めから出た言葉は、ザークによって補われた。そしてその理由を連ねていく。
『…僕の能力を応用すれば。以前にも言いましたけど僕、魔力の流れを見ることができるんですよ。そしてその魔力には属性ごとに色がありまして…』
「ちょ、ちょっとタンマ!そんなこと聞いてねーぞオレ。しかも属性に色があるとか…初耳だしさ」
またしても情報の共有不足からなるお互いの食い違いである。このことに関しては、以前にも似たようなことが何度かあったため、そろそろ何とかならないのかと思うのであった。
お互いの理解もまだまだだと思うのであった。肉体を共有しているのだから記憶だって共有してくれてもいいじゃないかと思う。
だが、その考えはすぐにひっくり返った。ザークに己の記憶を見せるということは、彼に絶望を植えつけるということになる。愛する人の死。それほどの絶望が他にあるというのだろうか。
そんな彼の思いやり?が、ナイトの優しさが、ザークのことを陰ながら包み込んでいるのだった。
そんな自分の中での妄想が膨らむなか、彼は妄想から現在に戻ってくる。
「…まぁ何がともあれ、被害者特定できるんだよな?」
『はい、たぶん…』
「おい、しっかりしてくれや!おまえだけが頼りなんだぞ!信じてるからな、ザーク!!」
今となっては彼の力こそが最後の希望だ。事件発生までの残り日数は限りなく少ない。他の被害者に関する情報はゼロ。そう考えたら、彼の力に頼るほかなかった。
そしてザークは、
『頑張ってみます!』
と、やる気のある返事を見せた。
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先ほど、魔力の色について話があがったが、それについて少し記しておく。
魔法には、主要魔法と補助魔法があると以前に話したが、主要魔法に必要な魔力には、それぞれに異なった色がある。
火属性魔法の魔力の色は『赤』。
水属性魔法の魔力の色は『青』。
風属性魔法の魔力の色は『緑』。
土属性魔法の魔力の色は『橙』。
雷属性魔法の魔力の色は『黄』。
光属性魔法の魔力の色は『白』。
闇属性魔法の魔力の色は『黒』。
と、こんなところである。
また、補助魔法の魔力の色は『透明』で、少しキラキラしているようだ。なので、ザークの体に流れる魔力は、そのキラキラによってやっと魔力を確認できるほど薄いということだ。
魔力の流れや色を見るには、魔力研究施設で面倒くさい検査を行って初めて見ることができるらしい。だが、彼はその過程のすべてをふっ飛ばして全てを確認できるため、異世界ではなかなか重宝されるはずだ。
しかし、彼の能力や魔法は、いまだ世間に公開されていない。
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『少し目を貸していただきますね』
そういうと、ナイトの視力はザークによって奪われた。
「…こんなことできたのかよ…知らなかったぜ」
『体の一部ならどうやら操作できるようです。ナイトさんが寝ているあいだにいろいろと試させてもらいましたから』
彼はどうやらナイトの眠っている深夜に体の操作に気付いたようだ。だが、それはナイトにとって、彼をおちょくるいい材料でしかないので…。
「寝てるあいだ…?もしかしてマスでもかかれていらっしゃいましたか?」
『は?んなわけないじゃないですか!』
「わかってるわかってる。年頃の男の子ならしょうがないでござますわね~」
『だから違いますってば!』
ナイトはタコのように膨れ上がったザークの顔を見て実に満足そうに笑っていた。
そんなことはさておき、彼らにはやらなければならないことがあったことをナイトは忘れていた。が、ザークはしっかりと覚えていたようで、膨れた顔をもとにもどしそのまま作業を続行する。
『…ではヤリますよ』
「ヤルってなにを?またシ○るのか…?」
『違います。そろそろ怒りますよ』
「すまんすまん」
ザークの目は本気だった。それにはナイトも正直やりすぎたと思ったのか、それ以上は何も言わなかった。
そしてザークはそのまま力を使う。
『見えました…。ですがアルテミス領全体で光属性を持つ者はおそらく50以上はいますね…』
「お前そんな範囲の奴らまで把握できるのか!」
『だいたい一つの領くらいは把握できます。ですが使いすぎるとしばらくのあいだ目が見えなくなりますが』
「やべーなオイ」
思わず感情がそのまま口に出てしまった。彼の言うソレは背水の陣に近しいもののようにも思えた。いや、もろ刃の剣か。
そんな感想もさなか、ナイトはもう一つの疑問を吐露する。
「…でもよ、光って結構レアなんだろ?50って意外といるんだな」
『アルテミス領の総人口はおよそ30万人。ですのでそこまで多いわけではありませんよ』
「たしかに、そう言われると少ないな」
彼の説明はナイトを納得させた。そして、このアルテミス領というのがそれなりの大都市であることも認識した。
しかし、そんなことを知ったところで、この50という数字を攻略する手段は思いつくはずはない。
「…んで?話し戻すけど、こっからどうやって被害者絞り込むんだ?セフィアたちを省いたとしても多いってことには変わりねーし…」
『残りの被害者の年齢はわかってるんでしたよね?』
突然年齢についての話が飛び出してきたため、ナイトは少し動揺した。だが、すぐに立て直してそのまま話を続ける。
「あぁ、一応…。けどそれで絞り込めんのか?」
『年齢さえわかれば完璧です。おそらく被害者を特定できるかと』
そういうザークはなかなか自信ありげだ。どうやら年齢で何かがわかるようだ。
残り被害者の年齢は、3人の被害者を除いたら、9歳、10歳、11歳、12歳の4人である。しかしこの情報で何がわかるというのだろうか。
「あとはこんだけだけど、これでなにがわかるんだ?」
『…説明すると長くなりますが…。単純に言ったら年齢によって魔力の流れ方が違うんですよ。だから年齢さえわかればある程度は絞り込めるはずです』
「そうか…なら任せる」
ザークの瞳は、ルビーのような紅から光り輝く黄金へと変色する。どうやら30万人という大人数から4人を見つけ出すのは相当精神を集中させなければいけないようで、そのせいで彼の限界を超えた体は、その体に変化を及ぼしたのだ。
『絞り込めました…それもピッタリ4人。彼らの魔力も記憶しておきましたので、今後捜査する際は僕の記憶を最大限に頼ってください』
「当然だ」
ナイトはザークの能力での絞り込みが終わったと思い、急ぎ彼から目の操作権を奪うのだった。
だが…、
「おい、なんにも見えねーじゃねぇか!さてはお前まだ俺から目奪ったままだな?」
『いえ、しっかり返しましたよ…?』
(…もともと僕の体なんですけどね。)
何かもの言いたげなザークだったが、今のナイトにはそんなこと関係ない。そう、今彼にとって大切なことは自分の視力のことだ。
そして、
「…ってことはまさか…」
『はい、そうです…。力使いすぎて少しのあいだ視力がゼロになります…。でも安心してください!じきに回復しますから!』
「…ったく、まじかよ…」
現在の彼にとって、視力ゼロの環境はなかなかハードなことだと心の中で感じるのであった。
目の見えない、真っ暗な世界に、彼はまた立っていた。
しかし、今は違った。だってそばには未来への道を指し示してくれる頼りがいのない弱っちぃ少年が、真っ黒い姿の黒髪男の背中を後ろか押してくれると信じていたから。
暗闇は、今もまた輝く。