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二人で一つの物語  作者: 雨白狐
第一章 縛りと影
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第一章9 『人助け』

 今日も学校を休んだ。だが、それも仕方のないことだ。


 遅い目覚めは、もうすでに慣れたものだ。そのくせは、ザークの体にまでも浸透するほどに。だが、ナイトはそんなこと全く気にする気配も見せない。



「よし、そろそろ出るかな」



 目をこすりながら大きくあくびをし、伸びをしながら起き上がる。

 起きたばかりのようにも思えたその姿は、寝癖だらけでくちゃくちゃの髪は、いつになく新鮮さを放っていた。

 そんな状態のまま彼は……そのまま家を飛び出した。



『っちょ、ナイトさん!?身なりくらい整えてくださいよ!』


「ぁあ?いいじゃねーか服着替えたんだしさ、それに今日はそれどころじゃねーだろ?グラム生相手だったらそれなりに不真面目感ださねーとなめられんだろが」


『そ、そうですが…』



 ナイトの言葉が、案外正論だったことに驚きを隠せないザーク。だが、それでもザークは納得しているわけではない。

 彼の扱っているその体はザークのものなのだから。

 だが、今そのことでいちいちつっかかっても面倒なため、彼は身を引くのだった。



 第一学校のグラムは、距離で考えると家から約10キロ。また、ザークの通う第三学校は家から約5キロ。そう考えると、同じ速さで歩けばおよそ倍の時間がかかる。具体的には1時間だ。

 また、第一学校はオープンキャンパス方式で、年中一般人の入場を許可している。なので、前回の調査のように教員たちに不審者と勘違いされ、取り押さえられる心配がなかった。



 空を飛ぶ、というチート的な選択肢もあったが、現在それほど焦っているわけでもなかったのし、そんな身を削るような行為を自分から進んで行うのはバカげているのでそんなことはしなかった。



「…でもこの体、わかってはいたけどクソ疲れるな…」



 今まで思っていたことだが、ザークの体はもともとのナイトの体よりも体力が少ない。本当なら20キロぶっ続けで走ったとしても疲れないような体だったが、今の彼の体はおよそ500メートル走っただけでもバテてぶっ倒れるくらいだ。


 そんな彼の体にナイトは、『めんどくせーヤツの体はやっぱめんどくせー』と思うのだった。



そして、およそ半分ほど歩いたころ、彼はすでにヘロヘロだった。



「…っくそ、もう限界だぜ…どうしてこうも体力がないんだ個の体は…」


『魔法がありますので…トレーニングの必要がないんですよ…』


「…ック、異世界らしいぜったくよ、そんなんじゃ剣術も使えねーだろがって」


『僕に剣は必要ありませんから』


「ぁあ?魔法があるからってか?」


『-----』



 彼は、魔法が使えるということをいいことにトレーニングなどを全く行っていなかった。そんな彼にナイトは少し腹を立てるのだった。



「こっちじゃ剣持っててもいいんだから、ちゃんと使えるようになっとけよ」


『は、はい…』



 怠惰なザークに説教をし、ナイトはまた歩き始める。


 そんな時、道端には涙を流しながらうずくまる少女の姿があった。



「-----」


『ちょ、ちょっと!ナイトさん!無視ですか?』


「は?別にいいじゃねーか。話しかける理由もないし」


『ダメですそんなの!僕が許しません!そんなんだったら僕これ以上手伝いませんから!』



 彼は強くナイトを叱った。その言葉は、彼の性質か、または困っている人を無視できない優しい心か。それはナイトにすらわからないことである。



「…ったく、わぁーたよ、わかった。助けりゃいいんだろ?」


『とーぜんです!』



 彼は強く言い放った。どうやらナイトは彼の言葉に押し負けたようで、彼のいう通りその少女を助けることにする。

 でも、そんな彼の言葉は、誰かのための優しさだということをナイトは分かっていた。



「あの…えーとお嬢さん…?どうかされましたか…?俺でよければ話聞くよ?」


「…ん…?………うわぁーーん!!」



 彼の呼びかけも虚しく、少女は大声で泣きだしてしまった。だが、そんな少女に対しナイトは諦めていない。



『ナイトさん!泣かせちゃダメじゃないですか…!』


「パシッ!」


「ーーーーッ!」



 ナイトは少女の両手を自分の両手で強く挟んだ。そんな突然の出来事に、少女は少し驚き、戸惑った表情で彼の顔を見る。


 しかし、ナイトはそんな空気を一気に吹き飛ばす。



「にぃーーぃい?……バァア!!」



 突然、彼は何かをした。一瞬それがなんなのか、何が起きたのかさっぱりわからなかった。だが、少女の次の反応で彼が何をしたのかがなんとなく分かった。



「………っぷ、わぁはははは!何そのお顔、おにーちゃん変なお顔ーー!」



 プライドの高そうなナイトからは考えられない行動だ。そう、彼は突然ありえないほどの変顔をしたのだ。言葉で説明するのは難しいほどの。



「そうそう、面白いだろ?さっきみたいに泣いてるよりも今みたいに笑ってた方が断然面白いぜ!」



 そういうとナイトは近くにあった花屋から、



「よっと、これはおにーちゃんからのプレゼントだ」


「あ、ありがとう!」



 ナイトは少女に花をプレゼントした。しかし、花屋の店主はそれに対し何かもの言いたげだ。



「ちょ、ちょっとあんちゃん、勝手に持ってかれちゃ困る………ってあれ?」


「おっちゃんそれで足りてるか?」


「あ、あぁ。まいどありー…。…いつの間に払ったんだ?」



 花を引きつけると同時に金を払う。

 店主は少し不思議そうだった。

 


「ところでお嬢ちゃん?さっきはなんで泣いてたの?


「カエラって言うの。私の名前」


「お、おぉそうか、カエラちゃんな。んで?」



 ナイトは優しく話しかける。そんなナイトに少女は安心したように心を開いた。



「あのね、あのねー、ペンダント…落としちゃったの…。それでね、お父さんのところにも帰れなくなっちゃって…」



 少女はまた泣きだしそうだ。だがナイトはそんな少女を慰める。



「よし、おにーちゃんに任せろ!オレが全部なんとかしちゃうから!」



 強いその言葉は、なかなか重たそうにも思えた。だが、彼は本気だ。



「うん!」



 そして、そんな彼の言葉に少女は強く頷くのだった。




※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※



「なんとかするとは言ったけど…」



 対象にしている落し物は、おそらくものすごく小さい。それを探すとなると、無数の小石の中から一つの宝石を探し出すのと同じくらい大変だった。



「なー、カエラちゃん?そのペンダントってどれくらいの大きさなの?」


「うーんとね…これくらい!」



 少女は自分の手でそれの大きさを表した。その大きさはおそらく5cm×5cmくらいの小さなものだった。また、それには大きな宝石が装飾してあり、その中には写真が入っているようだ。



「…やっぱりか…。こりゃまた鬼畜クエストだな…。物探し系クエストの中でもSSランクくらいはありそうだぜ」



 今の状況をゲームの世界のように置き換えたナイトは、現在がいかに絶望的なのかを改めて感じるのだった。

 しかし、そんなナイトの状況をひっくり返すチート的技が発動する。



『ナイトさん、僕の力を使ってください』


「使うったって、どうやって…?」


『対象物を想像するんです。そしてそれを引っ張るように』



 ナイトは思った。『そんな簡単に?』と。だが、その力はまさしく本物のようで。



「お、おい。想像してるぞ。これでいいのか…ってグハッ!」



 言われた通り想像してみた。すると彼のもとに探していたものが飛んできたのだ。無数の石とともに。

 それらは彼の腹を直撃し、彼はそのまま倒れた。



『あ、言い忘れてましたけど探しているものと同じぐらいの大きさのもの全てを引きつけちゃうんですよ』


「そ…そういうことは早く言おうかぁ…」



 腹をおさえながら立ち上がったナイトには、ザークに対する強い怒りが感じられた。だが、そんな怒りは少女の顔を見た途端全て吹き飛んでいた。



「私のペンダント!すごい!おにーちゃん!ほんとにありがと!」


「あ、あぁ。よかったな戻ってきて」


「うん!」



 少女は今までで一番の笑顔を見せた。



 ペンダントが戻ってきて、次にやらなければならないことは少女の父親探しだ。



「…ところでカエラちゃん、お父さんはどんな人かな?」


「うーんとね…お店屋さんなんだよ!」



 少女の言うお店屋さんとはおそらく露天商のことだ。しかし、露天商といってもこの辺には百とある。これだけの情報じゃ絞り込むことはなかなか難しいことだった。



「他には何かないか?」


「あとねー……っあ!お髭が生えてるの!」



 髭が生えてると聞いてナイトは『まじかよ』と思った。彼の知る髭付きの露天商といえば…初日にしつこく追い回してきた果物屋のおっさんくらいだったから。

 そんな最悪な想像をしながらも、彼はそのもしかしてを頼りにあの果物屋を目指した。


 そして、少女と手をつなぎながら数分歩いた後のことである。



「あ、お父さんだ!おとーさーん!!!」


「げ、やっぱりそうじゃんかよ!」



 少女が『お父さん』と呼んでいたのはやはりあの時の果物屋だった。



「おお、カエラよ!探したぞ!あんま遠くに行っちゃいかんといったじゃねーか!」


「ごめんなさい…。でもね、このおにーちゃんがここまで連れてきてくれたんだよ!」


「おにーちゃん?そんな奴どこにもいねーじゃねーか」


「あれれ…?おかしーなぁ…」



 ナイトの姿はどこにもなかった。おそらく店主と顔を合わせるのが面倒だったのだろう。



「おいちょっと待てカエラ、そいついったいどんな奴だった?」



 店主は何か心当たりがあるような感じを醸し出していた。そしてその疑問を少女にぶつける。



「えーっとねぇ…。白い髪の毛で…いろんなものを浮かせたりとかできるんだよ!すごいでしょ?」



 少女のそれは、ナイトの特徴のほとんどを表していた。そして、それを聞いた店主は、



「ふん、やっぱりか…」



 と、何かに気付いたかのようにニヤリとするのだった。

 


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