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二人で一つの物語  作者: 雨白狐
第一章 縛りと影
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第一章8 『二度目のグラム』

 少女サラとの接触を成功させたナイトは、そのままその日の活動を終了させて眠りについた。現在はその翌日の朝にあたる。



『今日はちゃんと起きれたんですね』


「…今日はねぼーしてねーよ、さすがに」



 ここのところ毎朝同じようなことを気にしているような気がする。それもしかたのないことだ。早起きをするなんて今までの生活からは考えられなかったから。

 怠惰こそ、引きニートこそ正義とまで考えることもあった彼にとっては、そんな腐った生活習慣を治すいい機会かもしれない。


 腕時計の針は午前7時を指している。学校集合時刻はおよそ8時30分。そして一限の開始は9時となっている。

 本日の彼にとって、このタイムスケジュールは余裕だった。だから、以前よりもゆっくりと登校の準備を整えようと思った。



「とりあえず飯でも食うかな…」



 寝室を離れ、リビングへ。

 そこに父親の姿はなかったが、一人の少女の姿があった。その少女の姿に見覚えのあったナイトは自然な感じで話しかけた。



「おぉ、ヒイラ。おはよーさん」


「え?ヒイラって誰よお兄ちゃん」



 その少女はどうやらナイトの知る人物とよく似ていた。だからナイトは普段からその人物に話しかけるように、少女に話しかけた。

 しかし、それは現世界の話。こちらの世界でそれは通用するわけがない。



(しまった、ついいつもの流れでヒイラって呼んじまった。こっちの世界じゃ名前だって違うはずなのに…)


「ねーお兄ちゃん?聞いてるの?もしかしてまだ寝ぼけてる?」


「おぉわるいわるい。何でもないよ」


「変なお兄ちゃん」



 少女に少し怪しまれているようだが、何とか乗り切ることができた。

 先ほどの少女の言葉から考えて、おそらく彼女はザークの妹だろう。自分と家族構成が同じならそうならなければおかしなことになる。

 血縁関係のない少女が一緒の家に暮らしているというのもある意味まずいことである。


 そんな些細な時間が少し過ぎたころ、ナイトは自分のお腹が大きく鳴ったことに気付き慌てて抑えた。



「朝ごはん作っといたから食べといてね!私もう行くから!」


「お、おう。サンキューな」



 少女の朝は毎朝早い。そのせいで少女と出会ったのはこれが初めてだ。なぜこんなに早いのかは謎だが、それなりに学校生活を一生懸命送っていることには間違いないだろう。


 結局家に残ったのはナイトだけとなった。しかし、まだ時間に余裕があることを言いように思ったのか、その時間を無駄に浪費した。それは、今までのダラダラした生活からくるものである。



「ところでよーザーク?あいつの名前教えてもらってもいいか?名前が分かんねーとまた不自然になりそうだし」


『そうですね、教えます。あいつはアリサ、僕の妹です』


「妹なのは知ってる」



 唐突な質問にも、ザークは納得して答えてくれた。前に何度か名前が分からず面倒だったことを覚えていたナイトだからこそ名前という情報は一番といってもいいほど大切なものだった。


 アリサの作ってくれた朝食のおかげで空腹は完全に満たされた。そしてそのまま顔を洗い、歯を磨き、髪をそれなりに整えて出発の準備を完全に整える。



 少し余った時間を利用して、昨晩まとめた情報をもとに本日の活動予定を再確認する。しかし、特にこれといってやることは決めていなかった。なぜなら、単純に情報不足というやつだ。だから彼は、本日の聞き込みだけを頼りにしていた。



「あと四日で残りの被害者を全員割り出す…か。なかなかつらい話だがやんねーと何も始まんねー。絶対に変えてやる」



 彼の独り言には強い執念が宿っていた。未来を変えようという、ユキを救おうという強い執念が。

 そんな彼の姿にザークは、あえて触れずにそのままにしておいた。



 時間は思ったよりも早く経ったようで、腕時計の針は午前8時を指していた。



「おっと、ぐずぐずしてたらまた遅刻だぜ。さすがに遅刻、休み、遅刻となりゃまずいよな」


『当り前じゃないですか!ささ、早く行きましょう!』



 いつも以上に焦った様子を見せるザーク。おそらくナイトの脅しが効いたのだろう。


 そんなこんなで、ようやく家を出発したナイトである。



 本日は時間があったため学校まで歩いて登校することにした。無理に空を飛んでもし誰かに見られたりでもしたらまた面倒なことになる。そう考えていたナイトにとってはわざわざ理由もなく無茶はしなかった。


 街は今日もにぎやかで混雑している。正直歩くのにも一苦労なくらいだ。そんな街中をゆっくりと歩きながら、ナイトは目的地を目指した。



「あわわ、あぶねぇあぶねぇ」


「気を付けろ坊主!」


「さーせーんっす」



 荷物を運ぶいい年の男とぶつかりそうになる。ナイトは一瞬以前の果物屋のことを思い出した。だから当然面倒なことにならないようにとうまく回避した。


 そんなこんなで、ぶじ、時間通り学校に到着することができた。


 教室に入ると、



「おう、ザーク!今日は遅刻じゃないんだな!」


「何で昨日休んだん?」



 と、クラスメイトの何人かに話しかけられた。それに対しナイトは、『まぁ、ちょっとな…』と軽くごまかしたように流す。


そんな時である。フォートが教室にやってきたのは。



「お前たち席につけ。朝の会を始めるぞ」



 無理やり生徒たちを席につけ朝の会を始めようとする。腕時計を確認したが、まだ8時30分になっていない。だからこそ、フォートに反発したい気分だった。


 しかし、ナイトを見たフォートは突然こちらによってきた。



「オザーク、その右手首に巻いているものはなんだ?」



 フォートの示すそれは、ナイトが現世界から持ち込んだ腕時計だった。当然こちらの世界の住人は知るはずのないもの。むしろ知られてはまずいものだ。

 それがヤツに見つかったとなると、いろいろと厄介なことだとナイトは思うのである。



「これは…その…リストバンドですよ…はははは…」


「ふーん、まぁ何でもいいが学校に変なもの持ってくるなよ?」


「は、はい…。気を付けます」



 とっさについた嘘のおかげで何とか乗り切れた。

 フォートがそのことに関して深く追及してこなかったところに、自分の運の良さを感じていた。



 そして、朝の会が終わり、一限、二限と時は過ぎる。



「ザークよー、この前頼まれてたこと少しだけど調べといたぞー」


「おぉ!そうか!…で?どんな情報が…?」



 二日前、調査を行った際にその対象者に調べてもらうようにと頼んでいた。その依頼が今、役に立ったようだ。



「第一学校のグラム生で俺たちよりも二つ下の男だ。どうやらその学校内では結構有名人らしいぞ」



 第二の被害者の情報、それは中一の男子生徒についてだった。ナイトにとってその情報は異常なほどの価値があった。残り少ない日。限られた状況で事件を食い止めるには彼らからの情報が必要不可欠だったから。



「そうか!わざわざすまなかったな。ほんとにありがとうな!」


「おう!いいってことよ!困ったときはお互いさまさ!」



 依頼を頼んだ者はとても親切だった。それはナイトにとってもとてもありがたいことで、今までのザークの生活に対しても感謝をしていた。彼のこれまでがあったからこそ、みな快く協力してくれたから。



 そんな協力によって、次の目的が決まったころ、いつの間にか土岐はあっさりと過ぎており、気が付くともう昼だった。


 本日はしっかりと弁当を持ってきたから、だから前とは違い腹の音をごまかさなければならないという心配はない。


 この弁当は今朝アリサが作り置きしておいてくれたもの。朝食とともに弁当まで作ってくれていたのだ。そう考えるとやはり妹はすごい、と改めて思はされる。



 現世界にいた時でも、ナイトの妹は引きこもった兄のためにいろいろなことをしてくれていた。しかし、当時のナイトはそんなことにも気づいておらずただダラダラとした生活を送っていた。

 だからこそ、今となって妹の優しさに気付けたのだ。



「中身は…昨日の晩飯の残りだが…でも十分だぜ」



 忙しい妹でも、しっかりと母親の代わりを務めているのだと感心した。そしてそれをとてもうまそうに頬張る。実際おいしかった。



 また時間がたって、下校の時刻となった。本日こなさなければならない予定をすべてこなしたナイトにとって、もう学校に用はなかった。だからこそ早く家に帰って今後の予定をまとめたかった。

 しかし、そんな思いもやつによって踏みにじられる。



「オザーク、ちょっといいか?」



 フォートは彼の名を呼んだ。


 昨日休んだことについて問いかけられる。なぜ休んだのか、体調は良いかなど。だが、それはどうやら本題ではないようで。



「それとだな…ルグから連絡があったのだがお前何で昨日あんなことをした?」



 当たり前の質問だ。それについて聞かれることは十分承知の上だ。だが、こいつにそれを話したくはない。事件のことも、ユキのことも、別の世界のことも。こいつは信じられない、信用できない。と、ナイトは考えるのであった。

 だから、そのまま何も話さずにフォートから逃げるように学校を飛び出した。


 背後から大声で『オザーク!』と呼ぶ声が聞こえる。だが、彼が振り向くことはなかった。



 何も考えず、なにも耳に入れず、ただただ走って家に向かった。



『ナイトさん…。どうしてあんなにフォート先生を嫌うんですか?』


「べつに…」


『見るからに嫌ってるようにしか思えないんですが…』



 走っている最中、ザークが平凡な質問をしてきた。が、ナイトはそれに対していい加減に答えた。ヤツのことについてこれ以上話すのが嫌だったから。



『お前はなんにもわかってねぇ。あいつのことは信じない方がいい』



 ナイトはザークに忠告した。だが、ザークにとってはなぜそんな忠告をされるのか、その意図がさっぱりわからなかったようだ。


 そして、もう見慣れた異世界の自分の家に着く。



 いつも通りの過程を越えて、部屋に入る。腕時計の針は21時を指していた。


 本日手に入れた情報をまとめて、再びスマホで被害者の顔を確認しようとする。が、スマホはすでにブラックアウトしていた。



「おい、ちょっとまてよ。ここにきて充電切れとかマジでやめてくれよ…」



 もともと少なかった充電が底をつきた。ここにきてやっとナイトは充電していなかったことにとてつもない後悔を覚えた。


 しかし、そこでふと何かにひらめいた。



「ちょっと待てよ…ワンチャンあるかもしれね」



 そういうと、腕に巻いていた腕時計を外し、なにやら始めだした。

 腕時計のパーツを一つ一つはずしていき、その中の一つのパーツを抜き取る。そしてバラバラにしたパーツをもとに戻すと、その抜き取ったパーツで何かを始めた。



「これをスマホにつなげてっと。…よしできた、完成だ!これでおそらく充電が回復するはずだ」



 彼が抜き取ったパーツ、それは太陽光パネルだった。電気エネルギーという概念がないこちらの世界でその代わりとなるものは自然の力のみ。彼は自分の持ち合わせていたものだけで自然すらも味方につけたのだ。


 そんな姿を静かに見守っていたザークが彼に問う。



『それが…神機カラクリの力…なのでしょうか?』


「こっちではそうなるのか…。モノづくりの力やその知識がカラクリか…。ならオレの力は機械的高知識メカニックだな」


『なんかすごそうですね…!実際今見たのもなんかすごそうでしたし』


「だろ?オレマジ天才だろ?」


『そこまでは言ってませんが…』



 調子に乗ったナイトに対し、ザークは軽く受け流した。しかし、ナイトの持つその力はすごいものに違いはない。


 彼がその力を手に入れたのは、三年間の怠惰な生活がきっかけだ。何もすることがなかった彼にとって、コンピューターは唯一の暇つぶしだった。ゲームや本などもあったが、基本はパソコンだったため、その影響で機械に強くなったのだ。


 それが今となって役立つとは少しも予想できたものではない。



 そんなこんなで、スマホに希望を持つことができたナイトは、そのまま眠りにつくのだった。



事件発生まで、およそ後三日。


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