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二人で一つの物語  作者: 雨白狐
第一章 縛りと影
17/33

ニヒト番外 『本場のハロウィン!』

 今回はハロウィンということでスペシャルストーリーを書くことにしました。舞台は異世界。時系列は第二章終了後のナイトとザークがそれぞれの世界に帰れた後です。なのでナイトは出てきません。


 メインストーリーよりも先の話になってしまいますので、二章で登場するキャラなども出てきますが、どんなキャラなのか予想するという意味で楽しんでください。


 メインストーリーが追い付かなかったこと、誠に申し訳ございません。


 それでは、スペシャルストーリースタートです!


 今日は、毎年恒例の魔力生誕祭ハロウィーンが開催される日だ。この時期になると、街からお菓子やらスイーツやらがやたらとなくなるがそれもしかたのないことだ。



「今年もこの時期がやってきたんだな!オレとしては今年も優勝したいところだが…今夜はまじで楽しみだぜ!」


「エリクならたぶんいけると思うよー!てか去年だって大人とかガチ勢相手に2桁くらい差つけて圧勝してたしさ!」



 エリクは今年も張り切っていた。5年以上連続で優勝している彼にとっては今年のハロウィンも優勝したいと思うのは必然的なことだ。



 現世界と異世界でのハロウィンはルーツが大きく異なっている。

 現世界では、悪霊や魔を追い払うために人々が変装し、それらが満足してその場を去ってくれることを願った行事であった。しかし、異世界ではそれが全くの逆で、魔法や魔力という力が生まれたことを祝う祭りのようなものとなっている。


 しかし、ルーツは真逆だが行われる内容はほとんど同じである。


 異世界では、その日にどれだけ多くのお菓子が集められたかで競い合う大会のようなものが存在する。それもハロウィンの一環であり、メイン行事でもあるため一番盛り上がる。


 ルールはいたってシンプルで、いかに魔法を芸術的に見せたかで競い、お互いの任意のもとお菓子の奪い合いをするのだ。シンプルすぎるため簡単に破ることもできるが、もしこのルールを破ったら自分自身がお菓子になってしまうという異世界ならではの呪いのようなものも存在したためそのルールに逆らう者はまずいなかった。


 また、『トリック・オア・トリート』と言われた相手はあった相手と必ず競わなければならない。いわゆる強制戦闘ルールというところだ。


 しかしながら、お菓子を取り合うところに疑問点がある。なぜ『お菓子』なのか、と。それはハロウィンの原点に基づく話である。


 かつてこの地に初めて魔法をもたらした初代魔女グランドはとても甘いものが好きな優しい魔女だった。毎日お菓子を食べさせてもらう代わりに、人々に魔力の扱い方や魔法の放ち方を教えた。それが現代の魔法社会を生み出すきっかけとなったようで。


 グランドがとても甘党だったことから、お菓子を集めるという習慣に結び付いたのかもしれない。



 そして、そのビッグイベントが今年もやってきたということで、街はいつもとなく盛り上がった様子を見せている。



「ところで、セフィは今年どうするの?去年はお菓子配る側だったけど」


「今年は派手に暴れたい気分だから、当然集める側よ!あんたらには負けないんだからね!」



 セフィアはとても勝気だった。



「ところでザーク?メイちゃんは呼ばなくてもよかったの?」


「今から呼びに行くところだよ。でもあいつまんだお前らと一緒に行動できないかな…」



 メイを呼ぶことは最初から決めていた。彼女にとって幸せな時間は、自分たちがともに作っていかなければいけない、とザークは思うから。彼女にとっての幸せを、失くした長い年月を、ここから作り上げていかなくてはならない、と心の内に決意していたから。



「それじゃあ、みんなはここで待ってて。僕一人じゃないとたぶん顔も出してくれないと思うから」


「お、おう。頼んだぜ、ザーク!」


「よろしくね!」



 とりあえず一人で彼女の家へ。今となってはもう行き慣れたものだ。とても大きな大木にぶら下がるようにして建てられたその家は、まさに魔女の暮らす様を思い浮かばせるようだった。



「ここには…いつ来ても辛いな…」



 ザークにとってその場所は心に大きな傷を残した場所。以前ナイトと同化していた際に起こった悲劇によって、彼はナイトと同じくらいの絶望を味わった。しかし、そんな場所にも守りたい人がいる。だからザークは自分の心を押し倒してでも彼女に会いに行くのだ。



「…ザークくん!わざわざ来てくれたんですか…!」


「そうだよぉー。メイを迎えに来たんだ!今夜は一緒にハロウィンだよ!」


「もぅ…ザークくんは勝手なんですから…」



 彼女の表情はとても嬉しそうだった。出かけるつもりもなさそうだった彼女を無理やり誘ったザークだったが、彼女はちっともいやそうじゃない。それはザークにも伝わったようだ。



「…でも、ザークくん…。呼んでくれればザークくんのところまで行きましたのに…。その…この場所はザークくんにとっても…辛い場所でしょうし…心だって泣いてますよ…」



 メイはザークを心配した。それと同時に彼女は自分の能力を使ったようで、ザークの心の内まですべて見据えていた。彼が心の中で涙を流していることも。

 しかしザークはそんな彼女に優しくこう答える。



「いちいち気にしちゃだめだよ!僕がメイのことを迎えに来たかったんだから、メイが僕を心配する必要なんかないって!それに、いつも言うけど心の中をのぞくのは禁止な!」



 ザークはメイに笑顔を見せながら言った。それにはメイも、



「はい!ザークくん…!」



 と、とても嬉しそうに微笑みながら答えた。



 そのままの流れで、メイはザークとともに家を出た。そして彼女はザークの左腕にしっかりと抱きついて。



「お、おいおい!待てよメイ!それはちょっと…な!」


「いいじゃないですか。こうして二人で出かけるのだって久しぶりなんですし」



 ザークは照れを隠し切れなかった。そんなザークの姿にメイはとても嬉しそうに答えた。そして彼女は、さっきよりも強くザークの腕を握った。しかしザークも嬉しいのか、それ以上そのことについては何も言わなかった。



「ところでメイ?メイはハロウィンとかって今まで参加してたの?」


「昔はしてましたけど…あれから7年くらいは参加してません」



 そう言うと、メイは少々表情を曇らせた。しかし、ザークはそんな彼女の心を全て吹き飛ばす。



「それだったら、今年のハロウィンは普通以上に楽しみだな!みんな一緒のハロウィンほど楽しいものはないからね!」


「はい!ザークくんと一緒のハロウィンほど、私にとって楽しみなことはありません!」



 そういう彼女の表情は、いつも以上に晴れ晴れとした笑顔を見せていた。


 彼女が同行を許可してくれたことで、これで四人となった。ザークを合わせ、エリク、セフィア、そしてメイである。みな同じ学校なのに、こうして四人が同時に顔を合わせるのは初めてだった。



セ:「もぉー、ザークったら遅いんだから―!」


ザ:「ごめんごめん」


メ:「あれ?ザークくんだけだったんじゃ…?」


ザ:「あ、ごめん言い忘れてた。みんなも一緒なんだよ。たくさんの方が楽しいだろ?」


メ:「そ、そうですが…」



 彼女の先ほどまでの笑顔が、突然消えた。そして彼女は黙り込んでしまう。しかし、そんな彼女に話しかける者がいた。



「メイちゃん久しぶりだね!今夜はみんなで楽しみましょよ!」


「メイ…だよな?オレと会うのは初めてだと思うけど…オレの名前はエリクシードだ。エリクって呼んでくれ!」



 優しく話しかけるセフィアと、流れで自己紹介を挟むエリク。そんな彼らの気遣いは、メイの警戒を少しだけ解いた。



「は、はい…」



 弱々しい声で返事をする。それは、彼女の人を信用できないという性質からくるものだろう。



そんなことを考えながら、彼らは派手に飾られた街を見て歩く。街の人々は楽しそうに騒いだりしてとても賑やかだった。そんな街の風景は、夜になっても同じことだ。



ナ:「もう夜なのか…なんか時間が経つのが早くなった気がするな」


メ:「そうですね…ネクロ系の魔物もたくさん出現してますし…」


ナ:「でもこいつらハロウィンの日だけは僕たちに危害加えたりとかしないから平気だね」


エ:「おまえらグズグズしてるなら置いてくぞ!」



 そう言うと、エリクはとても張り切った様子で広場へと走っていった。



 広場にて人々が大勢集まっている。腕時計の針はちょうど19時を指したころだ。

 舞台の上から司会のような者が話し始めた。



「ただいまよりー、ハロウィーン祝生大会を始めるー!」


「みにゃさーん?お菓子の準備はいいですかにゃー?」


『うをぉぉぉぉーーーー!!!!』

『うをぉぉぉぉーーーー!!!!』

『うをぉぉぉぉーーーー!!!!』



 周りにいた人々は一斉に手元にあるお菓子を天へと放り投げる。これが大会スタートの合図だ。一斉に走り出した人々はまず、町中の家々めがけてお菓子を求めた。それにはザークたちも負けじと応戦する。



エ:「おせーぞザーク!俺はとにかく家を回る!お前は片っ端から外の奴を対象にお菓子を奪え!」


ナ:「ちょ、ちょっと待って!エリク…!」


セ:「ザーク、私たちも負けてらんないわよ!とにかく集めましょう!」


メ:「セフィアさんには負けませんよ…!」



 意外とメイもやる気だ。セフィアに対抗心を燃やしているのか、またはザークにセフィアを取られたくないのか。詳細は不明だ。



 そうこうしているうちに、家じゅうにあったはずのお菓子は、もう一つも残っておらず、外にいる人々はこの日が終わるまでお菓子を求め続けた。



「オレの魔法だ!見てみろ!この炎のアーチを!」


「なんだと!そんな繊細な扱いができるとは…。私の完敗だ」


「へっへーん。いっちょあがりー!これで825個目だな!」



 エリクの言うそのお菓子の数は明らかに桁外れの数値だった。普通の人間なら三桁になればいいところだったが、彼はそれの8倍以上をすでに手に入れていた。だが、ザークも負けていなかった。



「お菓子が…浮いているだと!風魔法か?しかし魔力が感じられないが…」


「これは風魔法なんかじゃないですよ。僕の専用魔法です」


「なんと…。これはまいったね。私の負けだよ…」


「よし!これで531個!」



 ザークの持ち数は500個を超えている。自分の魔法を前まで隠していたザークにとって、この力を使えばお菓子くらい簡単に手に入ることは予想していた。そして実際にお菓子はたくさん手に入ったのだ。


 そして、残り時間があと五分を切ったところでほとんどお菓子はザークたちのもとに集まっていた。そしてザークとエリクのラストバトルが始まった。



「やっぱり最後はおまえのようだな」


「僕もエリクと最後に戦うことを予想していたよ」


「んじゃーとっとといくぜ!」


「あぁ、こっちこそな!」



 時間としてもおそらく最後の戦いだ。多くの人々が見守る中、江陸は自分が使える最大の大技を放つ。



「これが俺の使える最強魔法、七魔混合波動剣オーロラブレイドだ!この魔法に勝てる奴なんているわけないぜ!」



 彼の手に握られているそれは、七つの主要魔法エレメントによって光り輝く七色の光剣だ。どこかの勇者が持っていそうなほど神々しくとても勝てる気がしない。が、ザークはそれでも自分の力を放つのだった。



「うをぉぉぉぉーーーー!!!!その力、借りるぞ!」


「な、なんだと!」



 ザークは七色の光剣をバラバラにした。物理的に砕いたのではなく、魔法の力で分裂させたのだ。



「オレの操作力をお前が上回っただと!そんなこと信じられねぇ…。他人の魔法を操るなんて…」


「よっしゃー!これだけの魔法があれば…。よし、できた!七色魔法噴水オーロラスプラッシュの完成だ!これでどうだ!」



 辺りには、七色に輝く噴水が天へと昇っていく。周りにいた人々は興奮と歓喜で大歓声があがっている。



『うをぉぉぉぉーーーー!!!!すげーぜ、こんなの見たことねー!』


「オレの魔法でここまでのものを…。けどな、オレの魔法はまだまだこれからだぜ!」


「何回やっても僕が操るだけだってば!」


「まだだ、まだ負けちゃいねー!」



 エリクは抗った。自分の負けを認めようとしなかった。実際互角に見えたその戦いは、ハロウィンの運命たちによってジャッジされる。


 そして、エリクは光に包まれた。



「な、なんだってんだ!」


「なんだこれ!エリク、大丈夫か!?」



 光に包まれたエリクの体はその場から消えた。否、お菓子と化していた。



「これが…ハロウィンの呪い…。オレとしたことが…」


「ってことは僕の勝ちってこと?」


「あぁそうだ。ハロウィンの運命さんがそう判断したんだ。オレの負けだぜ、ザーク」



 そういうと、飴玉となったエリクはザークに負けを認めた。


 お菓子となった者は翌朝元の姿に戻るという。しかし大会では敗北という扱いになる。



 そして、大会終了の鐘の音が町中に鳴り響き、大会は幕を下ろそうとする。



「しゅーりょーう!参加者は皆広場に集まるのだー!!」



 司会の声はあたりに響き渡り、完全に大会の終わりを感じさせた。



 集められた人々の手には、少ないがお菓子が握られていた。そんな中、ザークたちの持つお菓子の数は他の者と比べて見るからに多かった。



「では、集計に入るにゃー!」



 司会の隣にいた猫娘が一つずつ正確に集計をした。そして結果発表。



「今回、もっとも多くのお菓子を集めたにょは……?…総数なんと、2000個を超えたオザークさんだにゃ!」


「そして、次いで多くのお菓子を集めたにょは……?…総数303個のお菓子を集めたメイさん。さらに、第三位に輝いたのは……?…総数101個のお菓子を集めたセフィアさんだにゃ!でも残念だったにゃ。お菓子に変身しなければ優勝していたのはエリクさんだったにょに…」



 猫娘の発表で、今年の優勝者が確定した。そしてみんなからは盛大な拍手が送られる。



「優勝したザークには、記念のゴールデンチョコレートを贈呈する!」


「ありがとうございます!」


「これにてハロウィーン祝生大会を終了する!来年の大会もお楽しみください!」



 ハロウィンのビッグイベントも終わり、腕時計の時刻も0時を超えていた。



「セフィアさん、とても楽しかったですね」


「むむぅぅ…来年は負けないんだから!次も絶対参加しなさいよ!メイちゃん!


「あたりまえですよ!」



 このイベントのおかげで、メイは少しだけ明るさを取り戻せた気がする。ザークにとっても、みんなにとってもそれは嬉しいことだった。セフィアなんて、負けず嫌い精神からメイのことをライバルのようにもしている。そんな姿を見ているザークは、みんなの中が一層よくなったなとうれしく思っていた。


 そんななか、懐のお菓子袋から声が聞こえた。



「なぁザーク?そろそろだしてくんね?」



 それはエリクのものだったが、その声に誰も気づかない。

 そして、人々の祝いの宴は朝まで続いた。




 翌朝、目が覚めたナイトの隣には、お菓子だらけになって元の姿に戻ったエリクと、優勝賞品のチョコが溶けていたのを今でも覚えている。


 知らないキャラがたくさん出てきたと思います。二章でのキャラたちなので期待してもらえるとありがたいです。

 あと、キャラたちが集めたお菓子の数はキャラたちの誕生日を表しています!

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