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二人で一つの物語  作者: 雨白狐
第一章 縛りと影
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第一章2 『魔法の乱用にはご注意を。』


 この世界に降り立って初めての魔法。それを放つ権利を得たとナイトは心の中で歓喜する。いったいこの体にはどんな力が宿るのか。定番で言ったらやっぱり火か、それとも清らかに流れる水か。それらが手の平から放たれる瞬間を想像したらたまらなく興奮する。想像は想像を呼びいっそう膨れ上がる。


-----彼は自分の『妄想』に酔っていた。



「魔法って…どんな魔法だ!?」


『いいからとにかくおじさんに手を向けて、そこで力をこめる!!!』



 好奇心から、自分がどんな魔法を使えるのかが気になりつい聞いてしまった。が、今はそれどころではないと、ザークは冷静に魔法の放ち方をレクチャーした。



「だからさっきからゴチャゴチャうるせーんだよ!」



 店主の拳が、顔面に直撃しそうになる瞬間、



『ボゴん!』


「ぐっはっ!…な…、何…しやがった…、この…クソガキが…。あぐぅ…」



 石に叩きつけられるような打撃音と、店主の悲痛の叫びが弱々しく聞こえる。

 気が付くと、目の前にあったはずの拳が、店主の姿が、10メートルほど先の壁に埋もれているのが見えた。その直後、その体は地面に叩きつけられるように落下する。



「何が…起きた…?」



 今の現象は、ナイトにとっても理解ができなかった。彼が想像していた魔法と今起きた『それ』とではまったくの別物だったから。

 少し間をあけてナイトが口を開く。



「今のが…ザークの魔法なのか…」



 彼はようやく、今起きた現象が自らの魔法の力によるものだと認識した。




------------------------



 これは、後にザークから聞いた話なのだが、魔法には『火』、『水』、『風』、『土』、『雷』、『光』、『闇』の、7つの主要魔法と呼ばれるものがあるようだ。



 炎や熱をつかさどる『火属性魔法』。爆発を発生させることもできる。火属性の主な魔法は、火を発生させる『メテア系』、爆発を発生させる『プロ―ジョン系』などがある。


 水や潤いをつかさどる『水属性魔法』。氷魂を発生させることもできる。水属性の主な魔法は、水を発生させる『レイン系』、氷魂を発生させる『シーダ系』などがある。


 風や空気をつかさどる『風属性魔法』。竜巻を発生させることもできる。風属性の主な魔法は、風を発生させる『フィール系』、竜巻を発生させる『ストーマ系』などがある。


 土や質量をつかさどる『土属性魔法』。岩石を発生させることもできる。土属性の主な魔法は、土を発生させる魔法『イルド系』、岩石を発生させる『ロッキル系』などがある。


 電気や麻痺をつかさどる『雷属性魔法』。落雷を発生させることもできる。雷属性の主な魔法は、電気を発生させる『エレル系』、落雷を発生させる『ボロス系』などがある。


 光や癒しをつかさどる『光属性魔法』。他者の魔力をコントロールすることもできる。光属性の主な魔法は、光を発生させる『ブライ系』、癒しの魔法『ヒーリア系』などがある。


 闇や死をつかさどる『闇属性魔法』。病魔を発生させることもできる。闇属性の主な魔法は、闇を発生させる『デゼル系』、病魔を発生させる『クニラ系』などがある。


 また、光と闇は希少であるから、持ちあわせている者は少ない。



 そして、それらの魔力産物に作用する補助魔法が存在する。(Ex:火の玉を『浮かせる』など。)補助魔法は、魔法産物にしか作用しない。否、それ以外のモノに作用したソレはいまだに発見されていない…



 また、生き物にはもともと相魔属性(主要魔法との相性)があり、使える種類の魔法はそれぞれ異なる。この世界での魔法は、『個性』に等しい。だから、新種の魔法が発見されるのも珍しくないことである。

 また、相魔属性が優れている者では、生まれつき2つ以上備え持つ者もいる。




------------------------



「それで?さっき俺が放った魔法は何属性なんだ?見た感じだと火とかも飛んでなかったし。風圧か?風属性魔法なのか?」



 店主との争いを終え、腹がすいていたことをもうすっかり忘れている彼らは、薄暗い路地を抜けて人通りのあるところに出た。


 自分の使った魔法について、疑問に思う部分を聞く。彼の放った魔法は、先ほどのザークの説明には存在しないもののように思えたから。それをナイトは自分の中で、類似するものに置き換えて推測してみた。が、彼からはそれとはまったく違った答えが返ってきた。



『あれは…、本当はあまり使いたくなかったのですが…。補助魔法です…』



 その答えには、先ほどの彼の言葉との矛盾があった。



「補助魔法って魔法に対してじゃないと使えなかったんじゃねーの?それとも何か?あのおっさんが実は魔法で作られたどろにんぎょうだったとかか?」


『いえいえ、さっきのおじさんはれっきとした人間ですよ!魔力だって普通に流れてましたし。…ただ、僕の補助魔法は…、その…、魔力産物以外にも干渉することができるんですよ』



 思わぬ言葉に驚いた。彼の言うソレは、もはや専用技チートと呼ぶほかにない。そして、その言葉にはもう一つの重みがあることに気付く。



「ってことはつまりおまえ、めちゃくちゃ希少な人材ってことだよな。でもそんなんだったら国とか他人から命狙われたりしないのかよ」


『それなんですが…、僕のこの力を知ってる人はほとんどいません。実際人前でこの力を使ったのは、これが人生で二度目ですから』



 そういうと、彼は自慢げにナイトを見つめていた。そしてナイトは、彼の魔法を別の言葉に置き換えて話す。



「別にそれ自慢することじゃないだろ…。まぁでもそのおかげで今後の俺の活動に影響はなさそうだな。物体に干渉する魔法か…、ぶっちゃけこれ超能力じゃねーのか?」


『超能力なんかじゃありませんよ!れっきとした魔法です!』



 自分の力に自信があるのか、彼はやたらと反発してきた。が、そんな態度もつかの間、さっきとはうんと変わって弱々しく暴露する。



『ですが、主要魔法は一切使えませんが…』


「それじゃぁほとんど意味ね―じゃねーか!もはや魔法使いじゃねーな」



 ナイトはザークをバカにした。そんなナイトの言葉にザークはこう答えた。



『そうです…。僕は生まれつきの落ちこぼれ…。今となってもあの時と同じ、僕は生涯最弱なんですから…』



 そういうと、心の中でザークは俯いていた。彼のその反応に対して、ちょっと言いすぎたな、と思ったナイトは、



「…悪かったよ。そんなつもりで言ったんじゃないんだ。俺はただお前がそんなチートスキル持ってんのが羨ましくてさ、恵まれてんのに自分を謙遜してやがるお前の態度にちょっとイラついてさ。たかが主要魔法が使えないぐらいでいじけてんじゃねーよ。そんな風な考えだったらこの先の人生つまらねーことばっかりになっちまうぞ」



 今までとは比べものにならないほどの素直な言葉だった。そして、自分の放った言葉が自分自身に対してでもあることを心の内に感じていた。それは彼の心の叫びでもあったから。



『ありがとう…ございます。ナイトさんと出会ってから僕…慰められてばっかりですね…』


「お、おう!まかしとけ!」



 それは違うと密かに思っているナイト。ナイトは彼を慰めるとともに、自らの過ちを一つずつ補うことができているから。彼の存在は、どことなく自分に似ている。顔もそうだが、心の内のどこかが。だからこそ彼には自分のような道を歩んでほしくないと思う。それが、ナイトの優しさなのかもしれない。



 少しの時間が流れ、ナイトは自分に宿った魔法という力を手当たりしだいに試したい気分だ。そもそも魔法が使えるという状況は、夢に見ていたことだが元の世界では叶うはずのないことだったから。ナイトは、先ほど話していたザークの立場なんか気にせず、とにかく魔法を使った。



『ちょ、ナイトさん!何やってるんですか!や、やめてください!』


「いいじゃねーか!せっかくの魔法なんだし」



 まず初めに、そばに落ちていたガラス瓶を力で持ち上げ振り回した。つぎに、道行く人の足を力で引っ張って転ばせたり、100メートルほど離れたところに貼られていたポスターを引き寄せたり。まぁとにかく無駄なことをやれるだけやった。実験も兼ねて。



『そんなことしたら……!』



 彼の声はさっきまでのはっきりとした声とは違い、少しかすれているような気がした。彼との心の共鳴が切れかかっているのかと思ったが、それとはまったく違う理由なのをナイトは解っていない。そして、その時である。突如目の前がぼやけだし、頭がボーっとしてきた。



『あれ…目の前が急に…。それに…何だ?声も出ねぇ…』



 目の前の景色が、だんだんと暗くなりやがて真っ暗になる。体がそのまま横へと倒れる。そして彼は思うのであった。



『腹減った……』



 と。




------------------------



「俺は…死んだのか…」



 今朝の夢の中と同じ場所にナイトは立っていた。しかし、今度のナイトは夢ではなく死後の世界だと思っているようで。魔法の使い過ぎで過労死か、はたまた食べ物を食べなかったことによる餓死か。どちらにしろナイトは、『俺らしいバカげた最後だ』と思っている。


 心の中にはザークの気配すら感じられなかった。



「俺のせいであいつの体こんなんにしちゃって…。すまなかったな…」



 死後の世界だと思っているナイトは、ザークに謝罪の念を込める。目の前には、真っ暗な闇の世界が広がっていた。



「ユキは…今どうしているかな…。死んだってことはユキもここにいるのかな…」



 今朝の夢と同じように、ナイトはまた一歩ずつ前進していった。



 今朝と同じく歩いていると、目の前にはユキと呼ばれる少女が立っていた。



「やっぱりお前もいたのか…。久しぶりだな…」


『-----』



 少女は無言でたたずんでいる。



「やっぱり俺のこと…怒ってんだよな…。恨んでんだよな…。すまなかったな…」


『-----』



 何を話しても少女は無言だった。しかし、彼は話し続けた。



「お前がいなくなってから俺、何もしてこなかった。何もできなかったんだよ。毎日毎日悩んで、後悔して。学校にだって行ってないんだ。お前の分までしっかり生きなきゃいけないのにさ。俺ってさ…『僕』ってさ…本当に情けないよねユキ…。君を救いたかった。でも僕は君に救われた…。でも、僕死んじゃったよ。君が救ってくれた命なのにさ…。君は…僕のこと恨んでるよね?ユキ…。ずっと謝りたかったんだ。あと『ありがとう』も伝えたかった。3年間ずっと。今更じゃ…遅いよね…。でも言わせてくれ。言わないといけないと思うから。…『ありがとう』、それと『ごめんな』。助けてくれて…ありがとう。…守れなくて…死んじゃってごめん…」


『-----』



 ナイトは、涙を流しながら伝えたかったことを全て伝えた。途中から自分を『僕』と呼んで。その呼び方は、ザークのような呼び方であり、その時の話し方も、やはりザークのようだった。彼は、少女と話したとき、素の自分に戻っていた。要するに、彼の素はソレなのだ。3年前の彼は、ソレだったのだ。

 そんな時だった。少女が口を開いたのは。



『………生…きて…』


「----ッ!」



 その言葉は、聞き覚えのある言葉だった。そう、それはユキの最後の言葉だ。



『生きて!』



 言葉はさっきよりも明らかに強くなっていた。そして目の前の世界はだんだんと光を取り戻してゆく。




------------------------



「目が覚めたのね」



 気が付くとそこはベッドの上だった。見慣れない天井が目に飛び込んできた。だが、ナイトが気になったのはそこではなかった。『目が覚めたのね』の声は、とても懐かしいもののように思えた。そしてその声の主が気になったのか、重たい上半身を起こしあたりを見回す。

 ベッドの横には立派な椅子があり、そこには赤い髪の少女が腰を掛けていた。そしてナイトは…






 その少女に抱きついた。


 気づいてくださった方もいるかもしれませんがプロローグの内容に少し触れました!今後も最初の夢のネタを出すかもしれません。


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