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二人で一つの物語  作者: 雨白狐
第一章 縛りと影
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第一章1 『初めての異世界』


-----今俺は、追いかけられている……。



 今となっては、なぜ追いかけられているのかすら忘れるくらいに、ただひたすら走り続けていた。見慣れない街。そしてその街の路地は迷路のようになっている。白髪の少年は、ぎこちない走り方でその路地を進んでいった。



「待てやこのガキぃー!商品台無しにしやがって!!ただじゃおかねぇぞ!」



 商店街の果物屋の店主が怒りをあらわにしながら彼を追いかける。

 冗談じゃないと彼は心の中で思っていた。それもそのはずだ。今彼がこんな目にあっているのは、全てはあいつの犯したことが原因なのだから、とナイトは思うのである。




------------------------



『ちょ、ちょっと!ストップ!!ストップですよー!ナイトさん!』



 いきなり飛び出したはいいが、行く当てもなくただ街を眺めながら走っていた。そんな時に脳内に響く声はやはりザークのものだった。



「なんだよ。別に俺がどこへ行こうと勝手だろ?」


『道もわかんないくせに…。ちょっと待ってくださいね。僕が案内しますから』



 少しため息をつきながら、ザークはナイトに『やれやれ』と言わんばかりの表情を心の中で向けていた。その表情は、心の中でのものだがナイトにも見えているようで。ナイトはザークに対してまたも腹を立てているが、いちいち突っかかっていても面倒で仕方ない。であるから、彼はあえてそのことについて触れなかった。



 異世界に着いて、まず最初に思ったこと。それは、異世界で定番の中世ヨーロッパ風の街並みだ。そして、人間らしき者の他に、明らかに人外であろう者たちが存在した。完全に犬のような顔つきの者。猫のような顔つきの者。イヌミミやネコミミ。中には狐とよく似た者もいる。男らしき者たちのほとんどは腰につるぎを、女らしき者たちの中には底の深いカゴを片手に買い物をしている者もいる。



 こちらの世界に転移してしまうことを予期していなかったナイトの所持品は、財布(諭吉や秀雄は一枚も入っておらず、小銭がありすぎるせいで持ち歩くには少々重たい)と充電残量がたった20パーセント程度しかないスマホのみ。


 装飾品で言ったら、高価なものから、太陽光発電式腕時計ジーショックのやつ、着慣れた高校ジャージ、お気に入りのプーマのシューズ(案外足のサイズはピッタリ)。その他、ポケットに入れっぱなしだったコンビニのレシートくらいだ。


 ちなみに、腕時計は両親から中学校入学祝いに買ってもらったもので、日付まで表示されるなかなかの優れものだ。

 しかし、そんな日付などこちらの世界ではほとんど意味をなさない。


 ザークの姿を借りているナイトであるが、これらの持ち物は全て転移してしまったときに足元付近に散らかっていた、ナイトがもともと装備していたアイテムだ。転移することが分かっていたなら、もっと使える物を持ってきてたのに、とナイトはつくづく思うのであった。



 先ほど疑問に思った、人外について。ナイトはこれまでのファンタジー知識から、亜人族が数多く存在しているのではないか、と推測していた。そしてその推測を吐露する。



「あれは…どっからどう見ても亜人族だよな……。こっちの世界には亜人まで存在するのか」


『そちらの世界にはいないのですか?』



 ナイトがこぼした言葉に対し、ザークが質問をする。その質問に、当たり前のような口調で、



「いねーよ、てかいるほうが逆におかしいだろ」



 と返答する。ナイトにとっての異世界に対する憧れは、多種族設定であることにもあったため、正直今目の前に広がっているリアルが、空想でないことに喜びを感じ、とてつもないワクワク感を隠し切れずにいた。しかし、それをあからさまに表に出してしまうのは、年齢的にも、今までの態度的にも恥ずかしいことで、彼は湧き上がる気持ちを無理やり押さえつけるのであった。



「それでよ、ちょっと気になったんだが……」



 彼の、知ることに対する欲求は止まらない。ただでさえその対象が憧れていたものについてなら尚更に。



「亜人ってなん種族くらいいんの?」


「そうですねぇ…、だいたい10種族くらいいると思いますよ」



 正直想像通りの数だ。しかし、ザークはそれについて詳しく話そうとする素振りを見せていた。それは、ナイトにとって実に嬉しいことではあったのだが、さすがに長話を聞く気は微塵もなかったため、そのまま話を終わらせた。そんなこんなでザークに案内されながら、ナイトは街中をぶらぶらと歩いていた。


 

 異世界に来てしまったはいいが、元の世界に帰る手掛かりは見つかる気配すら感じられない。ナイトの今の正直な心情は、元の世界へ帰ることよりも、異世界というものをもっと追求したいと思うのであった。それは、ナイト自身の夢でもあったから。そんなことを考えていると、ふとザークの声が聞こえた。



『ナイトさん見てください!これが僕の通う魔法学校ですよ!』


「石造りぱねぇー」



 とっさに思ったことを口に出していた。異世界らしい建物、それはほとんどレンガ造りか石造りだ。今見ている建物もまさしくそれに分類されるもので。そして、それとともに『ちょっと待て、』と言葉をはさむナイト。



「お前今日学校は?学生なら行かねーとまずいんじゃねーのか?」



 それは、『お前が言うなよ!』と思わずツッコミたくなってしまうような質問だった。しかし、ナイトの引きこもり事情を知らないザークは、



『今日は休校日なんですよ。なんか学校を工事するとか何とかで…』



 と、まじめな返答をする。その返答の内容には、何か引っかかる節がナイトにはあったが、それが何なのか思い出せず、挙句には考えることをやめた。


 そんなことをしているうちに、日は頂上へと到達した。



「もう正午か、腹減ってきたなぁ…」



 日の位置と腕時計を確認しながら、ナイトは腹をさする。そういえば、急に飛び出してきたから食べ物一つ持っていない。しかし、その言葉にザークはこう反応する。



『ショウゴとは何ですか?』



 その質問に、ナイトはどう答えればよいのかわからない。否、時間という概念が存在していないのではないかと疑問に思う。そして、その疑問を、彼の質問に覆い被せた。



「あのー、ザークさん?『時間』はご存知ですかね?」



 わざと丁寧な口調で、少しバカにしながら質問する。しかし、馬鹿にされたことに気づかないザークは、それに答える。



『時間はあります。ですが、ショウゴという言葉はありません。こちらの時間は、刻録石で確かめるのですが、その言葉は今まで聞いたことがありませんので。』


「そうか、刻録石。なるほど…」



 おそらく、刻録石というものは、異世界での時計であるとナイトは推測する。そして、話は頭の中で、パズルのピースのごとく綺麗にあてはまる。だが、ザークの疑問はまだ解消されていないので、



「正午ってのは、日が一番上ってる…今みたいな時の呼び方だ。こっちの世界じゃあんまそういうのしっかりしてないみたいだけど」



 と、感想とともに述べる。


 そんな疑問たちを、互いに解消したところで今の現状は変わることはなく。腹の虫がいっそう大きな声で鳴いた。空腹感と、日差しの強さのせいでどうにかなってしまいそうだと弱気な感情を抱える。そして、その現状を『ところで、』と繋げ、



「なんか食いもん…いや、食いもんの売ってる場所に…。案内して…」



 と、弱気な姿を素直に表した。



『でも、ナイトさん?今1エメルも持っていませんよね?』



 実に的確な指摘だ。手元にはおそらくこちらの世界では使えないであろう『円』の小銭ばかり。要するにこの男、ナイトの今の状況は一文無しという言葉が最もふさわしい。彼の言う『エメル』というものがこちらの世界の通貨なのだろう。



「そのエメルってのはどこにある?まさかまた家に戻れっていうんじゃねーよな…」


『いえいえ、そんなことする必要はありません。この街の人たちはみんな親切ですから、きっと何か分けてくれますよ。そうだ、商店街のほうへ行ってみたらどうでしょう?』



 そう言うと、彼は商店街までの道を案内し始めた。




------------------------



---「親切だったんじゃねぇのかよ!」



 そして今に至る。え?果物屋に追いかけられている理由?それはまぁ道案内に気を取られてよそ見しながら走ってたから、その勢いで正面の露店に突っ込んだってところだ。それで怒った店主が顔を真っ赤にして追いかけてきている。



『ホントは親切なんですよ!なのにナイトさんがよそ見して商品台無しにしちゃうから!』


「ぁあ?お前の案内がへたくそだからだろ!?」



 正直のところ、これはナイトが悪い。そのことはナイト自身もわかっていたが、ザークに素直に『俺が悪い』と認めるのが嫌だった。だから強がって反発していた。

 影になって薄暗い路地を吹き抜ける風は、どことなく冷たく、あたりは他と比べ少々寒い。



「こらガキー!どこへ逃げようとも絶対に捕まえてやるからな!覚悟しろや!」



 黒髭のオヤジの声は、路地いっぱいに響き渡る。走ることだけでも精いっぱいだから、振り返ることなんてできるわけがない。そろそろ諦めてくれないかと思うところだが、足音からまだ追いかけてきていることが分かる。



「ったく、めんどくせーおやじだな!」



 正直な感想を、相手に聞こえるようにわざと大声で叫んだ。そして、路地の行き止まりにぶち当たるのはもう間もなくのことである。



「とうとう追い詰めたぞぉ……。このガキィ…。覚悟はできてんだろうなぁ…」



 店主は息を切らしながらナイトに迫ってくる。さすがのナイトもこれはまずいと思ったのか、体勢を立て直して戦闘態勢に。



「ホントはあんま暴力的なことはしたくなかったが…。ザークよぉ。このおっさんって経験値どんくらいかわかるか?」


『もぉ、なに言ってるんですかナイトさん!冗談言ってる場合じゃないんですよ!』


「おいガキや…。てめぇーさっきから何ぶつぶつ独り言言ってやがんだ?俺のことなめてやがんのかゴラァ!」



 ザークの声はナイトにしか聞こえていない。だから、周りから見たらナイトが独り言をぶつぶつ言っているようにしか見えない。それが今、店主の怒りに触ったようで。

 店主はナイトに飛びかかってきた。ナイトは戦闘態勢に入っているが、正直ザークの体では暴力での勝算は薄い。そんな心の焦りをザークは読み取ったようで、



『ナイトさん、ナイトさん!』


「うっせーな、今それどころじゃねーんだよ!」


『ナイトさん!聞いてください!魔法です!魔法を使ってください!!』



 ザークから提案されこと。それは魔法の使用だった。

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