第七話(前編) アリス
長すぎたので前編と後編に分けます。ごめんなさい。
こころコ 第七話(前編) アリス
(いつも、いつも俺様たちは夜に寝ると夢を見る。夢はいつも大きな屋敷の寝室から始まる。そこに俺様とアヴィスがいる。
『今日も外に行こうぜ!!』
いつも通りに俺様はアヴィスを外に誘う。
『おはなばたけがいいな♪』
アヴィスもいつも通りの満面の笑みだ。
『じゃ、さっさと行こうぜ!!』
いつも通りに俺様たちは花畑に向かった。
『みてみてー!またおはなのかんむりつくったのぉ!!ビスにあげるね♪』
今日は3日ぶりに冠を作ったらしい。
『ビス、にあってるよぉ♪そだ!つぎはうでわつくろぉ!!』
って言っても、アヴィスとそんなに顔変わんねぇんだけどな・・・。
『ありがとな、アヴィス。」
いつも通りの空、いつも通りの風景、いつも通りの遊び、全てがいつも通りで平和だ。けど少し今日は違った。
『・・・?』
アヴィスの腕輪を作る手が止まった。
『どうしたんだ?アヴィス??』
アヴィスが久しぶりにマジな顔つきしてる。こりゃ、ヤバイことが起きるかも・・・。
『あっち・・・。』
アヴィスが指差した方には木があった。その影から誰かがこっちを覗いてやがる。・・・・・ん?あいつ・・・・・あぁ・・・そいえば存在忘れてたな・・・・・名前は確か・・・・・・・・・・・・)
ジリリリリリリリーーーーー!!!!
「うわっ!!なんだ・・・目覚まし時計か・・・。まだ5時じゃないか・・・・。」
カチャッ
ビスはアラームを叩くように止めた。
「・・・・・。」
ビスはまた布団の中に潜り込んだ。
「ぬぉっ!!そうだよ!今日体育祭で俺が弁当作ってやるって契約者の野郎に言っちまったんだ!!うわぁ・・・言わなきゃよかった!」
ビスは後悔しながらも、ベッドから降りた。
「手洗い良し、エプロン良し、準備OK!!」
ビスは指差し確認した。
「んじゃあ、取り掛かるか。えと・・・確か・・・・炊飯器のタイマーセットしてもらったからもう炊けてるはずだ。まずは、おにぎりを作ろう。」
ビスは炊飯器の方へ向かった。
『アヴィスもおべんとうつくるぅ〜!』
心の中でアヴィスが叫んでいる。
「は?!身体ひとつしかないんだぞ!どーやって作んだよ!!」
しゃもじを振り回しながらビスが言った。
『でも作りたいぃ〜〜〜!』
アヴィスが駄々をこねている。
「しゃーない・・・・あんま使いたくないけど・・・。」
キョロキョロ
ビスはキッチンからリビングを見渡した。
「おっ!」
リビングの出窓にぬいぐるみが飾られていた。八志智の妹が飾ったのだろう。
「これにすっか!・・・・つかこれイヌか?それともクマか?耳は三角だけど顔はどう見てもクマだよな?」
たしかにしっぽの長さも中途半端で見分けがつかない。
「まあ、とにかく。」
ビスはぬいぐるみの頭におでこをそっとくっつけた。
「我が魂よ、この身を離れ、汝に宿れ・・・。」
ビスがそう言うとぬいぐるみに一瞬、光が灯った。
「・・・・・。成功したみたいだな・・・。」
わきわき
ぬいぐるみが手を動かしながら言った。
「ビス、そのかっこうにあうよぉ♪」
おでこをまだくっつけたままアヴィスが微笑んでいった。
「う、うるさい!!」
バッ
ビスはすかさずくっつけていた頭を離した。ぬいぐるみなのに頬っぺたが赤くなっている。
「さっさと弁当作んぞっ!」
ビスは必死に顔を隠しながら言った。
「おにぎりにどれ入れようかな?・・・・梅干とおかかと昆布、サケフレーク全部いっぺんに入れちゃえ!!1個で4つの具が味わえる!まさに一石四鳥だ!!!」
ビスはご飯を山ほど使って大きなおにぎりを作っている。ぬいぐるみで作業をしているのでゴム手袋をはめている。
「最後に海苔巻けば完成だ!」
全体に海苔を張っている。まるでボーリングの球みたいだ。
「さんぞくむすびつくったんだぁ!でもおべんとうばこにはいるかな?」
アヴィスが心配している。
「大丈夫!!蓋で潰せば入るだろ!!ところでアヴィスはどんなおにぎり作ったんだ?」
振り返ってアヴィスのお皿の方を見た。すると、黒い固体や白い四角いものなどがはみ出ていた。しかも妙な形をしていて口にするのが恐ろしそうだ。ビスはムンクの叫びのように口を開けて愕然としている。
「・・・・具、何入れた?」
恐る恐るビスはアヴィスに聞いた。
「えっとねぇ・・・かりんとういれてみたの!!こんぶみたいにくろいからあうかなぁっておもったの!あとねぇ・・・かくざとうもいれてみたの!・・・それからあんことか、あめとか・・・・とにかくいーーーーっぱいつくったの!!!」
ビスは、目を輝かせて言っているアヴィスに怒ろうと思っても怒れなかった。
「つ、次は唐揚げだ!!」
ビスは話題を切り替えた。
「でも、からあげってどうやってつくるの?・・・やくの?にるの?」
そう聞かれてビスは悩んでいる。
(たしか・・・唐揚げは鶏肉に粉つけて熱した・・・なんだっけ?・・・・液体だったのは確かだ。・・・・・黄色っぽい液体だったかな?・・・・・・・!!)
「みりんで茹でるんだ!!」
自身たっぷりにビスは叫んだ。しかし、明らかに間違っている。
「そっかぁ!みりんでゆでるんだぁ!!さすがビス、ものしりだねぇ♪」
アヴィスも納得している。誰も彼らを止める人はいない。
「んじゃあ、俺様が鶏肉切るから、アヴィスは粉を用意しとけよ!」
ぬいぐるみの自分と同じ大きさくらいの肉切り包丁を不安定に持ちながらビスは言った。
「こな こなぁ〜♪ こなはどっこかなぁ〜〜♪」
歌いながらアヴィスは片栗粉を探している。
「こっな こっな♪ こなが〜〜〜〜〜♪ あったぁ〜〜〜!!」
アヴィスが勢いよく両手を上にし、取り出した。袋には≪重曹≫と書かれている。片栗粉とは別物だ。
「ボールッ ボールッ ボールさん♪」
歌いながらボールに重曹を入れた。
「肉切れたけど、粉ちゃんと用意したか?」
ビスの方は大きさは不揃いだがなんとか切れたようだ。
「できたよぉー!!」
ボールをビスに持っていった。
「じゃあ、鶏肉にまぶすぞ!・・・そのまえに、みりんを鍋に入れて熱しとくか。」
ビスが鍋にみりんを大量に入れ、コンロに火を点けた。
「うし!それじゃあ、まぶして!茹でるぞ!!」
デロデロ〜〜ン
「うっ・・・・あ・・・・・・・。」
ビスの顔が一気にどんよりとした。
重曹が水分を含み、お肉は所々生のまま。見るに絶えない出来栄えである。しかも、みりんの臭いとお肉の生臭さが混ざっている。
「い、一応食ってみようぜ!俺様はぬいぐるみだから食えないから、アヴィス食え!!生じゃないところはひょっとしたらうまいかも・・・。」
アヴィスは言われるがままに箸で取り、恐る恐る口に近づけた。
パクッ
「・・・・・・・・。だいじょう・・!!」
アヴィスはそのまま気絶した。少しすると意識が戻り、ほふく前進で流し台に向かった。
「ガラガラガラガラ ガラガラガラガラ ガラガラガラガラ ガラガラガラガラ・・・」
何回もうがいをしている。
「やはり、ダメか・・・向かい家の犬なら食うかな?」
ビスが考える人のような格好をしている。
グルンッッッ!?
「もう見ていられませんわっ!!」
いきなりアヴィスが首を回し、黄色かった瞳が青に変わった。
「へ?!」
ビスには何が起こったのか分からなかった。
トントントントン シュンシュン
キッチンから包丁の音とお湯が沸く音がする。
タンタンタンタンッ
階段を眠たそうにパジャマ姿の八志智が降りていく。顔を洗いに洗面所に行こうとした。しかし、おいしそうな匂いに惹かれ、リビングに向かった。
「へぇ、料理できたんだ。」
リビングからキッチンを覗きながら八志智が言った。
「料理が得意ですわ。と言っても一番得意なのは遊ぶことですわ。」
そう言うと、料理をやめて八志智を抱き倒した。
「な、なにすんだよ!痛いだろ!」
八志智が怒っているのを無視して、八志智の顔や身体をまじまじと見ている。
「あら、今回の御主人様は可愛い子供ですわ。この様子では一度も遊んだことがなさそうですわ。」
未だに八志智の身体に乗っかかっている。そして八志智の耳元に口を持っていき、小さな声で言った。
「わたくしが大人にしてあげましょうか?・・・・ボソッ」
ブンッッッ!!!
「いたっ!!」
何かが勢いよく飛んできてアヴィスの身体に当たった。
「なにやってんだ!!このエロ河童!!!」
飛んできたのはぬいぐるみ姿のビスだった。手をタコ糸でグルグル巻きにされている。
「馬のぬいぐるみがしゃべってる!!!」
八志智が驚いた顔で言った。
(これ馬だったのかよーーーー!!たてがみもひづめもない馬なんかぜってぇいねぇだろ!!)
ビスも真実が明らかになって驚いている。
「エロ河童てどうゆう意味ですの?!」
アヴィスの顔がすごい剣幕でビスを睨んだ。
「そのまんまの意味だ!ボケェ!!てか、さっさと俺様の身体返せやっ!!」
ビスも負けじと睨み返した。
「な゛ん゛て゛す゛って゛ぇぇぇ!!小童のくせにぃぃぃぃ!!!」
二人の間に火花が飛び散っている。
「とりあえず・・・俺の身体から降りろ。」
八志智が呆れながら言った。
「お黙りですわ!!・・・・あら、御主人様が言ったんですの?それなら仕方がありませんわ・・・。」
やっと八志智の身体から降りてくれた。
「・・・アヴィスじゃないよな・・・・?」
立ち上がりながら八志智は聞いた。
「申し遅れましたわ。わたくし、アリス・フランシスと申しますわ。アリスとお呼びなさっても構いませんわ。そこらへんの小童とは違い、家事は大得意ですのよ!オーーーホホホッ!!」
腰と唇に手をやり、甲高い声で嫌味ったらしく笑った。
ムッカァ〜
ビスから湯気が出ている。
「んで、その馬のぬいぐるみにいるのがビスか・・・。」
馬のぬいぐるみを指差しながら八志智が言った。
「オウッ!!にしてもよく俺様だって分かったな!」
少し怒りがおさまったようだ。
「俺様ってつけてる時点で分かるよ・・・。」
平然と八志智が言った。
「で、マジで身体返せ!!」
クルッとアリスの方を向いてビスが言った。
「なんで返さないといけないんですの?わたくしだって対価払ってますわ。この身体を使用する権利がありますわ!」
アリスは不機嫌そうに言った。
「おまえだとアヴィスの身体が汚れんだろがっ!!」
ビスがすごい目つきでアリスを睨んでいる。
「あら?・・・そんなこと言ってもいいんですの??今この身体操ってるのはわたくしですのよ。だから、あーんなことやこーんなこともやろうと思えばやれますのよ!オーーーーホホホッ!」
アリスがビスを見下している。
「うぅっ・・・それじゃあ、学校に行くまでだかんな・・・行ったら返せよ・・・。」
ビスはしょうがなくアリスに身体を譲った。
「わたくしの勝ちですわ!オーホホホッ!!」
甲高い声が家中に響いた。
「では学校に向かって出発ですわ!!・・・・・って何故、この小童はぬいぐるみのままですの?」
八志智の鞄からはみ出している未だに馬のぬいぐるみ姿のビスを見ながらアリスが言った。
「この格好のままならおまえが変なことしたときにすぐに止めれるだろ。」
ビスがささやくように言った。
「変なことなんかしませんわ!!・・・・・だってこの・・・は・・・・ボソッ」
アリスが小さな声で何か呟いた。少し悲しそうな顔をしている。
「どうしたんだ?・・!・・・・如月、来たぞ。」
八志智が隣のアパートの方を見た。
「よっ!!」
宗助が挨拶をしてきた
「結構好みな子ですわ!・・・・・あら?残念・・・女持ちですわね・・・。」
アリスが宗助の周りをうろちょろしている。
「なんで、彼女いるって分かるんだ??」
八志智が不思議そうに聞いている。
「簡単ですわ!!鞄のキーホルダー!明らかに女の子にもらったのバレバレですわ!!しかも見えるところにつけてるのを考えるとその子にベタ惚れですわ!!」
自信満々に言い張った。
「もらったのは確かだけど彼女じゃねぇぞ。」
平然と宗助が言った。
「でしたら御姉様か妹かしら?・・・それならシスコンですわねぇ。わたくし、シスコンには興味ありませんわ。」
「誰もあんたの好み聞いてないから・・・つか、あんた誰?」
宗助がアリスに指差した。
バシンッ!?
「失敬ですわ!御主人様でもないあなたに、わたくしに指差す資格なんてありませんわっ!!オーホホホッ!!」
アリスは思いっきり宗助の指差した手を平手打ちした。
「えと・・・・。どうなってんのこれ??・・・・ボソッ」
アリスが甲高い笑いをしている間に、宗助は八志智とヒソヒソ話をした。
「なんかアリスとか言ってたが、正直俺もよく知らん!・・・・ボソッ」
八志智が言い切った。
「学校に連れてっても大丈夫なのかよっ。天然と馬鹿の方がまだマシだぜ・・・・ボソッ」
天然はアヴィスのことで馬鹿はビスのことらしい。
「誰が馬鹿だ、このアフォ!!」
八志智の鞄にいたビスが言い返した。
「わっ!なんだこの犬のぬいぐるみ!」
宗助がものすごく驚いている。
「ビス様だ!このアフォ!!」
ビスは怒鳴った。
「ビスかよ。脅かすなよな・・・つかそのアフォってなんだ?」
意外にも冷静だ。
「できそこない+アホだからアフォでいいんだよ!!」
ビスは宗助を殴ろうと必死に手を振り回しているが足っていない。
「いや、その理屈わけ分かんねぇよ。」
宗助は手を振り回しているビスを見て、余裕な笑みを浮かべている。
「オーホホホ・・・・は!笑っている場合じゃありませんわ!!御主人様、さっさと学校に行くのですわ!!」
アリスはまだ笑っていたらしい。
第七話(後編)に続く・・・