第十二話 きっかけ
こころコ 第十二話 きっかけ
「なんで、わらわがこのような格好を・・・。」
今日は、椿が黒豚のぬいぐるみのようだ。
「今日、アリスはどうしたんだ?」
八志智が訊いた。
「どっか出かけた。」
「なんかね、すっごいかなしそうなおかおしてたから、身体つかわせてあげてるの。」
ぬいぐるみ姿のビスとアヴィスが答えた。
「ふ〜ん・・・。」
八志智は軽く受け流した。
「・・・・・・・。」
電柱の上で翼をなびかせながら、アリスは膝を抱えて座っていた。
「どうしたんだ・・・?こんなとこで?」
声に気付き、見渡すと隣の電柱に宗助が立っていた。
「なんだ・・・・宗助かぁ。あなたこそどうしてこんなとこにいるんですの?」
アリスはがっかりしたように首を引っ込めた。
「フェニックス探そうと思ってレーダー通りに来たらまた外れて天使の波動をキャッチ、どんな天使かと思えば君だったってわけ・・・こんな説明で満足したか?」
宗助が皮肉を言った。
「・・・・・・・・。」
アリスの顔はまた下を向いた。
ブンッ
いきなり宗助がペットボトルを投げてきた。
「なっ!」
パシッ
アリスはそれを両手でキャッチした。
「さっき買った炭酸ジュース!酒の方がよかったか?」
宗助がふざけていった。
「・・・・・ありがと。・・・・ねぇ、前に言ってたわよね、天使は嫌いだって・・・。どうして?」
アリスが突然質問した。
「・・・・・それ話すと長くなるけどいいのか?」
「・・・・・・。」
アリスはただ宗助の顔を見つめていた。
「・・・・うちの家系は妖怪とか霊とかのアヤカシに詳しいんだ。天使とフェニックスもアヤカシの一種だと考えられてる。・・・・・それで蔵の中から天使の鍵を妹が見つけた。曽祖父がしまっておいたらしい。それを妹はお守りとして持ち歩くようになった。でも、天使に願い事をすることはなかった。
今から2,3年前のことだった。俺の乗ってた電車が脱線事故を起こした。俺は血だらけで身体は動かず、目を開けるのが精一杯だった。病院に運ばれたのは何時間も後で、そのときには意識が朦朧としてた。
何日かして目を覚ましたら、身体は何事もなかったように治っていた。手術を受けた跡もなかった・・・。医者に訊いたら奇跡と言われた。
でもその頃から妹の様子がおかしくなって、医者に診てもらった。そしたら、胃に小さな腫瘍があった。胃癌だった。早期発見できたからよかったけど再発を何度も繰り返してる。
妹は天使に願いをしたらしい。俺の怪我を治すために・・・。そして対価を支払った。“抵抗力”という対価を・・・。」
「つまり病気への“抵抗力”ですわね。」
「そう。もちろん、自分のせいだから自分を責めた。けど、そんなことしてても妹の病気は治らない。だからここにいて、フェニックスを探してる。フェニックスの血さえあれば“抵抗力”も回復するはずだ・・・。」
宗助の顔が影に隠れて見えない。
「あなた、偉いわね。ちゃんと妹のために努力してる。普通の子じゃ見守るくらいしかしないわよ。」
アリスの顔が少し明るくなった。
「・・・・今度は俺の質問。なんでそんな悲しそうな顔してるんだ?」
さっきまでの明るさがいきなり静まり返った。
「親友・・・親友がいたの。人間だった頃。けど・・・・最後の最後で裏切られちゃった。」
遠くを見ながらアリスが話し始めた。
「いつもわたくしの相談に乗ってくれて、いつもわたくしのそばにいてくれて、本当に良い親友だった。でも、人って急に変わっちゃう。良い方に変わる人もいるけど、彼女は違った。悪いほうに変わった。わたくしが知らないだけで始めから悪かったのかもしれないけど・・・。彼女から守りたい“モノ”があった。けど、わたくしはもう息を引き取っていた。だから、わたくしは早く人間に戻ってその“モノ”を守りたかった。っていっても“現在”じゃもう彼女も守りたい“モノ”も失くなってるけど。こんなことなら来世で人間になるの待ってたほうがよかったかなぁ〜・・・・なんてね。」
アリスは宗助にわざと笑ってみせた。
「偉いと思うよ。守りたい“モノ”のために来世になるの断っちゃったんだからさ。俺より数倍は偉いと思う。」
宗助が笑った。偽りのない笑顔だ。
「励まされちゃった・・・。わたくしの方が大人ですのに・・・あははっ。」
アリスが宗助の笑顔につられて笑った。
「励まし返しただけだよ。さて、帰りますか!!」
宗助はいつのまにか下ろしていた腰を上げた。
「わたくしも帰らないとみんな心配しますわね。」
アリスも立ち上がり、お尻についたゴミを掃った。
「・・・・・。」
「ん?どうかしたんですの?」
宗助がアリスを見ている。
「いや、賑やかそうな家で楽しそうだなって・・・。」
宗助がはにかんだ。
「・・・・・・!!いい考えがありますわ!!」
「ただいま帰りましたわーー!」
アリスが玄関で叫んだ。
「おかえ・・・・・・・なんで宗助がいるんだ?」
八志智がアリスの後ろを見ると、今にも逃げ出しそうな宗助をアリスの左手がガッシリと掴んでいるのは見えた。
「そのことなんだけど、一人のアパート暮らしってお金掛かるし、寂しいし、ってことで、二階にもう一部屋空いてたでしょ?そこに宗助住ませてあげるのどうかなぁ〜って思いましたの。もちろん、食費など必要な経費は払っていただきますわ!!この案に賛成は人〜?」
「はぁ〜い、さんせ〜い!!」
「アヴィスが賛成なら俺様も賛成!」
「いいんじゃなくて、わらわには関係ないしな。」
「ってことで賛成多数なので可決ですわ〜!!」
「ええ〜〜〜〜〜〜〜〜!!」
八志智と宗助が声を上げた。
「異議を唱えるものはビスの操る能力であ〜んなことやこ〜んなことをすることになりますわよ。で、異議がある人派?」
アリスが奇妙な笑みを浮かべている。
「い、いえ、ありません。」
八志智と宗助が声を合わせて言った。
「それじゃあ!さっさと荷物運びなさい!!わたくしは夕食の準備をしますわ!」
「ええ〜〜〜!」
みんなはぶつくさ言いながら宗助のアパートに向かった。
「あの子邪魔だな。」
「削除シタ方ガ効率的ネ。」
遠くの空で誰かが会話をしていた。
第十三に続く・・・