第十一話 二月といえば
こころコ 第十一話 二月といえば
バコッ!!
「あいたっ!」
兎のような垂れ耳のぬいぐるみの眼から、じわっと涙が零れた。どうやらこのぬいぐるみはアヴィスらしい。
「ちゃんと温度計見ないとチョコがまずくなるでしょ!」
丸めた雑誌を振り回しながら、黒豚のぬいぐるみが怒った。このぬいぐるみがアリスのようだ。
「だってぇ〜〜・・・・ヒックヒック」
アヴィスはとうとう泣き出してしまった。
「そこ、泣かない!あとそこ!!ちゃんとかき混ぜる!!身体使ってるのはあなたなんだから、その分、ちゃんと作りなさい!」
アリスは怒鳴り散らした。
「なんでわらわがこのような事を・・・・それにどうしてこの童まで?」
椿はちらっと横を見た。
「あたしだって来たくなかったわよ!!けど、アリスが無理やり・・・・。」
エリーザが大声で言う。
「なんてったって、今日はバレンタインですもの・・・・・にしても日本人って変わってるわよね。チョコレートあげるなんて・・・。」
アリスがチョコを刻みながら言った。
「お菓子会社の思惑だからだろう。」
椿が言った。
「んじゃあ、チョコじゃなくてもよくない?」
エリーザが言う。
「お饅頭がいいな〜♪」
アヴィスが泣き止んでいる。
「それは手作りするのが難しいと思うが・・・。」
「ええっ!!日本人って全員饅頭手作りするんじゃないの?!」
「そなた、馬鹿だろ。」
エリーザが衝撃を受けている。
「お餅あげるとかはどうかしら?あれならまだ作るのまだできそうですし。」
「正月か?!それに華がないだろ。」
「・・・・・。やっぱりバレンタインにチョコを考えた人は天才ですわね。」
「あたしは始めから頭いい人だと思ってたわよ。」
アリスとエリーザが妙なところで張り合っている。
「ビスーー!どうした?」
八志智が廊下で馬のぬいぐるみを見つけた。そのぬいぐるみがビスのようだ。
「今日は男はキッチンに入っちゃいけないんだとさ。でも、今、椿が身体使ってるから変なことしないようにこっそり見張ってる。」
ビスは廊下から、リビング越しにキッチンを見ている。
「椿って死神のことか?」
「そ、アヴィスが名付けた。さすがアヴィス!ネーミングセンスは俺様の次にいいゼ!」
ビスは首をコクコクと縦に振った。
「できましたわ〜〜〜!!大きいのが一つと小さいのが三つ、合わせて四つ・・・・・あら?・・・御主人様、ビス、宗助、勇・・・・あと一人いたような・・・・オタクっぽい子だったような・・・まあ、それだけ影の薄い子だからあげなくてもいいですわね!」
アリスは三夫のことを忘れていた。
「ハァー・・・やっと帰れる・・。」
エリーザは疲れきっている。
「おつかれさま〜。でもたのしかったね♪」
アヴィスはぬいぐるみをチョコだらけにして言った。
「どこが?!ぜんっぜん楽しくない!てゆかあんたチョコ付きすぎ!!ちゃんと洗わないと染みになるわよ!!!」
そう言うと、エリーザは翼を羽ばたかせ、窓から去っていった。
「大きいのは俺様のかな?それとも勇か?」
(たぶん西園寺の方だと思う・・・。)
ビスと八志智は大きいチョコが気になるようだ。
「それじゃ渡しに行きますわよー!!」
アリスがそう言ってぬいぐるみのまま玄関に向かいだした。もちろん、アヴィスと椿も一緒だ。
「やばい!こっち来る!」
ビスと八志智は慌てて階段に上り、二階に隠れた。
「宗助に渡してきましたわ。そしたら、「なんでぬいぐるみのまま?!」って突っ込まれましたわ。ところで、アヴィスはちゃんと勇に渡せた?」
アリスとアヴィスは家に帰ってきた。まだアリスはぬいぐるみのままだ。
「うん、わたせたよ〜♪ツバキが身体つかわせてくれたから、天使ってことばれてないよ〜♪」
「いや、それ元々わたくしたちの身体ですわよ。」
アリスが突っ込んだ。
「あと渡すは、御主人様とビスだけですわね。どこにいらっしゃるのかしら?」
アリスがキョロキョロと家の中を見渡した。
「2かいにいるのかも・・・。」
トコトコトコ・・・
アヴィスとアリスは階段を上っていった。
「スゥ・・・スゥ・・・スゥー・・・。」
二階を上がったすぐの廊下でビスと八志智は眠っていた。
「どうしてこんなところで寝てるのかしら?とりあえず、持ち運べそうにないから毛布か何か持ってきますわ。」
アリスは部屋に入っていった。
「チョコ・・・・・・・・ココおいとくね♪」
アヴィスはそっと二人のそばにチョコを置いた。
『ヤシチへ いつもありがとう!!』
大きなチョコにはそう書かれていた。
「次のターゲットはアレ?」
「ソウ、アレ。シバラク 監視 シヨウ。」
夕日に照らされた二つの細長い人影があった。
第十二話に続く・・・