第十話 死神
こころコ 第十話 死神
バアァァァァァ・・・・・・・ン
雪の中を銃声だけが響いた。そして、誰かの倒れる微かな音がした。
「・・・・ヤ・・・・・シチ・・・・・・?」
撃たれたのは八志智だった。左胸の下辺りから大量の血が散った。アヴィスには何が起きたか分からず、しゃがみこんだまま上を向いた。
ピ・・・・・チャンッ・・・
アヴィスの左眼に八志智の血が飛び散り、触れた。
「あら、アヴィスを狙ったつもりなのに、契約者に当たっちゃった。不運なやつ〜。」
銃を右手に持ち、たいぎそうにエリーザが雪の中から現れた。
くちゃ・・・・ぬちゃ・・・・
アヴィスの方から奇妙な音がする。
「クククッ・・・今日はさすがにこのわらわも出まいと思っていたが・・・・とんだ空気の読めぬ童がいたものだ・・・・ぺろっ」
右眼を左手で覆いながら、飛び散った血を舐め、エリーザの顔を見た。いつものアヴィスと違って不気味な笑みだ。
シャキンッ
右手に持っていた十字架の鍵が鎖鎌に変形していた。
「さっき銃声しなかったか?」
ビスが言った。
「そんな気もしますわね。」
アリスが答えた。
「そんな音、全然しなかったけど・・・?」
奈留には全く聞こえなかったようだ。
ボタッ ボタボタボタッ
「ハァッハァッ・・・・。」
エリーザの利き腕から大量の血が飛び散った。
「おや?もう銃が使えないようだな。口ほどにもない童だったな。」
「あんた、アヴィスじゃないでしょ。誰よ?」
「クククッ・・・わらわに名前を尋ねるなんて愚かな童だ。・・・・わらわには名前なんてものはないんだよ・・・・強いて言うなら、人間は死神と読んでいるな。」
死神は鎖鎌を改めて構えると、パーティー会場の方を見た。
「死にかけの童を殺しても、何の面白みもない。悲鳴を聞くのがわらわの楽しみだからねぇ。ちょうど今夜は宴をしているようだ。楽しめそうだ・・・・クククッ」
「さっき、銃弾の音したろ!」
宗助がビスに近寄ってきた。
「宗助も聞こえたのなら、間違いないわね。」
アリスは冷静だ。
ジャリン・・・・・・シャリ・・・ン
「・・・・何か音が聞こえる。・・・・やばい!!伏せろ!!!」
ガシャアアアァァァンッッッ!!!
「鎖鎌って本当に便利だ。遠くから攻撃できて、自分の手は汚れないなんて・・・・まさにわらわに相応しい武器だろう・・・。」
窓ガラスの割れる音が会場内に響き渡った。
「みんな、大丈夫か?・・・・・!!」
ビスが少ししてから目を覚ました。目の前には先ほどとは全く違う景色があった。壁は血で紅く染まり、床には人が何人も倒れ、身動き一つない。
「何が・・・起こったんだ?」
宗助とアリスは無事ならしい。奈留は意識を失っているようだ。
「なんだ、まだ息のできる者がいたのか・・・クククッ」
死神が振り返り、ビスたちの方を見た。
「アヴィス?」
「違うわ!左眼が紅いわ!!右眼は・・・・泣いてますわ・・・。」
アリスの言うとおり、左眼は紅く、右眼からは大粒の涙がこぼれていた。
「右眼はアヴィスのままなんだよ、きっと・・・。」
「自分の身体なのに止めたくても、止められない。やっぱりあの子の方が力が強かったようですわね・・・。」
「どうやら、貴様たちはこの身体の持ち主のようだ・・・・なら、消しておいたほうが、わらわの邪魔になるまい。」
「くそ、中庭まで逃げるぞ!!」
ビスたちは会場を出て行った。
「逃がしはしないさ・・・クククッ」
「御主人様!!エリーザまで・・・。」
中庭には、八志智とエリーザが横たわっていた。
「ビス・・・・か・・・・。」
エリーザはなんとか話せるようだ。
ジャリンッ!!!
「見つけた・・・・皆まとめて消し去ってやろう・・・。」
ガッ・・・・
「お待ちなさい。」
死神が鎌を振りかざそうとした瞬間、誰かの声がした。
「だれ?」
ビスは空を見上げた。
闇を照らし、炎のように赤い翼。 鋭いくちばし。宝石のように輝く瞳。
「フェニックスだ・・・。」
宗助が呟いた。
「死神、武器をおさめなさい。」
シュン・・・
死神は言われるままに鎖鎌を元の十字架の鍵にした。
「天使が人間に危害を加えるとは・・・・・罰を与えねば。それより、この事態を元に戻すのが優先すべきこと・・・。」
ガッ!!
フェニックスはくちばしで自ら脚を傷つけた。
きらきらきら・・・・
フェニックスの脚から光り輝く血が雪のように降り注いだ。
ざわざわざわ・・・・
会場からは、何もなかったかのように次々に人が起き上がった。割れた窓ガラスも血に染まった壁も元通りになっていた。
「これでいい。さて、そなたたちには罰を与える。エリーザ、そなたには、力の奪い合いを自らしてはならない。つまり、自分から攻撃してはいけない。」
「そんなんじゃ力が集められないじゃない。」
エリーザは反発した。
「契約を完了していけばいいだろう。さて、問題は死神の方だが・・・・・誰にも危害を加えてはならない。例え、それが天使でも人間でも。それに、その身体は本来アヴィス、ビス、アリスのものである。だから、その者たちの許可なく使用することを禁ずる。」
「わらわはそんな掟、聞かない・・・・と言ったら・・・?」
「私に逆らえばどうなることかなど死神なら分かると思うが・・・・?」
「チッ」
死神は舌打ちをした。
「フェニックス、契約者の出血が止まらないんだが。」
ビスが八志智を見て言った。
「この者に血を与えるのを忘れていた。今、与える・・・。」
何故かフェニックスは、八志智にだけ血を与えるのを忘れていた。
きらきら・・・
「これで意識も戻るはずだ。それでは・・・。」
フェニックスは背を向け、翼を広げた。
「待て!!血を分けてほしい!」
宗助はフェニックスを止めた。
「それはならぬ。」
「何故だ?」
「そなたが我が血を欲する理由はどうあれ、それは私の作った天使が犯したものではない。私は、天使が犯したものならば、それを償うために血を流す。それだけだ。」
バサッ!!!
フェニックスは大きな翼を羽ばたかせ、去っていった。
宗助はギュッっと手を握り、悔しそうにした
会場から聞こえてくる音と雪のしんしんと積もる音だけが辺りに響いていた。
第十一話に続く・・・
今回終わり方が微妙だったかもしれません・・・。
すいません。