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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
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作者: Smoke
掲載日:2014/07/24





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- とにかく一心不乱に殴った。-




ヴィランの手下のギャングたちがパーティーに来ていた市民を襲っていると通報され、真夜中の摩天楼に溶けていくようにヒーローは現場へ向かい、ここへとやってきた。


 米国のフィッツジェラルドが書いた有名な小説を思わせるような豪華絢爛の街 ザ・シティ。 富裕層と貧困層の格差は激しく、中心部の市街地を抜けるとそこは未開拓で、故意に“ ここから先は町ではない ”と言わんばかりの差である。街灯すらなければ舗装整備されたのは西部開拓時代以来かのごとく土がむき出しの、ガンマンが決闘するには最高のロケーションだが、こちらの住民はそうは思っていないらしい。


 


 ヴィランの手下がやっとの思いでヒーローの痛烈でブれることなくストレートに繰り出される拳たちからどうにか逃れ、その場を去った。ヒーローは自慢の胸板をこれ見よがしにかざし、手下たちが完全に見えなくなり、一瞬 間が空くとすかさず拍手が沸き起こった。野次馬として見物していた者も怖くて隠れていた者も、はたまたパーティー会場でブーブ・クリコに酔い潰れていた者も、皆がヒーローの正義に大喝采を贈った。 そしてヒーローは口角を少し吊り上げ、瞼はゆったりと閉じ喉仏を潰して黙祷し、耳でその心地良い 大雨の日に車の天井に当たる雨音のような無数の掌が織りなすクラップ音に浸り、頃合いをみてヒザを曲げ大腿四頭筋をこわばらせ、解放された力みと同時に空の中へとまた溶けて行った。




- ヒーロー -




基地に着いた。 ヒーローはタイトなスーツをするりと脱ぎ、楽な服装に着替えた。


ふと止まり、一度着た服をまた脱いだ。大きなため息をついて疲れた顔と一緒にシャワールームに入った。蛇口をひねって少しすると無数の穴からシャワーホースを通り大量の水が分散されてノズルから溢れてきて、彼はあまりの冷たさに反射的にノズルを反対に向けた。少し待つとガスで温められたお湯が滲んできて、肌にちょうど良い温度から少し熱めにして頭からお湯を被った。


 お湯を被りながらその日一日、彼の場合は先ほどの一戦について頭の中で整理させた。


豪華なパーティーの途中にヴィランの手下がやってきてパーティーをジャックした。大半の者は高級シャンパンに酔い、顔や体は血色良く赤らんでいた。品の良い金管、木管、鉄管楽器を使って、巷で流行っているポップミュージックに体を躍らせ、社交的にも性欲的にも近くの者と同じ時間を過ごしていた。あるものは女性の火照った体から放たれる汗や気化した水分と混ざった香水の官能的な香りに勝負を挑み、またとあるものは屈強な男性の胸板と太い首にすでに白旗が上がっていたことを、妖艶に隠していた。 二人が同じ酸素を吸い、吐いた二酸化炭素は互いに触れ合う距離まできたところでマシンガンの連続した銃声音によりパーティーは中止しジャックされた。




一通り思い返して頭髪を泡立たせブルーブラックのコシのあるカールした髪を洗った。 


髪を洗っている途中に誤って額にできていた先ほどの一戦で負った傷に気づかず泡をつけてしまい、じんわりと染みた。 だが決して声を出さない。言ったところで聞く者も居なければ、彼が負傷したところで誰も助けることはできない。 彼はヒーロー。英雄なのだから。 善に勤しみ市民を守り悪から守る。これがヒーローの使命だ。と彼は思っている。


 


- ヴィラン -




アジトで薄暗いライトの下でヴィランはグラスに入ったロックとスコッチを遊ばせながら唇を潤すようにちびちび飲んだ。 やがて手下たちが息を荒げながらアジトへ戻ってきた。 


“またあいつに邪魔されました! すいません! ” すぐには反応せず、少し蹴った勢いでゆっくりと体を手下たちの方へ向け、彼らめがけてまだロックもスコッチも入ったグラスを投げた。あいにく、破片も彼らの足元にしか当たらず怪我に至る者は居なく周囲にスモーキーフレーバーのウイスキーの香りが広がった。


 “戦利品は何かないのか?” 


“はい、この夫人から奪ったダイヤとサファイアのリングと、議員の腕にあった深海まで潜れる、こちらもダイヤが散りばめてある時計です”


“私は、会場に置いてあったペルシャ製の陶器と幾枚の絵画を”


“私は、ウェールズ出身の男性の胸元にあったポンド紙幣の束を”


“私は、彼らが飲んでいたブーブクリコのボトルと極東のアオモリで作られる酒を”


 それぞれが戦利品をヴィランに差し出した。 ヴィランはそれを一つ一つ吟味し、特にアオモリの酒の香りを楽しんだ。 その戦利品を彼らに分配し、ダイヤや時計は質に行き換金するように言い渡した。そのままだんだん酒に酔い、皆で小さな宴が続いた。








- スナイプ&バンクジャック -




 無数にそびえ立つ日中の摩天楼の一角。ヴィランは狙いを定める。手下は銀行の向かいと通りの裏側に黒塗りのゲレンデを配備させ、計画通りの指示を仰ぐ。 


 本日火曜日は銀行にシティの中でもトップクラスの富豪がどうやって集めたか考えがたい外貨を納めに来る。ヴィランはその瞬間にライフルで富豪の息の根を止めようと企む。


  一台の、新車にしてもまばゆいくらい白い光を放つ、薄い緑にも黄色にも(おそらく太陽光のせいだろう)見える真珠色のリムジンが銀行の前に止まった。すぐさま周りに車が幾台か止まり、屈強な男どもがリムジンの後部座席の扉を開いた。 中から足を伸ばして、低い位置で一度中腰になりスッと立った。顔は憎たらしい。


 ヴィランはピントをフォーカスを彼の左胸に当て、ライフルの引き金を引いた。が、あろう事か富豪はくしゃみをした。引き金はすでに引いてある。 


“くっそ” 


銃弾は彼の左肩に命中。富豪はその場で狼狽えた。 


またヴィランは失敗した。頭はよく切れ、他の計画は一切抜かりなく文字通り完璧なのに、銃、刃物、毒物を用いても彼は殺人においては失敗しかない。


気を取り直し、無線で手下に指示を下す。


“かかれ”


一斉にゲレンデの中からヴィランの一味が飛び出し、富豪の乗るリムジンを襲った。


富豪を取り巻く屈強な男どもはすかさず状況を理解し、各々が銃を手にし、そして発砲した。  幸い、手下たちはマーシャルアーツを習得しラーズ・アル・グールのようなアサシンたちだ。 屈強な男たちは怯み、手下たちはリムジンの隅々から大量の外貨紙幣と金品、ダッシュボードの裏にある恐らく億単位はあるコカインの塊を奪いアジトへと急いだ。




 アジトではヴィランが肩を落として座っていた。 


“みんなすまない。おれ本当センスが無いというか・・・”


手下たちは笑って顔を見合わせた。 


“端(はな)っからまたやるなってのはわかってましたよ(笑) まあまたいつも通り計画成功しました。早く確認しましょう!”


 内心ヴィランはムッとしたものの、面目無く思い言われるがまま今回の戦利品を広げた。


外貨の種類はポンドにユーロ、米ドルに円と総額は良くて一千万といったとこか。少し先ほどの抑揚からは冷めたが彼をまた上の方へとブチ上げるものがその下にあった。ダッシュボードの裏にあったコカイン塊だ。 あまりの量に、さすがに息を呑んだ。 とりあえずこの塊を半分ほど崩し、パケに分けていく作業を別の手下達にやらせた。手下は決してそれらに自ら手をつけようとは思わなかった。朽ち果てたお客様達(のちにカスタマーと彼らを称する)を彼らは見ているからだ。






- 失態 -




ヒーローが辿り着いた時には既にヴィランの手下達は去った後で、屈強な男たちは狼狽え、どうにか自らで止血している富豪はやっと登場したヒーローに痛烈な罵声を浴びせた。


“遅ぇんだよテメェ! どうしてくれるんだ俺様の金は! ボディーガード達も使い物にならないじゃねぇか! こいつらがダメになってる間、テメェが俺様の護衛を専属でしろ! まずは病院え連れてけ。誰よりも早くオペさせろよ。わかったな?”


 ヒーローは返す言葉が無かった。富豪が裏で香港やブラジルの暗黒街で闇稼業に手を染めていることは既に情報収集してある。だが彼も市民の一人である。躊躇っているとまた富豪から罵声が飛んだ。


“s** ** * b****! 早くしろ!”


彼は皆をシティ中心部に位置する病院へと連れてった。




“他にも患者さんは腐るほどいます。順番をお待ちください。”


受付で今すぐオペをさせてくれと無理難題をすぐに一蹴された。隣からは受付にではなくヒーローに罵声を浴びせ続ける富豪がいるが、もうさすがにヒーローもいちいち対応出来なかった。というより全て聞き入れ、反論しなかった。市民と揉めてはヒーローではない。


ヒーローはもう一度受付の方に頼み込んだが、もちろん通る事はなく富豪はもう顔を真っ赤にしている。 ヒーローは疲れ果てて受付に富豪の治療を頼み、深いため息と一緒にその場を後にした。








- done -




ヒーローは基地に戻りソファに腰かけ落胆した。 正義とは何か考えた。


法?警察? 今までの行いで何かお礼を頂いた事もなければ、市民はヒーローの行いを当たり前だと思っている。  市民を守るのがヒーローの役目だ。ではさきほどの富豪を助けるのは正義なのか? 彼も市民である。 ヒーローの道理は“大いなる力には大いなる責任が伴う”である。


ヒーローである責任から市民を助けなければならない。でも、彼は悪行を働くが先ほどのあの場では被害者だ。 市民からの無理難題には果たして答えなければならないのか? でも市民の要求にも答えなければならない。市民を守らなければならない。ヒーローだから。


  ソファから見えるところに自分を切った家族写真がある。ヒーローは情に流されてはならないと思ったからだ。  彼の理念は終了した。






- ヒーローvsヴィラン -




後日、気を取り直してカスタマーが多く蔓延る地区に出向き本日最高の品をお届けにきた。 げっそりとした、とても生き物だとは思いたくない様で薬物中毒者がこちらに皆が集うなか、奇妙な光景を目にした。


台湾を思わせる、生活感のない雑居アパートの一角の窓際に映るのはヒーローではないか。


Why? 何故?どういうことだ?


ヴィランはその日のレート(直相場)もそっちのけで速やかにお届けものを分配すると、思いきりブーツのソールに力を込め、膝を筋肉が最も力を入るところまでジョイントを入れ、大臀筋に脳からMAXの指示を出させ


限りなく強張らせたケツとアキレス腱を筆頭に、上半身も使いながら目指すアパートの一角へ突っ込んだ。


そこには紛れもなくヒーローがいた。あろうことか、ヴィランのカスタマーの1人でもあるビッチと情事に至っている。辺りには、タバコのように巻かれた渋い色の乾燥された麻の巻かれたもの、ビニールのパケと称される小袋にいくらか錠剤が入ったり溢れたりしている。


女の目に正気と言えるほどの目力は感じられない。瞳孔は開きに開いて、巷で流行っているOFWGKTAの有名なPV出てきそうなほど。不気味で、想像できる限りエイリアンのようだ。


ヒーローはヴィランが勢い良く窓ガラスを突き破ったにも関わらず、


気づいていないのか、もしくはそれほど一心不乱なのか、動じずに腰をピストンさせている。


ヴィランはさすがにキツネに抓まれた。 状況を飲めない。


何故?ヒーロー?カスタマー?


“おい”


返事はない


詰め寄り、聞きたくもない女の子宮の入り口に何かが当たっている快感が声に漏れとても不愉快かつ気まずいが、ヒーローの漲る肩をこちらに寄せ、当事者同士の生死をかけてるかの闘いを一旦休戦させた。




ヒーローはもはや、正義の風上にも置けないツラ構えとその裏腹に矛先を失ったヒーローの一物は上を向いていた。








- 記者会見 -






あの日以来、ヒーローはもう姿を世に表わすことはなかった。おそらく最後の目撃者はヴィランと記憶が定かであるなら情事の相手もその一人であろう。 そのことにより、ヴィランはシティで代わりのヒーロー的存在になった。 闇社会を牛耳り、政治家も権力者も彼ヴィランには逆らえない。 全ての権力者として市民から崇められシティの新たなヒーローとなった。


 メディアはヴィランの闇稼業を公にすることはなかった。ヴィランには逆らうことは身の保全の為にも今は賢明な判断とは言えないからだ。


 その為にも少しでも彼を立てようと記者会見を開いた。そこへヴィランも出席する為、シティで一番大きな公会堂へあまり街へ出ることを嫌うヴィランだが黒塗りの、コウモリ男が乗りそうなイタリアのドゥカティ社製のカラーリングはマッドブラックのバイクで記者会見場へ向かった。


 


会場では無数の取材陣が待機していた。中には市民も多く居る。


目が眩むほどのカメラのフラッシュの中を係りの者が先導してくれた。


 席につき、早速取材陣から質問の嵐が始まった。首の長い記者がこう言った。


 “この度ヒーローが姿を消して以来、が新たなシティのヒーローです。シティに蔓延る悪を征し、あなたは私たちの生活をより良いものへとしてくれるでしょう。 ”


 ヴィランは心の中で、一体彼らにとってのより良い生活とは何かと懸念を抱いた。他の毛むくじゃらの記者からは質問が飛んだ。


 “シティ郊外では薄暗く気味が悪いです。どうにかなりませんか?”


 ヴィランは口には出さず は? と嘆いた。 マントを着た牙の生えた色白の男はこうヴィランに質問を飛ばした。


 “毎週末、私の館でパーティーを開催しているのだが、よく来る強盗は今後はあなたが変わって征伐してくれるであろう心配は抱かないが、費用の件であなたからもいくらかご融資願えないだろうか?”


 ここまでヴィランは沈黙を貫いている。というより呆気にとられている。緑色の肌をした小人から瞬く間に言葉が飛んできた。


“さっきの館から大音量で音が漏れてうるさくて寝れやしない! あんなパーティーあんたからやめさせてくれ。出来るだろ? ”


“この間道を歩いてたらひったくりにあったわ! その時なんで来てくれなかったのよ! 取られたお金やら全部あなたが立て替えてよ!”


 もう市民や取材陣は言いたい放題ヴィランに言っだ。


 ヴィランがマイクを取り、自らの沈黙を破った。


 “あんたらにとっての正義って一体なんだ? ヒーローってのはどんな存在なんだ?”


 髪の毛が蛇の女性市民はこう言った。


“決まってるでしょ? 私たち市民により良い生活を送らせることでしょ。そんなことも分からないのあんた。”


 


 ヴィランはヒーローの心の闇を今まさに目の当たりにした。ヒーローはこんな奴らのために必死に精を尽くし、命をかけていたのかと思うと同情した。 そしてこのモンスターのような要求に応えて、市民は感謝どころか当たり前に捉え、市民は己の利己的な考えをぶつけて鬱憤を晴らした。 そして遂にヒーローはこれを全て一人で抱え切れず朽ち果てた。 


 ヴィランは遺憾に思い我を失った。ありとあらゆる手持ちの武器という武器をすべて使い、ある者は銃で撃ち抜かれ、ある者は刃物で切られて血を流し、その場にいたほとんどがヴィランに殺害された。 


 ヴィランは初めて人を殺した。


 そのままその場を後にし、乗ってきたマッドブラックにカラーリングされたバイクに跨り、ヒマラヤへとバイクを走らせた。 ヴィランの目から涙がこぼれていた。








ヒマラヤ山脈にあるケシ畑を両脇にヴィランの乗ったバイクはひたすら進んだ。その先には洞窟があり、阿片窟となっている。洞窟の前でバイクを停めエンジンを切った。


 少し足を運び小さな十字架のある小盛りな山で膝まづいて、ケシで精製されたタバコに火を付け一口吸い、ヒーローの眠る墓の前に据えた。 ヒーローの勲章でもあるコスチュームはもうボロボロになっている。


ヴィランは黙祷を捧げ、その後バイクでその場を後にしシティに戻った。  ヒーローのコスチュームには立派なエンブレムはどこか輝いていた。








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