1-8 vs鮮血
連続投稿です。
“ダンジョンに侵入者を確認しました。ただちに戦闘態勢に移ってください”
ダンジョン内に警告音が鳴り響き、DCMが震え出す。
「開放早々敵と遭遇とは.......このダンジョンの性能を試すにはもってこいだが、運がいいのか悪いのか......」
どうやら敵が侵入してきたらしい。この警報機能は便利だな......これで寝ていてもすぐさま対処することができる、か。
「さてさて、俺のモンスター達の実力はどの程度のものであるのか......楽しみだ。」
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「はははっ♪やっぱり簡単に攻略できそうだね!」
「油断は禁物だといっただろ?エリー。いくら粘体とはいえ、中には強者もいるかもしれないんだから......」
「隊長は心配性だなぁ......所詮はスライムでしょ?こんな雑魚に私達がやられるわけないじゃん!」
「そうだにゃ。私達はAランク。Eランクのスライムにやられるわけないにゃ。」
「まぁそうだが......ん?あそこに紅いスライムがいるぞ!気をつけろ!」
「はいは〜い。まぁ私がちゃちゃっと倒してこようかな♪」
「あっおい!......まぁエリーの実力なら大丈夫か。無理はするなよ!」
「わかってるって!私にまっかせときなさいっ♪」
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「さぁて、鮮血の実力や如何に......」
俺は今、DCMからスライム部屋の様子を見ている。本当に多彩な機械なものだ。
女が鮮血に斬りかかる。鮮血は跳んで避ける......動きをみせたが、相手の動きの方が速く、斬り捨てられてしまった。
「なーんだ。強そうなのは見た目だけか。あーあ服が汚れちゃったな......」
......をい鮮血ぅ!なに簡単に斬り捨てられているのだ......!
あいつには期待していたというのに......情けない。
しょうがない、次の部屋の様子でもみてみ「きゃぁっ!」......ん?
女から悲鳴が上がる。なにが起こったのであろうか?
画面を覗いてみると、女になにか赤黒い膜が張り付いていた。
逃れようともがく女。張り付き離れない様子の膜。どうやら、あの膜の正体は鮮血のようだ。
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鮮血を倒したと思ったエリーは、鮮血に背を向けて仲間の元へと戻って行った。
「あのスライムは変異種かと思ったけど、どうやら違ったようね......魔核も出てこなかったし、随分と弱かったようだし......まぁ、これで次の部屋へ進めるわね♪」
仲間に自慢気に話しかけるエリー。だが、背を向けていた故に鮮血の体が蠢き集まり元の形へと戻って行くのに気づくことはできなかった。
「エリー!後ろだ!!!」
「え?......きゃぁっ!」
ドレッドが叫ぶがエリーは既に倒したと思っていたスライム(ブラッド)が襲いかかってくるとは思っておらず、鮮血に張り付かれてしまった。
これが普通のスライムであったのならばまだ対処のしようはあったであろう。
だが、“不運”なことに鮮血は変異種の唯一種。唯一種とあれば、最低でも一つの技能を持っている。そして鮮血の能力は......
「え?なに?なにがおこっているの......あ"ぁ......力が......ぬげでいぐ......」
そう言い遺し、エリーは地に伏した。
吸血。“通常”の吸血であれば、ここまで速く血が吸われることもないし、多少ふらつくとはいえど倒れるまでは行かない。だが、“不運”なことにエリーの体には既に鮮血の体液が付着していて、さらに鮮血の吸血は唯一種らしい“特別”な吸血であった。
魔力。戦士の高レベル者は、自身の体に身体強化をかけることができる。エリーもAランクなので、ダンジョンに潜る時には常時身体強化をかけていた。
だが、今回はそれがあだとなった。即座に身体強化を解けばまだ助かったかもしれないが、“不運”なことに魔力を吸い取るような敵とは対峙したことはなかったのだ。
エリーの体に付着した己の体液を媒介として血魔法を発動。この時、エリーの体に傷が着いていなければもっと吸血の行われるスピードは遅かったかもしれない。彼女の“不運”は続く。この日彼女達が自身よりも格上のSランクの魔物を討伐しに行った折に、エリーは腕を負傷していた。
腕の傷口から血魔法で侵入した鮮血は、エリーの体内から血と魔力を奪い取る。
何が起こっているのかわからないエリーは、なすすべもなく斃れてしまったのであった。
勿論、エリーに異変が生じた時からドレッドは魔法で鮮血を排除しようとしていた。そして、雷魔法によって黒焦げにした......かのように見えたが、粘体という種族は弱い代わりに細胞の全てを焼き尽くさなければ死なない生命力の高い種である。
そして、その変異種である鮮血も例外ではない。
地上に出ていた分の細胞はかのにより焼かれたが、これまた“不運”なことにエリーの体内に残っていた鮮血は完全に焼かれることはなかった。
「エリー!エリィィィィィ!」
部屋に隊長の慟哭が木霊する。
「......エリーの敵は討った。彼女の犠牲を無駄にはしない。先へ、進もうか......」
残された3人は、重い足取りで部屋から続く扉へと向かう。
その背後では、エリーの体内から出てきた鮮血がまるで勝利を祝うかのように跳びはねていたのであった......
やはり戦闘描写は難しいですね......