1-9 vs将軍
ちくしょう、エリーのやつ、あれほど油断するなと言ったのに......
俺たちのパーティは、前衛職である戦士が死んでしまったことにより、今、苦境に立たされていた。
隊長のクラスは魔法戦士、サーシャのクラスは盗賊、
そして、俺のクラスは魔導師だ。本来ならば、ここに戦士であるエリーが加わり前衛2人中盤1人後衛1人とバランスの良い配置につけたが、エリーが抜けてしまい前衛1人、中盤1人、後衛1人となり、前衛の負担を増やすこととなっている。これが元でなにか起こらなければいいが......
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将軍が待つ部屋に、騎士(隊長)と黒ローブ(ドレッド)と猫娘が入ってきた。今回の相手は、将軍にはちと荷が重いのではないのだろうか?......なぁ死んだら死んだでその時だ。お手並み拝見と行きますか。
「隊長!ドレッド!二人は周りの雑魚を蹴散らして!あのでかいのは私が倒すにゃ!」
そういい、サーシャが二振りの短剣を抜く。
「わかった!倒したらすぐに行く!」
そう言い残し、駆けていく二人。その場に残るのが、将軍とサーシャだけとなった。
「エリーの犠牲を無駄にしないためにも、お前にはここで斃れてもらうにゃ!」
そんな言葉に、無反応で剣を構える将軍。
先に動いたのは、サーシャの方だった。
将軍に駆け寄り、右上から左下にかけて袈裟懸けに斬りかかる。剣で受け止め、受け流し、真上から斬り落とす将軍。だが相手は盗賊とはいえどAランクの冒険者。素早い身のこなしで跳びすさり、なにやら呟き始める。
「其は紅。我が敵を焼き尽くす地獄の業火となれ......【獅子炎舞】!」
どうやら詠唱をしていたらしい。台詞から察するに、炎属性の魔法のようだ。
双剣が炎に包まれ、将軍を襲う。腕、肩、腹、脚。地獄の業火により次々と焼けて行く将軍の体。そして、ついにはその巨躯が倒れる。
「念には念を入れるにゃ......」
そういいつつ一度後退するサーシャ。そして唱え出す。
「其は翠。戦場を駆け抜ける一陣の風となれ......【疾風乱舞】!」
先ほどよりも疾い動作で駆け寄り、敵の首に短剣を振り下ろす。
勝った。そうサーシャは勝利を確信した。だが、次の瞬間あり得ないことが起こる。
地に倒れている将軍の体を緑の光が包んだかと思うと、ありえない速度で起き上がり短剣に剣で迎え討つ将軍。体格と地力があいまって、吹き飛ぶ短剣。
驚愕のあまり目を見開き固まってしまう猫娘。それは、 (まだ召喚されて一日目だが) 小鬼のなかで鍛えて鍛えて鍛ぬかれた将軍を相手にするには致命的な隙となった。
将軍の剣に黒い光が灯る。猫娘の隙だらけの体に、まるで踊りを舞うかのように軽い身のこなしで多方から斬りかかる。咄嗟に短剣で防御するが、4度目の剣撃を受けた後には儚くも折れてしまった。
「サーシャ!!!」
遠くの方から隊長がサーシャを呼ぶ声が聞こえる......だが、目の前には無慈悲にも迫り来る刃。最期にこいつだけでも倒さなければ......魔力を練り、解き放とうとした瞬間、サーシャの腹を漆黒の剣が貫いた。
「ガ......ハァッ......」
サーシャは息絶えた。その身に魔力を宿したままで......
「サーシャァァァァァ!」
そう吼え、将軍に跳びかかろうとする隊長。だが、それをドレッドが抑える。
「なぜぇ!なぜ止めるのだドレッドォ!」
「冷静になれ、たとえ怒り、あいつを殺したところでサーシャは還ってこない。今、あいつの意識はサーシャに向いている。俺等はこの隙に先の部屋に進むべきだ。」
「悔しくないのか!?悲しくはないのか!?それでも仲間か!」
「勿論俺だってあいつを殺したい気持ちはある。だが、勝てるかもわからない相手に挑み、命を散らせるのとあいつらの想いを継ぎ、このダンジョンを攻略するのとでは、どっちがあいつらも喜ぶと思う?」
......たしかに言われてみればそうだ。あのサーシャが負けるほどの相手だ。俺の方がサーシャよりかは強い。ドレッドもいれば倒すのは難しくはないだろう。だが、俺もドレッドも雑魚掃討で魔力、体力を消耗したし、それ以前に今回は依頼の帰りだ。負ける可能性だってある。今回は諦めて、先に進むしかないのか.....
「すまない......サーシャ......」
そういい、俺達は将軍に気づかれぬようにゆっくりと扉へと向かった。