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6.燃え尽き症候群




 世界の活性化に成功したのではないか。あらゆる場所で生体活動の息吹を感知している。夢のような奇跡の光景だった。

 ああ、とうとうやり遂げたという感慨に浸ることにしよう……。

 だから、すこしだけでいい、休ませてくれ。



「博士、今すぐ頭を動かして下さい。ルートの修正依頼が山積みです

 それに何でもいいからルートを設置して欲しいというのが各地から」


「もう、何も考えられない」


 根幹システムを突貫工事で立ち上げたから、細部の詰めが甘すぎて、都合が良いところと悪いところが色々。それが複雑に絡まりあい、本当に大変な事態が目の前に積み上がっている。

 こことここを切った張ったと大立ち回りなのか小手先対応なのか、取りあえずなんとかなるっていう嗅覚ばかりが鋭くなっていく。サングゥインに、もっとも当てにされているところだった。

 

「駄目です。せめてシステムの保守整備に励んで頂かないと。

 何事にも改善、改善、改善です。要望を組み入れて更なる高みを目指しましょう。

 ルート発案者も管理側に無理矢理引き上げたんです。栄達だというのに現場にいたいと抵抗するのを引っ張った甲斐がありました。

 ばりばりと働いてもらうようになって随分と楽になったはずです」


「楽になったのかな……」



 それぞれが急速に拡大し、ある地区では全く別個のルート同士がニアミスどころか接触することも出始めて小競り合いが起きていた。派生ルート同士でもこじれるのに、引っかかるところさえないルートが接触すれば即もめるしかない。

 こじれる前にと、その仲裁に管理者が出張るのだが、管理者同士でけんけんがくがくとやり合っている。

 何のために管理職が出張ってるんだよ。手が出たり足が出たりと、元気がよすぎる。


 拳で語り合えるのは自ルートのみだから、陣地内に力ずくでも引き込もうと躍起に頑張る脳筋にはサングゥイン自らが仕置きを入れていた。

 文官だとばかり思っていたが、なかなかの武官ぶりであった。サングゥインが、拳で語りだした時には目を剥いた。

 あのルートは本人の趣味に走っていたのだと、やっと気づいた次第である。


 私の愛しのひとふでルートにも問題が勃発していた。

 横穴をあけて、素材をちょろまかそうとした奴らがいたのだ。学園所属のパーティである。許すまじ。

 速攻で横穴を塞いで、きっちりとルート制覇をしてもらった。ルートの脱出を許されるのは、全てのチェックポイントを通り過ぎた者だけだ。

 師長が泣きついてこようが、そこは絶対に譲れない。何が、「学園対抗魔法陣制作の素材に必要なのに」だ。おおいに時間のロスをすればいい。

 内壁対策は完璧だったが、まさかの外から横穴とは。開けられぬよう補強する羽目になって、痛い出費となった。費用請求したいくらいだ。




 ここは世界自体が隠居して誰もが黄昏れていたのに、彼等がここまで踏ん張ってくれるとは思いもしなかった。



 最初に動いてくれたのは、生きてる指針から後ろ向きの女性だった。でも自分の劣等感をネタにして捨て身で頑張ってくれた。

 今では、彼女の周りには信望者が溢れている。

 思っても見なかった慶事もおこった。『アナシステム』の稼働後、初めての次世代誕生は、胸ルートからだった。

 ルートを堪能していた憑依人カップルに、うっかりできちゃったらしい。


 生まれたばかりの新生児を見に行った。しつこいほど何度も長い時間に渡って赤ん坊を見ていたら、浮気相手と勘違いされて大騒動となったのも良い思い出だ。

 将来、「博士」と呼んでもらうのが楽しみでならない。



 破壊衝動のままに荒廃させたかの地を活性化したのは、荒んだ気配の残滓があった者達だった。己のしでかした所業の分だけでも元の状態に戻してみせると東奔西走してくれた。

 ルートの整地に力を使い果たして、散策からの始まりとなったが見事な活性化を打ち上げた。彼の地の成功が、その後の世界の好転を引っ張ったと言える。

 現在、彼等は冒険者ルートまで揃えており、ルート参加者に学園出身者も多くまじっているそうだ。冒険者ルート制覇の準備として、学園にルート情報を横流しして勧誘に励んでいる。

 学園管理者からは青田買いをするなとか、一本釣りはやめろ、頼むからやめてくれとの阿鼻叫喚な抗議がでているようだが、選ぶのは憑依人なのでとどこ吹く風の流しようである。



 強者達が通り過ぎることは許していても、ほぼ鎖国状態であった我が世界が門戸を開くと、首脳陣が決断した。

 閉じこもってばかりなのも飽きたとの弁であるが、本腰を入れて強者達の受け入れに乗り出したようだ。

 更に騒がしくなるのが玉にきずだが、世界が滅亡するよりはいいに決まっている。


 本格的に政治活動を再開し始めた彼等の面目躍如は異界間交渉において、遺憾なく発揮されている。何をもって勝ち負けの定義とするかは、見方次第であるが、私の見解からすれば負けなしが、続いてるのだ。

 私の仕事を増やさないという一点において、勝ちっぱなしだ。


 難点を言えば、首脳陣の枯れた感じが良かったのに、政治に熱くなりだした途端、なんだか生々しい。

 よそ様から、懐が深いといわれているそうだが、何だろう、利潤とか上前とかをがっぽがっぽしまい込むための深さじゃないかと近頃思えて仕方がない。




 私の願いは、皆が少しでも長く、どんなことをしても構いはしないから、しがみついてでも、その命を謳歌して欲しいということだけだ。


 その手助けを、もう十分したと思うのだ……。


「もう、何も思い浮かばないんだよ」


 再度、悄然とつぶやいてみせた。

 しかしサングゥインは、顔色も変えず無言で仕事を積み上げてくるのだった。鬼、鬼がいる。






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