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3.ルート制覇率





 「アネスト博士、広範囲域の活性化が確認されました」


 サングゥインの喜色溢れる報告に、ほぞを噛んだ。あそこは、ほとんど私の手が入らなかった地区だ。



 『アナダレシステム』を本格稼働させるにあたり、有識者の意見も反映させましょうとの建前と口を挟まれるのはご勘弁という本音が入り交じった状況に陥った時があった。

 異見を取り込むと、システムの根幹が揺らぎかねない恐れが出てくるのが怖かったからだ。

 サングゥインは、面白くなればそれでいいんじゃないですかとほとんど気にしていないようであった。私は、彼の暴走が一番怖かったのだが、そんなこと知りもしないのだろう。



 有識者の多様な発想の中に、オプションとして貴種流離譚を仕込みたいというのがあった。

 直接、研究所に乗り込み追加オプションの有効性を説いた男の慧眼には恐れ入った。


 ストーリーは簡単である。


 王族の隠し子が、王宮に迎え入れられるまでを大筋におき、辺境地から王都に向かうまで、わらしべ長者理論を超展開。

 最大限に注意することは、過酷な始まりは用意しない。道中も、命が危険に晒されるなど以ての外。

 ただ、自分の居場所がここではないようなそんな郷愁をかかえる心のままにあちこちを流離するのだそうだ。

 流離というか御仕着せの旅行、いやきっちり整備されたところでの散策がもっとも近い。


「こんなぬるいのでいいんですか」


 サングゥインの漏らした言葉に私も首肯した。


「強者達はあえてさまよっていると私は思ったのです。

 ならばこの地でも居場所さがしをしてもらえば満足するのではと考えつきました」


「居場所さがし?」


「マイナスから始まり修行や根性で勝ち取っていくという熱く胸たぎる展開は古いのです。今や盛っているところに更に盛っていくのが主流とつかみました。

 さまよう強者とはいえ、その中身は弱肉に違いありません。黄昏れていた私にすれば強者が弱肉というのは本当に都合がいい。

 居場所さがしをしている強者様方をおもてなしをするだけでいいのです」



 取り立てて難しい追加作業もなかったので、男の希望したぬるい貴種流離譚を首をかしげながらも採用した。

 憑依人が散策するだけで活性化するのか、懐疑的であったのだが結果は見ての通り。散策とは言え異様に長いルートをこれほどまでにさくさくと攻略してしまうとは思いもしなかった。


 敗北感に溺れてしまいそうだ。



 実は広範囲での活性化を目指すために、私もサングゥインも手の込んだルート造りに力を注いだのだ。


「私が精魂込めて作り上げたルートはまだ一割も進んでいない」


 朝昼晩と、ルートの進捗状況を確認するのが癖になっていた。一時期は、半刻もしない内にチェックを入れてしまうほどだった。


「博士のルートは迷路となっているのが、難しさの原因ではないですか」


「迷路など作ってはいない。道がどん詰まりになるのは嫌だからな」


「ああ、どの道もゴールに繋がっているんですね。すごいです。やり込めば全ルート制覇になるのか。幾通りもの過程を楽しむのもいいです」


「いや、違う。そこまで複雑なものを準備する気はない」


 サングゥインの賞賛が筋違いであると返答すれば、不思議な顔をされた。


「一筆書きだから、道なりに進めば誰でも到達できる。

 やはりルート侵攻していく中で集めなければならない素材が多過ぎたのが敗因なんだろうか」


「ひとふでがき?

 あの複雑な、どう見ても迷路にしか見えないのがひとふでがき?」



 私の渾身のルートをじっと眺めだしたサングゥインを放っておいた。




 それにしても、サングゥイン製作のルート制覇率は1%というあるかないかの細線が、進捗状況の横棒グラフに表示されている。

 前時代と評されたたぎる情熱を真っ正面に据えて、サングゥインはルートを作り込んだのだ。しかしながら、拳で語り合う設定にしたからか、このルートシステムを採用してくれる者がなかなか出て来なかった。


 いかに我が道を行く者であっても、他人からの評価は欲しい。頑張りをみとめて欲しいのだ。

 採用してくれる地区が出たときは、それだけで祝杯を掲げた。翌朝の二日酔いは、つらいものであったが幸せだった。

 それにしても、進捗1%は厳しい状況である。2周目であったならその遅延速度でも構わないのだが……。


「よければ、ワープ機能をつけてみる?」


 私の提案は、一笑に付された。コツコツと拳の強度を上げていくことに喜びを見つけた強者の意地を通させて欲しいのだそうだ。

 しかし、このままの侵攻速度だと半分もいかぬうちに到達地点が虚無化してしまうのではないか。



「そうだ。到達地点からも、拳好きを放てばいいのではないか。

 そうすればルートの真ん中あたりが頂上決戦となる」


「……それ、いいですね」


 サングゥインの賛同も得られたことだし、さっさと修正をやり終え、拳ルートに(改)の印をつけた。


 ルート改訂が功を奏したのか、拳好きの進捗具合が加速度的に上がった。

 これぞ、競争原理。

 風の噂で互いの存在を知り切磋琢磨しているようだ。相手よりも、ルート制覇率を上げる気満々である。



「博士、もうそろそろ拳ルートの制覇率が、ひとふでルートのに並ぶんじゃないですか」



 サングゥイン、お前、嫌な奴になったな。

 その高笑い顔はどうにかした方がいい。





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